【20】誰にも知られない任務。〜完全防備の週末の舞台〜
チャールズがインターフォンのカメラを見ると、イーサンが立っていた。
「イーサン・クロフォードだ」
その声に、チャールズはホッと息を吐くと、素早く防犯ロックを解錠して、扉を開けた。
「おはようございます!チーフ!」
満面の笑みで言うチャールズに、イーサンは淡々と答える。
「ああ、おはよう」
すると、そこにセシルが現れた。
「チーフ、おはようございます!」
イーサンの目は一瞬でセシルを"観察"する。
態度に異常は無いか。
雰囲気の変化。
イーサンに対しての、挨拶の言葉のイントネーションまで。
そして――
イーサンは「ハーパー」と言った。
チャールズがパッとイーサンの前に立つ。
「はい!」
「君のパソコンを借りたい。
良いか?」
チャールズは一瞬キョトンとすると、直ぐにリビングに走り、パソコンを持って戻って来る。
「どうぞ!
あ!まずは部屋にお入り下さい!」
「失礼」と言って、イーサンがチャールズの部屋へと入る。
イーサンは、もうセシルを見ていない。
そして、冷静な声で告げた。
「このパソコンでは無く――
君の家にある、一番高性能のパソコンを借りたい」
そして、チャールズの書斎用の部屋には、イーサンとチャールズの二人がいた。
セシルには、イーサンが一言告げておいた。
「ハーパーには別件で早急に調べてもらう事がある」とだけ。
セシルは素直に頷き、
「了解です!
じゃあ僕、チャーリーが作ってくれたパンケーキ食べて待ってます!」
と、ダイニングテーブルに就いた。
それを確認して、イーサンとチャールズは書斎に来たのだ。
チャールズが声を潜めて言う。
「何を調べますか?」
イーサンが低く答える。
「俺とセシルは、これからある"場所"に行く。
そこに着いてから、君の送ってくれた昨夜のセシルのスマホの着信記録について話そう」
チャールズがしっかりと頷く。
そして、イーサンが「これを」と言って、チャールズに衛星電話を一つ差し出す。
「緊急時用に借りてきた。
これなら犯人にも盗聴されない。
月曜日にオラクル本部で会うまで、君と俺の間ではこの電話を使用する。
但し、セシルのスマホの発着信履歴の記録は、今まで通りの手筈で頼む」
チャールズが小声で、だが力強く答える。
「お任せを!」
そして、衛星電話を受け取ると、デスクの引き出しに仕舞った。
イーサンはチャールズの書斎から出ると、ダイニングに一直線に向かい、言った。
「セシル、出発だ」
そして、床に置かれていたセシルの出張バッグを掴んで、ドアに向かう。
セシルが慌ててイーサンの後を追う。
「僕……自分で持ちます……!
あ!チャーリー!
ありがとね!」
チャールズがニカッと笑う。
「良いって!
出張頑張れよ!」
そうして、二人が風のように去って行くと、チャールズは自分の書斎に戻って行った。
それから1時間。
イーサンの運転するSUVの中は、小さくクラシック音楽が流れているだけで、会話は無い。
セシルは、イーサンから車に乗る前に、
「出張については現地に着いてから詳細を話す」
と告げられていたので、カップホルダーに用意されてあったコーヒーを飲む以外は、頭の中でトラヴィス・アルマンから託された数字の羅列と地図の解析をしていた。
途中でイーサンに休憩するかと訊かれたが、セシルは断った。
そして、チャールズのアパートメントを出発してから2時間半後、ある建物に到着した。
そこは、まるで豪華な別荘のような建物だった。
イーサンがゲートの横の防犯システムに番号を入力すると、ゲートは自動で開いた。
そうして壮麗な玄関前に車を停めると、イーサンが「着いたぞ」と言って車を下りる。
セシルもそれに続いた。
イーサンは、さっさとトランクからイーサンとセシルの荷物を取り出して両方持つと、リモコンキーで車を施錠する。
スタスタと玄関に向かうイーサンに、セシルが小走りで付いて行く。
「チーフ!
僕、自分の荷物は持ちます!」
「もう玄関だ」
イーサンは静かにそう言うと、上着の内ポケットから革のキーホルダーを取り出し、一つしか付いていない鍵で玄関を開けると、建物の中に入って行く。
セシルも続いて、玄関から建物の中に入る。
そうして、イーサンは磨き込まれた大理石の床に荷物を置くと、玄関横の警備システムをオンにした。
豪華なリビングルームのソファに座るセシル。
イーサンは立ったまま、壁に凭れて話し出した。
「ここは、S.A.G.E.の施設では無い。
ある上院議員の持ち物だ。
今回は特別に貸して貰った。
一見、豪華な別荘としか見えないかも知れないが、違う。
ここのセキュリティは、S.A.G.E.が作り上げた。
CIAにも破れはしない」
セシルがイーサンを見て、コクリと頷く。
イーサンが淡々と続ける。
「そこで、この週末に、S.A.G.E.にとって重要な情報が取り引きされ、ここに運ばれて来る。
君には、その情報の解析に取り掛かって貰いたい。
なぜ、ここかと言うと、情報源にS.A.G.E.が関わっていると、バレては困る事態だとだけ告げておこう。
そして、その"情報"は、この週末にいつ、どんな形で運ばれて来るのか分からないので、君を選んだ。
データ化されているのか、紙なのか。
データ化されていれば、ハーパーにここから情報を送る。
暗号化されていても、彼ならば取り組めるだろう。
但し、情報が紙であった場合に暗号ならば、君の能力が必要だ。
そして我々は、まだ詳細を知りうる立場に無い。
質問は?」
セシルがイーサンの目を見て、キッパリと答える。
「ありません」
イーサンの口元に僅かな笑みが浮かぶ。
「では、君はそれまで好きに過ごせ。
君の寝室は、二階に階段で上がって正面の部屋だ。
それと、この別荘の持ち主は君と同じ読書家で、しかもコレクターだ。
地下に図書館がある。
年代物の初版本も揃っている。
良ければ、気に入った本を何冊か選んで持って来て読むと良い。
図書館から持ち出せない本はケースに入っているから、それ以外の本なら自由に読める」
セシルの顔がパッと明るくなる。
「やった!
図書館に行って良いですか!?」
「どうぞ」
イーサンの一言に、セシルが立ち上がり、地下へと向かう。
セシルの姿が消えると、イーサンはバッグから衛星電話を取り出し、電話を掛けた。
その相手は、一人しかいない――
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