【24】空振り任務の真実と、次の一手。〜傷付いたプライドの行方〜
そして、翌朝。
一睡もしていないイーサンは、セシルの朝食を用意し、セシルに「ダイニングルームから出るな」と一言告げると、さっとシャワーを浴びた。
それから、ダイニングルームに戻り、
「俺は書斎で仕事を済ませて来る。君は指定範囲内でリラックスしていろ」
と言い残し、書斎に向かった。
そうして、イーサンは書斎に入ると、ドアに鍵を掛け、まずスマホを取り出し、二言三言交わすと電話を切った。
それから衛星電話の短縮ボタンを押す。
衛星電話からは、元気なチャールズの声が響く。
「はいは〜い!
何なりと!」
「ハーパー、不審な着信はあったか?」
イーサンの問いに、チャールズが即答する。
「チーフもご自分のスマホとパソコンを見て貰えれば分かりますけど、相変わらず犯人は沈黙状態です!
不気味〜!」
「ああ、それは確認した。
それ以外に、何か無いか?」
チャールズがキッパリと答える。
「ありません!
セシルのスマホの電話帳に載っている番号やアドレスからも無いですね。
セシルは元々、メールやメッセージが好きじゃないから、親しい人には用事があれば直接電話を掛けるし、連絡が無いのは週末だからじゃないでしょうか?
セシルのスマホは鳴ってないですよね?」
「君の言う通りだ。
何処からも着信は無い。
それから、セシルの母親の病院でも異常は無い。
今、確認した」
チャールズが弾んだ声を上げる。
「良かった!
じゃあストーカーはセシルを諦めたんでしょうか?」
イーサンが冷静に答える。
「それはまだ分からない。
13回電話した後に、46回も立て続けに電話をして来るようなヤツだからな。
セシルの裸の画像を撮る事に成功して、自信を増したところに、セシルが消えて連絡も取れなくなった。
この犯人は、異常にプライドが高く、粘着気質で野心家だ。
そのプライドが傷付けられてもセシルを追うか、セシルに似た人間に怒りをぶつけるか……。
今は五分五分といったところだな」
チャールズが焦った声を出す。
「それじゃあセシルは明日からどうやって生活するんですか?
休暇を取らせるとか?」
「いや、基本的な生活パターンは変えない。
もしストーキングが続いていたら、生活パターンを変えたセシルに、犯人は"勝った"と思うだろう。
この週末で傷付いたプライドを取り戻すどころか、自信も取り戻し、以前よりも自信を増す。
そうなれば、より"過激"なストーカーになる。
セシルは当分、俺のアパートメントの同じ階に住まわせる」
「えっ!?」というチャールズの驚きの声を無視して、イーサンが続ける。
「そうして、出退勤も俺が一緒に行動する。
仕事は普段通り続けさせる。
これならば、もしストーキングが続いていても、セシルは"警戒はしているが、ストーカーに屈していない"というメッセージになる。
それと、セシルの母親が入院している病院の監視は、今夜午前0時をもって解除する。
セシルと連絡が取れなくなっても、犯人はセシルの母親を利用するどころか、近付けさえ出来なかった。
母親の方は完全に諦めただろう。
君には当分、今のままの体制で、セシルのスマホの監視と記録を頼む。
それと、留守番電話のメッセージを、元の声に戻せないか試してくれ」
「分かりました!
でも……」
口籠るチャールズに、イーサンが即座に訊く。
「何だ?」
「セシルに何て言って、引っ越しさせるんですか?
セシルは納得するまで、チーフを質問攻めにしますよ?」
イーサンがフッと息を吐く。
「漏電の原因がセシルの部屋に近く、復旧に一ヶ月は掛かると言う。
大家さんにもストーカーの件を話して、口裏を合わせてくれるように頼んである。
着替え等の必要品は俺が取りに行く。
そして、セシルはこの週末、この別荘で過ごす為の俺の嘘を信じた」
途端に浮かれた声を出すチャールズ。
「なる程〜!
流石パーフェクトチーフ!」
イーサンの冷静な説明は続く。
「それと、これから別荘を出発する。
君のアパートメントに、セシルの仕事用の鞄と、出張バッグの中身があるだろう?
遅くとも三時間後には着くから、まとめておいてくれ。
手数を掛けて申し訳無いが、君の家に着いたら連絡をするから、車まで持って来てくれないか?
セシルを一人で、車には置いておけないのでね」
チャールズが元気良く答える。
「アイアイサー!
それと、手数を掛けて申し訳無いなんて、二度と言わないで下さいね!
じゃあ、また後で〜!」
チャールズからの通話がブチッと切れた衛星電話を手に、イーサンは素早く書斎を出て行った。
イーサンはダイニングルームに戻ると、セシルに一言言った。
「セレニスの本部に戻るぞ」と。
セシルは昨夜のように、青い瞳をまん丸にしている。
「……えっ……!?
でも情報は!?」
イーサンがセシルの目を見て、淡々と答える。
「今週末では無くなったそうだ。
先ほど、書斎で確認した」
セシルが、はあ〜っと深く息を吐く。
「そう言うことも、あるんだ……」
イーサンの口元に僅かな笑みが浮かぶ。
「君に昨日言ったことに、付け加えよう。
現場では"待つ"ことの方が"動く"よりも遥かに多いが、空振りはもっと多い。
では、帰り支度をして来てくれ。
10分後に玄関ロビーで集合だ」
セシルはクスリと笑うと、言った。
「そうですね!
では10分後に!」
それから――
イーサンが来た時とルートを変えて、昨夜セシルが見た湖の側を通ってやると、セシルはニコニコと笑って、
「チーフ!ありがとうございます!」
と言った。
だが、湖を過ぎて数分もすると、セシルは眠ってしまった。
セシルの寝顔は美しく、あどけない。
イーサンの脳が分析を始める。
(ストーカー……お前はまず、セシルの外見に惹かれ、セシルの信頼を勝ち取り、強制的に眠らせてこの寝顔を見て、あの写真を撮ると決めた……。
つまり……信頼を勝ち取れた事が大きな転換期だったんだな)と。
イーサンが「5分後に着く」とチャールズのスマホに電話を入れて、チャールズの住むアパートメントにきっかり5分後に着くと、チャールズはアパートの前で待って居てくれた。
イーサンがさっと車から降りると、チャールズが「はい、これです!」と言って、セシルの仕事用の鞄とカラフルな紙袋を差し出した。
イーサンが「ありがとう」と言って受け取る。
チャールズが心配そうに、「セシルは?」と声を潜めて訊く。
イーサンが静かに答える。
「途中の休憩で1回起きたんだが、また眠った。
初めての俺と二人だけの出張が、空振りに終わって疲れが出たんだろう」
チャールズは「そうですね!」と言うと、助手席側を覗き込み、イーサンに向かってにっこり笑った。
「セシル、いつもの三倍増しに子供みたいな寝顔してる。
安心してますね!」
「らしいな。
漏電の件を話したら、『セレニス州におけるアパートメントの漏電の件数とその発生原因』を1時間以上話していた」
イーサンの言葉に、チャールズがアハハと笑う。
「それなら大丈夫です!
チーフ!お疲れ様でした!」
この時、イーサンでさえ予測していなかった出来事が、明日、起こることを、ここにいる三人は知らない――
こまでお読み下さり、ありがとうございます(^^)
次回も読んで下さると嬉しいです☆
毎日17時更新☆
Xはこちら→ https://x.com/himari61290
自作のキービジュアルやキャラクターカード貼ってます♪




