【25】五分で消えた天才。〜宇宙人を確かめるという脅迫〜
イーサンのアパートメントに着くと、イーサンはセシルを起こし、自分の部屋へと向かった。
それから、セシルのアパートメントには自分が荷物を取りに行くから、リストを作って欲しいと言った。
セシルは何の疑問も持ってないようで、恐縮しながらリストを書くと、イーサンに渡した。
セシルのリストは、驚く程少なかった。
仕事用の着替えが三セットと、靴が一足だけだ。
セシルは、普段着はチャールズが今回の出張前夜にくれたお泊りセットを使うしと、屈託なく言った。
だが、イーサンは本が一冊も無いことが気になった。
それを訊くと、セシルは恥ずかしそうに、
「S.A.G.E.の元のオフィスの本を、まだ全部オフィスから運んでないので」
と答えた。
そうしてイーサンは、一時間も掛からずセシルのアパートからリストの洋服と靴を取りに行って、ついでに夕食も買って帰った。
セシルはイーサンに言われた通り、鍵の掛かったイーサンのアパートメントの部屋に籠もっていた。
それから、イーサンは自宅と同じフロアにある空き部屋へ、セシルを案内した。
その部屋は元々S.A.G.E.の持ち物で、イーサンは丁官に事前に許可を得ていたのだ。
セシルは、
「僕の部屋より綺麗に掃除されてます!」
とはしゃいでいた。
イーサンは荷物と夕食を渡すと、防犯セットの仕組みの説明をし、明日の朝、7時30分にうちに来るようにと言った。
セシルはにっこり微笑み、「はい!」と答えた。
翌朝、セシルは時間通りに、イーサンの部屋の玄関をノックした。
イーサンの狙い通り、セシルはイーサンに送り迎えしてもらうことを、『同じ場所から出発して帰る、合理的な手段』くらいにしか思っていない。
そうして二人で、オラクルのオフィスに入る。
まだ課員も、まばらにしか出勤していない。
イーサンは一直線に、中二階の自分のオフィスに向かう。
そしてオフィスに入ると、まず照明のスイッチを入れ、鞄をデスクに置いた。
それから、ガラス張りのオフィスのブラインドをリモコンで全開にする。
セシルはデスクに着き、ファイルを捲っていた。
イーサンもデスクに向かい、衛星電話を鞄から出すとデスクに置き、パソコンを立ち上げ、山積みのファイルから一冊を抜き取り、書類を書き始める。
イーサンが自分のオフィスに入ってから五分後。
いつも通り明け放たれているドアがノックされた。
イーサンは書類から目を離さず、「どうぞ」と応える。
「少しよろしいでしょうか?」と、エレノアの声がする。
「何だ?」と訊くイーサンは、未だ書類から目を離さず、記入を続けている。
エレノアが遠慮がちに答える。
「セシルから、チーフに渡してくれと頼まれまして」
イーサンが顔を上げると――
エレノアが書類用の箱を抱えて立っていた。
イーサンが立ち上がり、エレノアから書類箱を受け取ると、エレノアが「失礼しました」と言ってオフィスを出て行く。
イーサンが静かに蓋を開ける。
イーサンは我が目を疑った。
箱の中には、セシルのS.A.G.E.のバッジと、愛用している短剣がホルスターごと入っていたからだ。
イーサンが反射的に窓からセシルのデスクを確認する。
デスクには、誰もいない。
イーサンが「エレノア!」と声を上げる。
エレノアが慌てて戻って来る。
「何でしょうか?」
「セシルは何処だ!?」
イーサンの迫力に、エレノアがビクッと肩を竦めながら答える。
「……あの……チーフの命令で調査に行くと言って、オフィスを出て行きましたけど……」
イーサンが鋭く言う。
「セシルとの会話と行動を正確に話せ」
エレノアが即座に口を開く。
「セシルは、チーフに直ぐに渡してくれと言ってその箱を私に渡し、チーフの命令で調査に行くと言って、オフィスを出てエレベーターに乗りました。
以上です」
イーサンの厳しい声が飛ぶ。
「君はセシルを追え。
この建物から出ていないか、確認しろ。
セシルを見付けたら、俺が呼び戻していると言って、どんな手を使っても良いから連れ戻せ!」
「はい!」
エレノアが駆け出して、イーサンのオフィスを出て行く。
イーサンは素早く衛星電話を掴むと、短縮ダイヤルを押した。
チャールズの衛星電話が鳴る。
チャールズは、バッグの一番上に置いておいた衛星電話を取り出すと電話に出た。
「はい、チーフ!」
「ハーパー、今、何処だ!?」
珍しく焦ったイーサンの声に、チャールズが慌てて答える。
「エレベーターの中です……って、今六階に着きました!」
「よし、君のオフィスで落ち合おう」
「はっ、はいっ!」
チャールズが慌ててオフィスに向かうと、ドアの前には既に書類用の箱を持ったイーサンが立っていた。
チャールズが無言でキーパッドに手をかざす。
カチッとした音と同時に、イーサンがドアノブを掴み、素早くチャールズのオフィスに入る。
チャールズもイーサンに続いてオフィスに入ると、ドアを閉め、鍵も掛けた。
イーサンは書類用の箱をデスクの空きスペースに置くと、チャールズを見た。
イーサンの鋭い眼光に、チャールズが思わず震える声で言う。
「何なんですか……?」
「セシルが消えた」
「はあ!?」
「これを見てくれ」
イーサンが蓋を開けた箱を指差す。
チャールズが恐る恐る箱の中を覗き込む。
そしてチャールズは目を見開くと、「何これ!?」と叫んだ。
イーサンが静かに話し出す。
「君にも話した通り、俺は今朝セシルと一緒に出勤した。
そして俺は、自分のオフィスから、セシルがデスクに着いたのを確認してから仕事を始めた。
そこにエレノアが、この箱を持ってやって来た。
箱の中身を見て直ぐにセシルを確認したが、姿が無かった。
エレノアによれば、セシルはこの箱を、俺に直ぐに渡してくれと言ってエレノアに渡し、自分は俺の命令で調査に行くと言って、オフィスを出てエレベーターに乗って行った。
その間、五分だ。
どんな小さな事でも良い。
何か心当たりは無いか?」
チャールズが素早くデスクに着くと、パソコンを立ち上げる。
華麗にキーボードを叩きながら、チャールズがパソコン画面に向かって言う。
「チーフ、まず怒らないって約束して下さい」
「何か知ってるのか?」
「約束!」
「分かった。
君が何をしていようが怒らない」
「あのですね〜」
チャールズが画面を睨み付けながら、キーボードを弾き続ける。
「実は、セシルの裸の画像を送って来たストーカーの最低野郎の存在を、チーフに聞かされてから、セシルのスマホだけじゃ無く、オラクルのセシルのデスクの固定電話も記録してたんです」
「それで?」
「セシルのストーカーの件を聞かされた金曜日には、仕事関係の電話だけ。
土日は何も無し……そして……出た!」
「何だ?」
「今朝の8時24分20秒に着信がありました!
時間は約30秒!
内容は……今、再生します!
『宇宙人をあと何人確かめたいか知りたいのなら、今すぐオラクルを辞めて、セレニス国際空港に行け』
以上です!」
イーサンが頷く。
「……そうか……そういう事か。
だからセシルは、スマホだけは持って行ったんだな」
チャールズがガバッとイーサンに向かって振り返る。
「どういう事ですか!?
それにこのメッセージ、意味不明なんですけど!?」
イーサンのアイスブルーの瞳がギラリと光る。
「いいか、これから三時間以内に、一度だけセシルのスマホの電源が入るだろう。
君はその位置を特定してくれ。
それから、セレニス国際空港の全ての監視カメラに、セシルが映ったら分かるようにしておいてくれ。
どんな方法を使っても構わない。
それと、この電話の発信元は?」
「……えーと……セレニス・ベイの議事堂裏の公衆電話です!」
「そうか。
じゃあ全員を会議室に召集しろ。
君も来い」
「え!?
俺も!?
あ、はい!」
イーサンはそう言うと、あたふたしているチャールズを残し、足早にオフィスを出て行った。
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