【11】プロファイル完成、だが遅い。〜次の選ばれた標的〜
「第3の被害者が母親に言っていた『素材が良ければ出資してくれるボランティア団体』は見つかったか?」
「ありませんね、そんな心が広過ぎる団体は!」
「無いか……」とベックが呟くと、チャールズがニヤリと笑った。
「おいおい!
俺のでっかいベビーフェイス!
情報の海を泳ぐマーメイドを舐めてもらっちゃ困るな〜!」
イーサンが「ハーパー」と低く言う。
チャールズが画面の中で姿勢を正す。
「はいっ!ボス!
そんなボランティアを越えた慈善団体は存在しませんが、ちょっと面白い仕組みの美容サロンを見つけました!
それが……なーんと、アルマン家に繋がっているんです!」
「続けろ」
「アルマン家の直系はシャーロットやトラヴィスの姉弟たちなんですが、アルマン家の血をうすーーーく引いてる、そもそもアルマンの姓では無い末端の人物が、美容院とエステサロンを合体させたような会社をハリウッドで経営してるんです。
このサロンに行けば、ヘアスタイルをチェンジしたついでにエステもして、ネイルサロンにも行けて、ビルを出る頃には全身綺麗になっちゃってるっていう。
ちなみに男性はエステは受けられません。
で、面白いのが支払い方法!
勿論、キャッシュカードの支払いだけでもOKなんですが、このサロン専用のカードとキャッシュカードを紐付けしておけば、ポイントが自動的にどんどん溜まって、次に来店する時に1ドルから使えるんです。
それに、サロン専用のカードに現金でチャージする事もできるんです!
つまり、キャッシュカードの明細が届かないから、夫や家族に知られることもなく美容に好きなだけお金をかけられる!
商売上手ですよね〜」
イーサンが小さく頷く。
「つまり、犯人が現金をチャージしたサロン専用のカードを被害者に渡せば、被害者は自分の金を使わなくても自分の容姿を磨ける。
モデルなら食いつくな。
顧客リストに被害者達の名前はあったか?」
「ありません。
それに、もし現金がチャージされたカードを使用していたのなら、本名を名乗らなくても良いですし、エステを使用しなければ、特に契約を交わす必要もありませんから」
「ハリウッドに何軒ある?」
「4軒です!
社長の氏名と住所と電話番号、サロンの名前と4軒の住所と電話番号を送りました!」
「ありがとう、ハーパー。
休んでくれ」
「はい!
おやすみなさい!」
プチッとパソコンの画面からチャールズが消える。
すると、セシルが「そうか!」と言って立ち上がった。
「何の収穫もない食事会だと思ってた……。
でも違った!」
イーサンがセシルに視線を移す。
「セシル、落ち着け。
何だ?」
セシルが勢い良く話し出す。
「トラヴィス・アルマンです!
咽び泣いたシャーロットを慰めた時に、トラヴィスは僕を見て、
『姉さん、アシュリー捜査官を見て。髪はハニーブロンド、目も青だ。ランディと同じだよ。』
と言った。
でも、ランディが発見された時も、髪を染められていた被害者の写真を見た時も、僕達は目は青でも、髪は『ブロンド』だと一括りにした。
でも、トラヴィスは違う。
ランディの髪を『ハニーブロンド』だと認識している。
細かい拘りです!
それに、シャーロットも否定しなかった。
あの姉弟にはランディに深い思い入れがある。
ランディが狙われた理由を知っているのかもしれません」
ベックが腕を組む。
「ランディに深い思い入れがあって、狙われている理由を知っているのに、何故情報を渡さない?
ランディを殺した犯人が憎いだろう?」
ヴィヴィアンが即、口を開いた。
「末端と言えども、アルマン一族の会社が犯人に利用されていたのを知っているからかも!
恥だと思ってるんじゃない!?
名家にはありがちな理由よ」
イーサンが鋭い目をして言う。
「それなら、そのサロン、または似た仕組みのサロンに出入りしていて、現金がチャージされたカードを使用している、青い目とブロンド系の髪を持つ20代でモデルの男性を調べれば、次のターゲットが絞れるだろう。
髪がハニーブロンドで無くても、『ハニーブロンドに染められる髪色』なら良いが、目の色は絶対に青だ。
変えようが無いからな。
そして、犯人にとっては、カラーコンタクトなど意味は無い。
プロファイルが固まったな」
イーサンの言葉に、全員が頷いた。
翌日、朝一番でオラクルから、捜査関係者のみに向けて、プロファイルの発表があった。
「この犯人は、『理想の外見』と『理想の内面』を持つ20代前半から20代半ばの男性を、拘束する事なく、自分の知性で長期にわたって傍に置くことで性的快感を得ている。
そして、被害者も『自分の傍に居たいんだ』という妄想を実現している。
その妄想の為の拉致監禁で、被害者が犯人の『理想の行動』を逸脱した時には容赦無く殺害し、予め目を付けていた次の『理想の相手』を拉致監禁する。
初めての拉致監禁では、被害者が自分の理想を逸脱するとは考えておらず、殺害した後で次の被害者を見つけ出すのに時間が掛かった事から、二人目の被害者からは、拉致監禁が成功している間に、次の被害者を複数見つけておく事を学習した。
それに『理想の外見』を重視する余り、次の被害者達の外見を磨く為に、次のターゲット達に近づき、ヘアサロンやネイルサロンに通わせて髪や手のケアを無料でさせている。
被害者達にとって、犯人は下心が無い無害な上に、有益な人物としか映らない。
被害者達はモデルとして成功することを第一として生活を送っていた者ばかりだ。
だから、犯人の行動は、自分がモデルとして成功することを応援してくれる親切心からだと信じて疑わない。
被害者達が大きな仕事の前に拉致されているのは、恐らく偶然だ。
次の被害者候補の中で一番魅力的な人間が、大きな仕事を手にしていたという結果に過ぎない。
犯人の被害者を探す忍耐力、拘束をしなくても被害者を監禁出来る知能の高さ、被害者に掛ける金銭面での裕福さ、そして長期間に渡る監禁場所を持っている事、それに10年前から犯行が始まった事から鑑みて、犯人は40代半ばから50代前半の白人男性。
今回は地理的プロファイリングが機能しないが、ハリウッドに関係した生活を送っているのは確かだ。
社会的地位が高く、周囲からの評判はすこぶる良く、尊敬されている。
但し、彼は典型的な秩序型のボス猿タイプのナルシストのサディストで、自己愛性パーソナリティ障害を長年患い、自分でそれを自覚していない。
自分は常に正しく、『理想の行動』を逸脱する被害者が悪いと決めつけている。
ただ、『理想の外見』に執着する余り、純度93%という入手しづらいヘロインで殺害している。
これなら殺害時に多少の外見の損傷があっても、見苦しくない姿に簡単に戻せる。
被害者がすぐに見つけられる場所に遺棄されるのも、被害者が腐敗して醜くなるのが耐えられないからだ。
被害者の身体に針の痕が無い事から、経口でヘロインを摂取させられたと思われる。
最後の被害者、ランディ・ミラーだけがレイプされているのは、ランディが自分を裏切るとは思ってもいなかったが故の怒りの行動だ。
2年も監禁に成功して、ランディこそが自分が追い求めている理想の相手だと信じ切っていたところに、ランディが犯人にとって裏切りと思える行動に出た。
足の裏の傷も、その時負傷したと思われる。
我々オラクルのテクニカルアナリストが、犯人が利用しそうな美容サロンを見つけ出した。
犯人の捜査と並行して、そのサロン、もしくはそのサロンに似たシステムを導入している所から次の被害者を探し出して欲しい。
犯人は常に次の身代わりを用意している。
今までの傾向からして、一週間から十日以内に次の被害者を拉致するだろう。
以上」
プロファイルは完成した。
だが、その時、犯人はすでに次の“理想”を選び終えていた。
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