【31】家の中にいた医者。〜パーカーの自供と、プロファイル開始〜
会議室のテーブルは、リッチモンド警察署から届いたテリー・パーカーに関する証拠品で埋め尽くされていた。
ベックとヴィヴィアンが顔を見合わせる。
そして、ベックが薄いブルーの瞳をまん丸くして呟く。
「凄い量だな……」
エレノアが苦笑する。
「これでも、リッチモンド警察署がきちんと整理しておいてくれたお陰で、この量で済んだんです。
テリー・パーカーの家の中は、足の踏み場も無かったようで。
では、失礼します」
エレノアが会議室から出て行く。
すると、イーサンが言った。
「パーカーは、三ヶ月前までは"普通の生活"を送っていた。
そのことを念頭に証拠品を見てくれ。
まず、彼の自供はビデオを流そう」
ベックとヴィヴィアンが椅子に座ると、イーサンが立ったまま、リモコンを操作する。
すると、大型スクリーンにパーカーと二人の刑事が映し出された。
パーカーは身体を前後に振っているが、表情は落ち着いていた。
刑事が穏やかに訊く。
「じゃあテリー。
まず、どうして今回、幼い子供達を殺そうなんて思ったか、聞いていいかな?」
「いいよ」と答えるパーカーも、幼い子供のような話し方だ。
「僕はずっと前に、パパが天国から宇宙人を探せって命令されてた。
そして、ママから宇宙人を探す方法を教えて貰って、その通りにしてた。
でも、それはいけない事だって病院の先生から教えて貰った。
だから、止めた。
でも、ママまで天国から命令しだしたんだ。
パパとママが二人揃って命令するんだ。
逆らえない」
「成る程ね」と刑事は静かに頷くと、穏やかに訊いた。
「でも、君のママは三ヶ月も前に亡くなった。
どうして、突然、命令に従ったの?」
パーカーが悲しげに答える。
「ママが……死んじゃった時は……何も起きなかった……。
僕は普通に働いて、普通の生活を送っていた。
でも、ママが死んじゃって二週間を過ぎた頃、ママの声がしたんだ。
『テリー、私よ』って」
刑事がやさしく頷く。
「それはどんな風に聞こえたのかな?」
「頭の中」
「成る程。主治医の先生に連絡はしたんだよね?」
ブンブンと縦に首を振るパーカー。
「した! 先生は直ぐに病院に来なさいと言ってくれた。
だから、僕は病院に行った。
先生はきちんと薬を飲むようにって言って、落ち着く点滴もしてくれた。
それに翌日も、先生が来てくれたんだ!」
刑事が穏やかに促す。
「テリー……よく思い出して。
先生はあなたのお宅へは、行っていないの。
先生はその日、ずっと病院にいらしてたし、あなたのお宅の玄関の防犯カメラにも、先生は映っていない……というか、誰も映っていないのよ」
パーカーは淡々と答える。
「でも、いたんだ。
僕も驚いたよ。
でも先生は言った。
僕の為に、先回りしていたんだって。
そして……先生と話す内に、凄く眠くなって、僕はベッドに寝た。
そして、少しずつ、何かが変わっていった」
「何かとは?」と刑事。
「よく分からない……。
でも、歯ブラシの色や、マグカップの柄が違うんだ。
そして、どんどん家の中が変わって行って……ある日、パパの声が聞こえた。
『やあ、テリー! ちゃんと宇宙人を探しているかい?』って」
そこまで言うと、テリーはブルブルと震え出した。
「僕は『ごめんなさい、探していません』と答えた。
それに、ちゃんと言ったんだ。
『宇宙人なんていないよ』って。
そしたら、ママの声がした。
『宇宙人はいるわ! ママの言ったことを忘れたの?』って。
だから、また先生に電話を掛けた。
そうしたら、先生が『薬をちゃんと飲んでいるかい?』って言った。
だから、僕は『飲んでいます』と答えた。
そうしたら、先生は『それなら大丈夫』って言ってくれた」
刑事の一人が穏やかに首を横に振る。
「ねえ、テリー。
先生はそんな電話は受けていないし、あなたは先生に電話をしていないの。
私たちは、あなたのスマホも家の電話の通信記録も確認したの。
あなたは、お母さんの声が聞こえて、病院に行って以来、先生には会っていないし、電話も掛けていないのよ。
誰にもね」
すると――
パーカーの身体の震えは止まり、冷たい目をして、刑事達を見た。
「先生の言う通りだ……!
警察は僕を逮捕したら、そう言うって言ってた!
僕はみんなのために、宇宙人を見つけたのに……!」
そこで、映像が止まり、会議室が明るくなった。
イーサンが静かに語る。
「ここでパーカーは自供を止めた。
黙秘では無く、『この先どうなるか、先生に聞いているから、もういい』そうだ。
第一の疑問点は――
パーカーの本物の主治医では無く、翌日『家の中に先回り』していて、それからパーカーが連絡を取っていたという医者が実在するか、だ。
どう思う?」
ベックが思案げに口を開く。
「こう言うとおかしく聞こえるかも知れんが……パーカーの自供は筋が通ってるんだよな。
二週間経って、母親の声が聞こえた。
これはあり得るよな?
あれだけ重度の妄想を抑え、パーカーを正常な状態にしてくれていた薬が切れた頃だ。
そして、自分でも異常を感じて主治医に連絡を取って、病院まで行ってる。
判断力までは落ちていなかったんだ。
問題は、点滴もされ、きちんと薬を飲もうと決めたパーカーの前に現れたという、"家の中にいた医者"の方に聞こえるんだよ」
ヴィヴィアンも「私も!」と勢い良く話し出す。
「もし、パーカーが――まだ幻覚か本物か分からないけど――その翌日現れた"医者"にさえ接触しなかったら、主治医の先生に支えられて、殺人なんて起こさなかったと思うの!」
イーサンのアイスブルーの瞳がギラリと光る。
「俺も同感だ。
これは推測に過ぎないが、パーカーの主治医が、パーカーが二週間も薬を飲んでいない、また妄想が始まったと知ったら?
しかも、パーカーの薬の管理も、カウンセリングの送り迎えもしてくれていた母親は亡くなっている。
そうなれば、パーカーの妄想を抑える為の"ボランティアの医者達"に連絡した可能性は高い。
だが、その証拠は使えないだろう。
パーカーの弁護士が必ず心神喪失の線で動き、主治医は"ボランティアの医者達"を守秘義務を盾に明かさない。
今まで"ボランティアで"協力してくれていた医者達を、裁判の巻き添えにするとは考えにくい」
ベックがすっくと立ち上がる。
「つまり、この中にその"医者"の存在を示す物があるんだな!」
「存在でなくて、いい。
合図だ」
そう、イーサンが答えた途端、スピーカーからチャールズの声がした。
「リッチモンドのカフェで、セシルの電話の電源を入れた人間が分かりました!
カフェのウェイトレスです!」
「彼女は何と?」
イーサンの短い問いに、チャールズが口早に答える。
「客が駐車場で拾って届けたんです!
それで、ウェイトレスが電源を入れたそうです!
彼女が電源を入れる様子が防犯カメラに映っていたので、本人に問い合わせて、確認を取っておきました!」
「良くやった。
仕事を続けろ」
一瞬の間の後、チャールズが「ハイッ!」と言って、スピーカーがブチッと切れる。
ヴィヴィアンが嬉しそうに言う。
「きっとセシルだわ!
防犯カメラに自分が映らないようにしたのよ!」
その刹那――
ヴィヴィアンの顔は、喜びから驚愕に変わった。
ベックも息を呑んでいる。
会議室に入って来た、ハニーブロンドと青い瞳の美貌の人物のせいで――
そして、イーサンが言った。
「さあ、プロファイルを始めよう」
こまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
次回も読んで下さると嬉しいです☆
毎日17時更新☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪




