【21】声を繋ぎ合わせた脅迫〜留守電に隠された意図〜
直ぐに衛星電話から、チャールズの勢いの良い声がする。
「チーフ!
無事に別荘に着いたんですね!
セシルのストーカーは!?」
イーサンは低く答える。
「大丈夫だ。
誰にも尾行されていない。
昨夜セシルのスマホに二件あった電話の発信元は判明したか?」
チャールズが即答する。
「それが、やっぱり使い捨て携帯でした。
しかも二件とも携帯を変えています。
基地局は分かりました。
前回と同じ!
セレニス・ベイの基地局を経由しています。
それと、チーフの言う通り、犯人は俺の家にセシルが泊まって焦っているようです。
二件目には、留守番電話にメッセージを残しています!」
「俺も聞いた。
『例の件は進んでいますか?お母様の件でもお話があります。至急連絡を下さい。』だったな。
何か分かったのか?」
すると、チャールズが確信を持った声で言った。
「あれは犯人の声じゃ無いと思います。
というか、一人の人間の声でも無かった!
良く似た声を単語毎に繋げて、フィルターを掛けているんです!」
「それは難しい技術とは言えないな」
イーサンの冷たい声に、チャールズも「同感です!」と答えると、一気に話し出す。
「完璧にやろうと思えばそれなりに難しい。
でも、この犯人のやり方は稚拙です。
中高生が遊びで動画に使うレベル。
パソコンやスマホが使えれば、誰でも出来ます。
セシルのスマホにインストールした闇アプリといい、この犯人は、あまりコンピュータ関係に詳しくないですね!
それに、少しおかしな点があります!」
「何だ?」とイーサン。
「複数の人間の声を、ネットで拾ったりしていないんです。
どうやって"その声"を集めたのかが疑問なんですよね……!」
「続けろ」
チャールズが直ぐ様言った。
「それが……全ての単語に同じ雑音が混じってるんです!
空気の振動や、椅子が軋んだ音や、ペンの音など。
多分、ICレコーダーで録音した物だと思われます!」
イーサンの鋭い声がする。
「そうだな。
だが、単語と言えども、強制されて話している様子は無かった。
そうなると、犯人は人の話を聞いて、録音しても相手に警戒されない人物だ。
職業は絞られる。
それで、セシルの母親に何か変化はあったのか?」
チャールズが残念そうに答える。
「セシルのお母さんの主治医の先生に、『セシルの同僚ですが、お母様のお見舞いに行きたい』と直接問い合わせたんですけど、先生とは繋がりませんでした。
単に土曜日だからという訳では無くて、この土日は大切な打ち合わせがあるから、月曜日にまたご連絡下さいと秘書に言われました。
先生と繋がらないので、当然ながら、セシルのお母さんとも話せませんでした」
イーサンの目がギラリと光る。
「だが、犯人は『お母様』という単語をわざわざ出した。
焦っているセシルが、絶対に連絡をするように仕向けたんだ。
それに、セシルの母親が入院生活を送っている事を知る人間は少ない。
『ある理由』によって、近しい親族以外には伏せられている状態だ。
それを犯人がどうやって知ったのかも、犯人を知る手掛かりになる」
「そうですね!」というチャールズの力強い声に、イーサンが鋭く答える。
「そして、この二件の着信とメッセージは、セシルのスマホから、君が消去してある。
つまり、セシルから犯人には連絡は絶対に行かない。
そうなれば、犯人の焦りが募って、今回以上のミスを起こす可能性が高い。
休みに済まないが、今まで通りセシルのスマホを監視しててくれ」
「了解です!」とチャールズが答えると、イーサンが、ほんの少し柔らかな声で言った。
「それから、昨夜はセシルを眠らせてくれてありがとう。
手数を掛けたな」
すると、チャールズが得意気に話し出した。
「いえいえ!
セシルがいくら信頼してるからって、他人を家に入れてまで話すなら、何かセシルの興味を引くような資料でも見せられてたんじゃないかと思って!
それなのに、セシルの部屋には何も無かった。
だから、犯人はセシルに何らかの資料を見せて、セシルに記憶させたんじゃないかなーと閃いて!」
「なるほど」
というイーサンの言葉を受けて、チャールズが続ける。
「セシルは、その資料を記憶して、頭の中で秘密裏に分析とか解析をしてるんだろうと思ったんです。
昨日のセシルは書類仕事しか無かったし、セシルなら書類仕事と同時進行出来るだろうし。
だから、俺がボランティア活動している被害者家族の会で、不眠に悩んでる人に提供しているハーブティーを、濃い目に煮出してサングリアに混ぜたんです。
脳をリラックスさせれば、一気に疲れが出るだろうと思って。
効き目バッチリ〜!」
「そうか。
君の閃きは素晴らしい。
犯人とセシルの行動の意味づけの可能性になり得る。
君はプロファイラーの素質もあるようだ。
では、また」
イーサンに思いもかけずに褒められて、チャールズは嬉しさを隠そうともせず、弾んだ声で言った。
「ありがとうございます!!
では!」
そう二人が言って、同時に衛星電話を切ろうとした、その時。
ローテーブルに置きっぱなしにされていたセシルのスマホが鳴った。
セシルのスマホが、留守番電話に切り替わる。
「例の件は後回しにして下さって結構です。
それよりも、お母様が心配じゃないんですか?
何かあってからでは遅い。
直ぐにこの番号に折り返して下さい」
男の声は、それだけ言うと切れた。
イーサンが衛星電話に向かって、冷徹な声音で言う。
「ハーパー、聞いてたか?」
「はい!チーフ!
今、掛かって来た携帯を特定中……って、また使い捨て携帯です!
でも基地局は……出た!
ミネソタ州のロチェスターです!」
「セシルの母親は、ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨークリニックに入院している。
君も知っての通り、世界屈指の病院だ。
セシルの画像と、前回の留守電と、今回の留守電のメッセージがあれば、セシルがストーカーに脅迫されていると立証出来る。
今回の件が片付くまで、ミネソタ支局に連絡して母親を警護しよう」
すると、チャールズが焦った声を出した。
「で、でも画像って……!
セシルの裸の画像を、ミネソタ支局の人に見せるんですか!?
それに、お母さんを警護するって……犯人に気付かれませんか!?」
慌てて捲し立てるチャールズに、イーサンが冷静に語りかける。
「ハーパー、落ち着け。
セシルの裸の画像は、犯人逮捕の礼状を取る時までは誰にも見せない。
セシルの母親は、今迄通り入院生活を送る。
ただ、母親に近付く不審な人間がいないか、支局の人間を病院スタッフに紛れて潜入させて、24時間体制でガードするんだ。
君は先程掛かって来た留守番電話の音声の分析と、病院の職員と、病院に出入りしている人間の洗い出しを頼む。
ここ1週間で、急に金回りが良くなったり、新たに病院に入り込んだ人間を徹底的に探し出せ。
主治医の先生には、俺から連絡を取り、事情を説明しておく。
それと、セシルのスマホから、今の着信と留守電のメッセージも完全に消去することを忘れるな」
チャールズが即答する。
「了解です!
超特急でやります!
ではまた!」
チャールズからの通話がブチッと切れると、イーサンは衛星電話をバッグにしまい、自分のスマホを手にした。
それは、セシルを守る次なる一手――
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