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いつも側にいてくれたね  作者: 摘美花-ツグミカ-
27/32

初めてのキス **夏芽**

「遥生、ただいまー」


私は自分の家に帰るよりも先に遥生の部屋に向かう。


修学旅行の帰り道でも直生が私の大きくて重いスーツケースを持ってくれて、そのスーツケースを遥生の部屋まで運んでくれた。


遥生へのお土産がスーツケースの下の方に入っているから、上の方に入れた服や荷物を一度出さなきゃならなくて。


私は早く遥生にお土産を渡したくて遥生の部屋で荷ほどきをしようと思ったの。


直生は私の様子を気にしていたけど、私が明るく遥生に接しているのを見て安心したのか、遥生への挨拶もそこそこにリビングに行ってしまった。


「おおー、夏芽おかえり。って、どうしたんだよ、その顔の傷」


あ、やっぱり遥生にバレた。


分からないと思ったんだけどな。


私が泥棒と揉み合った時に作った傷だって遥生に話したら、きっと怒るもん。


そしてきっと凄く心配してくれる。


だから本当のことは言わない方がいいと思ったんだ。


「これね、きのう転んでしまったの。でももう痛くないし大丈夫だよ」


「そっか。でも顔に傷を作るなんて夏芽はお嫁さんに行けないな。はははっ」


「なっ! なによそれ。本当はもっと心配してくれると思ったのに! 遥生のばか」


「ばかはどっちだよ。心配してないとでも思ってんの? 昨日の夜から何の連絡もくれないし、その顔で帰ってくるし」



昨日は色々あって、いっぱいいっぱいだったの。


綾乃と初めて喧嘩した。


怖い思いをした。


直生のこと、たくさんたくさん考えた。


あ、遥生のことはすっかり抜けてたね。


「ごめん、遥生」


「夏芽の様子が分からないのって思た以上にしんどいんだかんな。俺、昨日眠れなかったし」


「そうだったの。連絡しなくて本当にごめんね。あ、そうだ! そのお詫びって訳じゃないんだけど」


私はスーツケースの荷物を出しながら、底の方に入れた遥生へのお土産を探した。


確かガラスが割れないようにタオルでぐるぐる巻きにして仕舞ったよね。


んーー、どこだ。


なかなか見つからないから、スーツケースに入れた服を全部取り出してお土産を探していたら、


「なんだこれ」


私がスーツケースから放り出した服を手に取って遥生がそれを広げている。


「あっ! それはダメ。見ないで。返して遥生」


「なあ、なんだよ、これ。これって夏芽の服だよな。なんでこんなことになってんだよ」


遥生が広げて見ている服は、私が昨日泥棒と揉み合った時に引きずられて破けてしまった服。


洗っていないから血もしっかり付いている。


「何があったんだよ、夏芽」


「なっ、何もない。ほんと、何もなかったもん」


「嘘つくなよ、夏芽。なあ、直生はこれ知ってんの?」


「直生は何があったかなんて何も知らない」


そう遥生に答えてからはっとした。


ずっと何もなかったって言い通せば良かったのに。


何かが起こったことを認めてしまった。


「直生は夏芽に何があったか知ってんだな」


私は無言で首を横に振った。


「直生は知らないもん。何もなかったもん」


「俺は直生に聞きに行ける。きっと直生は話してくれるだろ。それでも夏芽。俺は夏芽から聞きたい。どうして俺に隠し事をするんだよ。話してよ・・・」


本当はね、遥生には嘘なんてつかずになんでも話したい。


それでも、心配は掛けたくないって思うんだよ。


「なぁ、夏芽。俺ってそんなに信用ないか? 直生には話せて俺には話せないって。そんなの俺じゃなくて直生の方が好きだって言ってるようなもんだろ、違うか?」


「ちがっ、違う! そうじゃないの。遥生に余計な心配掛けたくないだけ。だってさ、本当のこと言ったら遥生怒るもん」


「もう怒ってるから、話してよ夏芽。話してくれないんだったらさっさと直生のところへ行けよ」


「なんでそうなるのよ。直生のところへは行かない」


「俺は夏芽の心配しちゃだめなのかよ。夏芽の彼氏は俺じゃないのかよ」


「私の彼氏で、私が大好きなのは遥生だよ。それなのにどうして喧嘩腰になっちゃうの」


「夏芽、何も話してくれないのか? だったらいいよ。もう無理には聞かない」


そう言って遥生は頬を膨らませて怖くない顔で私を睨んでいる。


遥生が心配してくれていることは痛いほど分かるの。


遥生は私を大切にしてくれているって分かってるの。


「遥生、ごめんなさい。そんなに拗ねないで。昨日のこと話すから」


私は泣きたいのを堪えて遥生に昨日のことを話し始めた。


「昨日ね、私のクラスは函館山に行ったの。そこで私、スリに遭って。私のカバンを引っ張り合ってたら引きずられちゃって。それで怪我したの。それだけだよ」


遥生は私の話を聞いて顔色を変えた。


「え? 夏芽、それ本当なのかよ」


「うん。でも何も取られなかったし、ケガももう大丈夫だよ。昨日はそんなことがいろいろ重なっちゃって遥生に連絡できなかったの。本当にごめんね」


「そんなに大変だったのか、夏芽。本当にもう大丈夫?」


「大丈夫だよ。直生がちゃんと消毒してくれて、傷の手当てしてくれたの」


「そっか。それは怖かったな、夏芽。さっきは怒ってごめん」


「ううん、遥生は私のことを心配してくれて怒ったの分かってるから」


「本当にごめんな」


遥生は謝りながら私を引き寄せてギュッと抱きしめてくれた。


「遥生・・・」


私は遥生の胸の中に閉じ込められて、ドキドキしながらも安心して。


私からも遥生の背中にそっと手を回した。


「夏芽がスリに遭った時、直生は夏芽のこと守ってくれたか?」


「あの時はね、クラス別行動だったから、あの場所に直生はいなかったの。ホテルで直生に話したら危ないことするなって怒られたの」


「直生に怒られたのか。直生はああ見えて俺よりも夏芽には厳しいからな」


「直生は全然厳しくないよ。私には凄く優しいよ」


「そっか。夏芽がそう感じているなら、それでいいよ。ただ直生の夏芽に対する気持ちは半端じゃないのは分かってやれよ」


遥生も直生が私に接する態度が他の人への態度と違うのは分かっているんだね。


「あのね、その事なんだけどさ。直生は私と遥生を応援してくれているでしょ。私たちが付き合い出したきっかけも作ってくれたし」


「ああ、そうだな。それがどうした?」


「えっと、その。言い難いんだけどさ。図に乗った発言なのは百も承知なんだけど。直生ってさ、私のことどう思っていると思う?」


「直生が夏芽をどう思ってるかって? ははっ、そんなの夏芽のこと大好きに決まってんだろ」


「それってさ、どんな好き?」


「それを俺に聞くの? ああ、でも俺さ、夏芽のことどう思ってるか前に一度直生に聞いたことがあるわ」


「うん。直生はなんて?」


「直生の本心か分からないけど、夏芽とはずっと幼馴染でいたいんだって。夏芽のことは大好きだけどそれは男女の好きじゃないんだって言ったんだ」


「私にも直生はそんな感じのことを言ってくれたの。それでも凄く凄く大切にしてもらってて。このままでいいのかな、って思って」


「直生がそうしたいんならそれでいいんじゃないか? ただし! 恋愛の対象として直生のこと見るなよ。夏芽の恋愛対象は俺だけだかんな」


「そんなの分かってるよ」


「で? 夏芽は修学旅行中、直生はもとより他の誰とも浮気しなかったか? 同じ班の男たちとも仲良くやってなかったんだろうな?」


「浮気なんてしてないよ。さっき言ったでしょ、私はそれどころじゃなかったの」


「確かにそーだな。っつーかさ、夏芽が浮気するとかって最初っから全然思ってないから」


「なっ! それならどうしてあの時・・・」


「あの時って?」


「もう! なんでもないもん。バカ遥生」


今度は私が頬を膨らませて拗ねた。


「ね、もう一度俺に言ってよ。あの時のお願い」


遥生はそんな意地悪を言う。


ああ悔しい。 


どうして遥生はこんなに私をいじめるの。


それでも私は素直に今の気持ちを遥生に伝えたいと思ったから、遥生の目を真っ直ぐに見て。


「遥生、私浮気なんてしなかったよ。だから・・・あの時の勘違いを、してください」


恥ずかしいけど、絶対に遥生から目を逸らさないんだ。


「えっ。は? 夏芽、え?」


遥生の顔が赤くなるのが分かって。


遥生はその場で頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。


なによ、遥生は私とキスなんてしたくないんじゃない。


頑張って言ったのにな。


「夏芽―。あーーっ、もう俺の負けだよ」


遥生がしゃがんだまま訳の分からないことを言ってる。


何を言ったのかちゃんと聞こうと思って私も遥生の前にしゃがんで、


「遥生、なに? 何が負けたの?」


遥生は何も答えてくれないからもう一度名前を呼んでみた。


「ね、遥生。遥生ってば」


遥生の名前を呼んだ瞬間、遥生がしゃがんでいる私を床に押し倒してきた。


「きゃっ、なっ、なにするのよ遥生」


「夏芽、俺もう無理だから。ほんと無理」


私と遥生の顔の距離は10センチも無い。


「遥生はいつも無理って言う。それ言われるの悲し・・・んっ」


遥生との距離が0センチになって。


それはほんの一瞬だった。


私から遥生の顔が離れると、遥生はまっすぐに私を見つめる。


「夏芽、好きだ。苦しいくらい、夏芽のことが好きだ」


遥生は切なそうにそう言うと、再び私にキスを落とした。


私も大好きだよ、遥生。



キスのあと、お互いがとても照れてしまって目線を合わせられない。


いつか遥生の部屋でお喋りした時の様にベッドサイドに寄りかかって並んで座り、お互いに言葉を待った。


「あっ、そうだ!」


その沈黙を破ったのは私で。


私はまだ修学旅行のお土産を遥生に渡していないことを思い出し、スーツケースからぐるぐる巻きのタオルを取り出して、


「遥生にお土産があるの。これなんだけど。はいどうぞ」


遥生はタオルを受け取ると、


「なんだよ、この使い古したタオル。こんなの要らねーよ」


「違うよ。その中に入ってるの。タオル解いてみて」


遥生はぐるぐる巻きのタオルを解いて小さな箱に辿り着くと、


「これ、なに?」


その小さな箱を不思議そうに遥生が見ている。


「遥生、開けてみて。壊れてないといいけど」


箱を開けた遥生は中に入っていたガラス細工のブレスレットを取り出し、


「おお! なにこれ、ブレスレット? うわ、かっこいいな」


「良かった、壊れてなかった。これね、私とペアなの。これが遥生で私のはこっち。かわいいでしょ」


お店に並んでいたこのブレスレット、本当は2本のブレスレットがワンセットで売られていて、本当は1人でこの2本を付けるのが正解なんだと思う。


でも予算が厳しかった私はこのブレスレットをペアとして買ったの。


遥生には龍がついている方を、私には勾玉がついている方を。


「マジかっこいいな、これ。夏芽ありがとう! 早速つけてみよう」


遥生がとても喜んでくれて良かった。


「この対のブレスレットをつけ続けている間は遥生と私がずっと一緒にいられますようにって。そう思って買ってきたの」


「俺たちはこのブレスレットが無くてもずっとずっと一緒にいるだろ」


「うん。ありがとう遥生。もし喧嘩しちゃってもずっとこのブレスレットをつけていてくれる? 外されちゃったら悲しいよ」


「夏芽はなんでそんな可愛いことをサラッと言うんだよ。また襲うよ」


「やだよ。今日はもうドキドキしすぎでパンクしちゃう。また今度・・・してね」


「ははっ、夏芽が何をして欲しいのか分からないけど、また今度にとっとくわ」


もう、分かってるくせに。


遥生はやっぱりいじわるだ。


「遥生の・・・ばか」



初めてのキスはとてもドキドキして。


とても幸せな気持ちになった。


綾乃に遥生のどこが好きなのか聞かれて答えられなかったけど、遥生のことは理屈じゃなくて大好きなんだよ。

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