【26】報復の矛先は、テクニカルアナリスト。〜黒塗りの真実を開く時〜
会議室には、オラクルのメンバー全員とチャールズとエレノアが円卓に着いている。
イーサンは一人、モニター画面を背にして立っていた。
イーサンが書類用の箱から、セシルのS.A.G.E.のバッジと短剣が収められたホルスターを取り出し、静かにテーブルに置く。
チャールズ以外の皆の目が釘付けになる。
最初に口を開いたのはベックだ。
「何だよ、それ。
まさかセシルが辞めたって言うんじゃないだろうな!?」
イーサンが「違う」と即答する。
そして、
「セシルはストーカーに脅され、出勤して僅か5分でこれを残し消えた」
と続けた。
「ストーカー!?」と皆が声を上げる。
「そうだ。
実は金曜の早朝にチャールズのスマホに……」
イーサンは全ての事情を説明した。
しんと静まり返る会議室。
エレノアがポツリと言う。
「私達にも知らせて欲しかったです……。
チーフのやり方が最善だったとは思いますけど」
すると、カリスタがイーサンの目を見て言い切った。
「そうね。
チーフの行動は最善だった。
でも最初に、"間違った"プロファイルをチャーリーに伝えた。
その"間違った"プロファイルだけでも、私達に教えてくれても良かったわ」
ヴィヴィアンが瞳を見開く。
「どういうこと!?」
カリスタが淡々と説明し出す。
「簡単な事よ。
チーフは、ストーカーが自分の力の証明の為に、セシルのスマホでセシル本人の裸の画像を撮り、チャーリーに送信して、チャーリーからチーフに報告させたのは、オラクルへの挑戦だと言った。
でもそれは、チャーリーを動揺させない為の"間違った"プロファイルだったのよ。
挑戦ならチーフに直接画像を送信すれば良いでしょう?
その方がダメージが大きいし、結局チャーリーがセシルのスマホを調べる事に、変わりは無いんですもの」
ベックが深く頷く。
「そうだよな!
イーサンに直接メールしなかったのは、ストーカーの特徴と矛盾する。
ストーカーは、ストーキングする相手しか目に入らない。
それ以外に関心を持つのは、邪魔者だ。
セシルに、部屋に招き入れられる程信頼されていたのなら、邪魔者なんていないも同然だし、恋愛妄想がもっと膨らんで、セシルしか目に入らなくなるだろう!」
ヴィヴィアンも即座に口を開く。
「でも犯人は、セシルに嫌われるリスクを犯してまで、セシルを眠らせ、裸の写真を撮り、何故かチャーリーに送った。
でも、チャーリーは邪魔者じゃ無いわよね?
犯人がもうセシルに信頼されてるって事は、チャーリーがセシルとストーカーの邪魔をしてないって事なんだから。
セシルの裸の画像を撮る理由にもならないわ。
ストーカーは確かに存在する。
だけど、これは個人的な嫌がらせ、報復よ。
チーフとチャーリーに対する」
チャールズが、ガタガタと音を立てて椅子から立ち上がる。
「俺!?
この愛と平和で出来てる俺に報復!?
何でだよ!?」
アワアワしているチャールズに、イーサンが静かに告げる。
「落ち着け、ハーパー。
君は悪く無い。
ただ、ストーカーには、邪魔者だと思われている。
君が動揺すれば、週末の計画は上手く行かなかった。
だから、わざと"間違った"プロファイルを伝えた。
すまん」
チャールズが気が抜けたように、ぽすんと椅子に座る。
イーサンが皆を見渡す。
「まず、ハーパーの行動を事件ごとに振り返ってみよう。
ストーカーは絶対に事件の関係者だ。
でなければ、ハーパーに拘る理由が無い。
ハーパーはここ8ヶ月、現場には出ていないのだから、ハーパーがS.A.G.E.本部にいて、オラクルの一員となり、オフィスでした事が、ストーカーの怒りを買ったと思うのが当然だ。
じゃあハーパーはここで何をする?
仕事だ。
ハーパー無しでは、事件は解決しない」
カリスタが頷く。
「そうしましょう。
じゃあまず一番最近の事件から」
と言うと、エレノアが立ち上がり、スクリーンにテリー・パーカーの逮捕時の写真を映し出す。
「リッチモンドのスピード解決した事件だな!」とベック。
イーサンが即答する。
「そうだ。
そしてパーカーは、子供が宇宙人だと確かめる為に殺人を犯していた。
そして、今朝セシルに掛かって来た電話のメッセージでも、宇宙人と言っていた。
ハーパー、再生を」
「はい!
どうぞ!」
チャールズがラップトップのキーボードを叩く。
すると、男の声が会議室に流れ出す。
『宇宙人をあと何人確かめたいか知りたいのなら、今すぐオラクルを辞めて、セレニス国際空港に行け』
男の声が終わった途端、ベックが声を上げた。
「これだ!
『確かめたいか知りたいのなら』っていうのは、コイツはセシルがメッセージ通りに従わないなら、リッチモンドの様な事件をまた起こすって言ってるんだよ!」
「でも待って」とカリスタが首を傾げる。
「あれは凄く特殊な事件だった。
スピード解決出来たのだって、犯人が典型的な無秩序型だったと言う事と、セシルが『玄関の鍵を一人で開けて家に入る子供』がターゲットだと即座に見抜いた事と、チャーリーが抹消された過去の記録を掘り起こしたからよ。
パーカーは『いつか』は捕まったと思うわ。
でも、もっと犯行を続けた後の方が、可能性としては高い。
そんな事件を簡単に繰り返せるものかしら?
私達が1日も掛からずにパーカーを逮捕出来たのは、パーカーが型通りの行動を取った事と、セシルとチャーリーの才能のお陰なんですもの。
そして何故セシルは、ストーカーが同じ様な事件を繰り返せると信じたの?
言い換えれば、セシルは子供が宇宙人かどうかを信じて確かめたがっている犯人予備軍がいる事を、ストーカーは知っていると信じたという事でしょう?
これにも何か意味があるんじゃないかしら?」
イーサンがじっと一点を見つめると、言った。
「カリスタの言う通りだ。
そして、"宇宙人"という言葉で、リッチモンドの事件を連想させたのも、その通りだろう。
ただ、セシルが何故、ストーカーの荒唐無稽な話を信じたかという疑問が残る。
それにパーカーは簡単に逮捕出来たが、余りに簡単過ぎた。
ストーカーがそこ迄計算しているのなら、あの事件には、犯行以外に意味がある」
「ちょっと待ってくれ」とベック。
「チャーリー、パーカーは少年院時代に出会った精神科医以外の医者に掛かってないか?」
チャールズがキーボードを素早く叩いていく。
「……うーん……その先生がずっと主治医のまま!
あ!
でもパーカーの妄想を抑えて、大学に進学させて普通の生活を送らせるのは、かなり大変だったみたい!
特殊な症例と言う事で、他にもボランティアで複数の精神科医が、パーカーの治療方針や、薬や、カウンセリングの効果を主治医に助言してる!
但し、非公開だから医師の名前は分からないけど」
すると、イーサンの鋭い声がした。
「セシルの母親の主治医も、ボランティアで集まった精神科医達と、新薬についての非公開のディスカッションをしていたな」
チャールズが「はい!」と答える。
皆の視線がチャールズから、イーサンに集中する。
そして、イーサンは言った。
「では、セシルを助ける為に、セシルの経歴で黒塗りされている部分を、皆に話そう」と――
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