思い残すことはない **直生**
僕はもう終わりが近いことを悟っていた。
夏芽の側には遥生がいる。
僕にできることはここまでだ。
もうやり残したことは無い。
・・・もう夏芽は自ら死を選ぶことは無いだろう。
遥生の学校の文化祭が終わり、その日から夏芽と遥生はお付き合いするようになった。
2人は今までと何ら変わらないような気がするけど、夏芽が僕の部屋に遊びに来る回数よりは遥生のところへ行く方が多くなるのを見ていると、本心はとても淋しかった。
「直生、修学旅行から帰ってきた頃から元気がないみたいだけど、どうかしたの?」
夏芽は僕のこともちゃんと気に掛けてくれて、いつもと少しでも違うと心配をしてくれる。
「何もないよ。僕は元気だし。それにほら、ちゃんと夏芽からもらったブレスレットもつけてるよ。これがあれば幸せになれるんでしょ?」
僕の腕につけているのは夏芽が危険な目に遭ってまで守ってくれた僕へのプレゼント。
ガラスでできた小さなクロスがついているブレスレット。
もしあの時、スリが刃物でも持っていて夏芽を切りつけていたりしたら。
そう考えただけで僕は僕が許せなかった。
ここで夏芽に万が一があってはダメなんだ。
あの時、僕が命をもらった意味が無意味になってしまうところだった。
最後に僕ができることは、夏芽と遥生を無事に短期留学させることだけだ。
異国の地で2人の仲が深まって欲しいと願って、あの時、一世一代の嘘をついたんだから。
そう、夏芽と遥生が行く短期留学は僕が仕組んだことだったんだ。
遥生の学校も僕たちの学校もカナダへの短期留学制度がある。
冬休み期間中ホームステイをしながら語学留学をするというプログラム。
僕たちの学校は掲示板にその案内が貼り出してあるだけで、先生も特に薦めてこないから、毎年留学を希望する生徒はいないらしかった。
それとは反対に遥生の学校は成績の良い生徒に留学の優先順位が与えられ、それに遥生が選ばれていた。
せっかく選んでもらっているのに遥生は回答期限までに返事をせず、両親に相談もしていなかった。
遥生は短期留学なんて行くつもりは無かったんだろう。
僕は遥生には内緒で動いた。
まず両親に遥生の留学を許してもらい、その一方で僕の学校の先生に夏芽が留学できるようにお願いをした。
遥生の学園祭の時、僕は遥生のふりをして留学に参加したいと遥生の先生に伝えたんだ。
あの時は運よく遥生の先生から話し掛けてもらえて良かったし、僕のことを疑うことなく遥生だと思ってくれたのもラッキーだった。
ただ、僕が留学の話を勝手に進めていたことに対して、それを知った時の遥生はとても怒った。
留学には夏芽も一緒だし、留学先で夏芽を守って欲しいとお願いすると遥生は留学を渋々だけど了承してくれたんだ。
とにかく夏芽には先にある楽しみをたくさん用意したかった。
生きたいと思える楽しい未来を。
浅い考えなのは分かってる。
それでもいつ僕がいなくなるのか分からないんだ。
その瞬間に夏芽には笑っていて欲しいんだ。




