【14】次の事件、次の接触。〜完璧な男からの朝の電話〜
すると、ヴィヴィアンが言った。
「その前に、チーフとシャーロット・アルマンの執事、トラヴィス・アルマンの件を聞きたいの。
エレノアがメールしてくれて状況は知ってる。
でも、やっぱりトラヴィス・アルマンの行動が引っ掛かるのよね」
イーサンが頷く。
「そうだな。
先にそちらを整理しておこう。
まず、トラヴィスは執事を止めるより先に、セシルに呼び掛けた。
あれは咄嗟の行動だ。
思わず本音が出た。
それに、執事を止めに来た理由と、俺との受け答えが完璧過ぎる。
まるで、よく練られた脚本のようだった。
次に、シャーロットが執事を寄越す程、セシルの怪我やサファイアのカフスボタンの傷を心配しているのなら、シャーロット本人か、執事から、事前に何かしら連絡があっても良い筈なのに、突然執事を寄越したのは、どう考えても不自然だ。
シャーロットは馬鹿じゃない。
我々が警戒することは分かり切っている。
だったら、執事かトラヴィスに電話一本頼めば良い。
これから執事が行くから、と。
それなのに、執事と同じくトラヴィスが『突然』現れた。
トラヴィスの目的は、シャーロットからの伝言を執事がセシルにきちんと伝えられたか確認することか、
執事に困らされているセシルを救い、印象を良くすること。
この二点が考えられる。
どちらにしても、セシルに接触するのが狙いだ。
ランディによく似たセシルに」
次に、ベックが口を開いた。
「なるほどな!
じゃあ話を戻して、ダインとアルマン家の関係だが、ちょっと面白い情報がある」
イーサンがベックに向き直る。
「何だ?」
「レナード・ダインだよ。
ダインにシャーロットとトラヴィスについて聞いてみたんだ。
そしたらダインによれば、二人はアルマン一族のエリートだってことは間違いないし、シャーロットは努力家だし、トラヴィスは世間の評判通りだと言っていた。
ただ、オフレコで本音を言えば、シャーロットは女王様気質で好きになれないし、トラヴィスは完璧過ぎて不気味だってさ。
ダイン曰く、ハリウッドの美容業界の裏事情に精通してる自分にしてみれば、シャーロットやトラヴィスの親や兄弟も知らない本当の顔が分かるんだと豪語していた」
ヴィヴィアンも付け加える。
「シャーロットは女王様でも、必要とあらば嘘泣きもするし、トラヴィスの笑顔は嘘くさいんですって」
ベックが頷き、続けた。
「だが、シャーロットはダインの美容サロンがお気に入りで、シャーロット本人もだが、社員やモデルをサロンに寄越してくれるし、遠縁と言えども、ダインを大口の客に紹介する時は、アルマン一族だと口添えまでするらしい。
それでダインもシャーロットを無下には出来ず、シャーロットがモデル事務所を開業して以来、付き合いが続いている。
そのダインが言うんだ。
ランディなんて、シャーロットは気にも掛けてなかったと。
大勢いる、年のいった夢見る売れないモデルの一人に過ぎないってな。
ただ、ランディにはパトロンがいたらしく、ダインのサロンにはキャッシュがたんまりチャージされたカードで足繁く通っていたそうだ。
だから昨夜、シャーロットがランディの為の追悼の食事会を開いたと教えてやったら、仰天して爆笑していた。
何の冗談かって。
あの女王様が、所属モデルの一人が死んだからって、追悼の食事会を開くなんて有り得ないってさ」
「ダインの話は信用出来るか?」とイーサン。
ベックがドンと胸を叩く。
「俺とヴィヴィアンは信用したよ。
ダインはオフレコで、シャーロットとトラヴィスは勿論、警察にも絶対に話さない約束で話してくれた。
ダインにとっては、ランディの死とシャーロットの行動が、余りにも結び付かなかったらしい。
それと、シャーロットが弁護士からモデル事務所の社長に転身した理由を聞いたら、途端に黙っちまったが」
「ハーパーによれば……」とイーサンが、チャールズが調べたシャーロットのスイス行きの話をすると、ベックとヴィヴィアンが揃って「なるほど!」と納得した顔になる。
イーサンがヴィヴィアンに訊く。
「トラヴィスについて、ダインは何か言っていたか?」
ヴィヴィアンがお手上げポーズを取る。
「トラヴィスについては、よく知らないそうよ。
ただ、四兄弟の中どころか、アルマン一族の中でも一番の出世頭で、父親も他の兄二人もトラヴィスを誇りに思っているらしいわ。
兄二人も医者だけど、トラヴィスとは比較にもならない。
嫉妬なんか通り越して、尊敬されている存在ですって」
「シャーロットとトラヴィスの仲は?」
「それもよく知らないそうなの。
昨日の追悼の食事会にトラヴィスも参加したと話したら、他の兄二人はハリウッドからは遠いから、シャーロットがトラヴィスを誘ったんじゃないかと言っていたわ」
その時、会議室のドアが開き、カリスタが現れた。
「カリスタ! お帰りなさい!」
エレノアが微笑みながら、そう言ってカリスタを出迎える。
ヴィヴィアンも笑顔で「どう? 収穫あった?」と訊く。
イーサンが「お疲れ」と椅子を引く。
カリスタは「まあ、チーフありがとう」と言って椅子に座った。
そして、手にしていたボトルのコーヒーを一口飲むと話し出した。
「収穫はゼロ!
犯人に繋がる線は、全くって言っていい程ないわ。
この犯人は相当頭が良い。
最初から、自分の痕跡が残らないように動いている。
ランディの遺体を遺棄した場所も、周囲に防犯カメラが無い場所だし、そこまでどうやって遺体を運んだのかも分からない。
ランディが運ばれたベンチは、ランニングコースとして有名で、しかも駐車場から遺棄されたベンチまで1キロ少しある。
細いと言っても65キロはある被害者を、1キロもどうやって運んだのか。
しかも、ランニングコースは午前5時に整備されるの。
駐車場からローラー車を使ってね。
例えば車椅子を使ったとしても、痕跡は消えてしまう」
「遺体が発見されたのも午前5時頃だったな?」とイーサン。
カリスタが即答する。
「そうよ。
つまり、ローラー車に発見されるか、朝一にランニングに来た人間に遺体が発見されるように計算していたのね。
しかも、自分の痕跡も消してくれる時間の直前に」
今度はベックが訊いた。
「そう言えば、駐車場の防犯カメラは壊れてたんだよな?
つまり、あれも知っててあの場所を選んだってことか?」
カリスタが一拍置くと、答える。
「知っていたと思うわ。
この犯人は、ハリウッドにかなりの土地勘がある。
多分ここに住んでいるか、仕事でしょっちゅう来ている筈よ。
ランディ以外の死体遺棄が、カリフォルニア州全体に散らばっていたのは、犯人が警察をかわす為ね。
けれど、ランディは他の六人の被害者とは決定的に違う点がある。
レイプされ、傷を負っていた。
だから、何らかの理由で、自分のホームグラウンドに遺棄するしか無かったのね。
それに、モデル事務所やエージェントに当たって、ランディに似ていて、ダインのサロンみたいなキャッシュをチャージ出来るカードを使用しているモデルがいないか探したら、物凄い人数がいたわ。
今日は生活環境までは聞き込みする時間が無かったから、これからリストにしてチャーリーに送って調べて貰う。
だけど、70人以上いるのよね……」
ヴィヴィアンが立ち上がる。
「私も手伝うわ!」
ベックもニカッと笑って言う。
「俺も手伝うさ。
イーサン、何かあるか?」
イーサンがフッと口元に僅かな笑みを乗せる。
「では、三人で手分けしてくれ。
俺はシャーロットのスイス行きの件を調べてみよう。
ハーパーが調べると意気込んでいたが、スイスのセレブ相手の病院ともなると、ペンタゴン並の厳重さだ。
パソコンのデータより、脇道を使う方が早いかもしれん」
そして17時になると、イーサンがオラクルのメンバー全員を集合させた。
イーサンが全員を見渡し、話し出す。
「丁官から連絡が入った。
ヴァージニア州で、この48時間に3人の子供が殺害された。
年齢は10才から13才。
性別は全員男子。
ここの事件では、犯人が次のターゲットを狙うまで、1週間から10日掛かるが、ヴァージニアでは今もこの殺人事件が進行している可能性が非常に高い。
こちらではもうプロファイルも発表したし、後はロス市警察に任せて、ヴァージニアの事件に取り掛かれということだ。
捜査方針も決まったし、子供の事件を優先して欲しいと、署長も了解してくれた。
これから直ぐにセレニスに戻る。
各自、準備を終わらせて欲しい。
1時間後にホテルを出発。
明朝8時にセレニスのオラクル本部に集合。
ブリーフィングの後、現地に向かう。
以上だ」
イーサンがそう締めくくると、皆がそれぞれ散って行った。
翌朝、セレニス州。
セシルは、本部からほど近い自分の高級アパートメントで目覚めた。
少し早く起きたので、朝食はどうしようかな……。
そんな事を考えながら、ベッドを出て、シャワールームに向かおうとした時――
スマホが鳴った。
画面を見ると、知らない番号だ。
だが、危険な番号からとの警告は出ていない。
一応電話に出てみると、相手は丁寧に言った。
「朝早くに申し訳ありません。
セシル・アシュリー捜査官のお電話で間違いないですか?」
男の声で、何処かで聞いたような気もするが思い出せず、セシルは「そうです。どちら様ですか?」と訊いた。
男は余裕たっぷりに答える。
「トラヴィス・アルマンです」
セシルのスマホを持つ手に力が込もる。
それでも、セシルは精一杯冷静に言った。
「アルマンさん?
どうして僕の電話番号をご存知なんですか?
名刺交換していませんよね?」
トラヴィスは焦らすように数秒黙ると、再び丁寧に告げた。
「イーサン・クロフォード捜査官からお聞きしたんです。
是非あなたに電話してやって欲しいと頼まれて」
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