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いつも側にいてくれたね  作者: 摘美花-ツグミカ-
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修学旅行 3日目 **夏芽**

修学旅行最終日、私たちのクラスは函館山の夜景を観に行くことになっている。


直生たちのクラスは五稜郭とか修道院に行くらしく、最後の最後まで直生に会えないんだよね。


でも私たちが函館山から戻ったらホテルで会おうね、って直生にメールしたの。


小樽で買ったガラス細工のプレゼントを早く直生に渡したかったんだ。



日本の三大夜景と言われている函館山から観る夜景は本当に綺麗だった。


≪いつか遥生とこの夜景を一緒に観たいな≫


函館山から撮った写真とメッセージを書いて遥生に送ると、遥生から秒で返事が来て。


≪おおー、夜景綺麗だな。帰ってきたら旅行の話をたくさん聞くから早く帰ってこいよ、夏芽≫


遥生からのメッセージに返事をしようと皆から少し離れた所まで歩き、スマホを操作していたら前から来た人にぶつかってしまった。


「きゃっ、ごっ、ごめんなさい」


顔を上げてぶつかってしまった人に咄嗟に謝ったんだけど。


その人はくるっと向きを変えて走って行ってしまった。


あ、ちゃんと謝りたかったな。


そう思った時、肩から下げていた私のトートバッグがいつの間にか消えていて。


走り去った人を目で追うと、その人が持って逃げて行った。


「あ! 泥棒!!」


私はその人を追い掛けようとしたんだけど、観光客が沢山いて思うように走れなくて。


あの人、わざと私にぶつかったんだ。


あのバッグの中には後で直生に渡そうと思っていたガラス細工のプレゼントが入っている。


あれは直生への感謝の気持ちを込めて買ったプレゼントなの。


どうしても直生に渡したいの。


とにかく追い掛けなきゃ。


私は人にぶつかりながらどうにか泥棒の背中を見失わないように追い掛けた。


展望台から下のフロアに駆け下りた泥棒は駐車場に飛び出すと1台の車に乗り込むところだった。


「待って! そのバッグ返して!!」


私はバッグに手を伸ばしてバッグの紐を掴んだ。


泥棒と私でバッグを引っ張り合っている時、その泥棒は半ドアのまま車のエンジンを掛けた。


絶対にこのバッグから手を離さない。


直生のプレゼントだけでも守らなきゃ。


車が急発進して、私はバッグを持ったまま車に引きずられた。


駐車場にいた人たちが騒ぎを聞いて集まってきて。


観念した泥棒は私のバッグから手を離し、それと同時に私の身体はアスファルトに叩きつけられた。


痛ったーい。


目を開けた時、目の前にアスファルトがあって何が起こったのか把握するまでに時間が掛かった。


「お姉さん、大丈夫?」


「血だらけだけど、救急車も呼んだ方がいいのかな」


私の周りに集まった人たちが心配そうに倒れた私を覗き込んでいた。


私はアスファルトに打ち付けられた体を無理やり起こして、


「私は大丈夫です。ご迷惑をおかけしました。」


腕はとても痛いけど立って歩くことができたから、ここから早く逃げたくて、人気のない所まで歩いた。


駐車場から少し離れた所まで歩き、集まっていた人たちから見えなくなるように大きな木の陰に座り、痛みのある腕をそっと触ってみる。


「痛っ」


痛みのある左腕は力が入らなくて、そっと触っただけでも痛い。


それでも取られそうになったトートバッグを力の出ない左手がしっかり握っていて。


バッグの中を確認すると、直生へのプレゼントに買ったガラス細工の箱が潰れてしまっていた。


「中のブレスレット壊れていないかな。大丈夫かな・・・ふっ ふぇっ」


悔しさと恐怖と痛みと、色々な感情が急に襲ってきて涙が出てきた。


ここに遥生はいない。


頼れるのは直生だけ。


助けて、直生。


怖いよ、直生。


痛いよ、直生。


スマホを取り出して、直生の番号を表示させた。


その番号は涙で歪んでいて。


通話ボタンがどうしても押せない。


直生を頼ってしまうのはだめだよ。


きっと直生は心配して急いで来てくれる。


そんなの直生に迷惑を掛けてしまう。


私は表示させたまま押せないでいる直生の番号を見つめていた。



駐車場に集まっていた人たちが去っていくと、この世界に一人ぼっちになってしまったような気がして不安で仕方なかった。


ホテルに帰るバスの出発時刻が迫っている。


綾乃に連絡しなきゃ。


きっと私を探してる。


スマホの画面を直生の番号から綾乃の番号に変えて、通話ボタンを押すと何回目かのコールで綾乃が通話に出てくれた。


『ちょっと夏芽、今どこにいるの? さっき急に走り出したからどうしたのかと思ったよ』


「綾乃・・・。ごめん。今、外にいるの。駐車場の所」


「駐車場って、どこにいるの? バスの近くまで来てるの? もう発車しちゃうから早くおいでよ」


私は木の陰からバスが見える所まで移動して、綾乃に分かるように右手を振ると、綾乃が私に気付いてくれた。


綾乃は私が泥棒を追い掛けて外に出てきたことを知らないんだね。


泥棒の話をしたら心配されちゃうから内緒にしなきゃ。


「あのね、綾乃。私、駐車場で派手に転んじゃってね、少し腕を擦りむいてしまって」


「えっ? 夏芽大丈夫なの? とにかく早くバスまで来て。私、バスの運転手さんに待っててもらうように言っておくから」


「うん、ありがとう綾乃。すぐ行くね」


「今、永井くんに夏芽のこと迎えに行ってもらうね」


綾乃は私との通話を切り、私のいる方を指さして永井くんに私の居場所を教えている。


私のところに駆けてきてくれた永井くんがピタッと私の少し手前で立ち止まった。


「え? 高田さ・・・ん? どっ、どうしたのそれ! 大丈夫なの?」


どうして永井くんはそんなに驚いているんだろう。


少し擦りむいた程度なのに。


「大丈夫だよ。来てくれてありがとう。勝手に外に出ちゃってごめんね」


「ちょっ、待って! とにかくこれを羽織って」


永井くんが、着ていたジップパーカーを脱いで私の肩にかけてくれた。


「え、永井くん。大丈夫だよ。永井くんが寒くなっちゃう」


「いやいや、高田さん。自分の姿分かってる? 自分の服とか見てみなよ」


私の服? 少し血が付いただけだよね。


そう思って左腕を見て、びっくりした。


着ていたブラウスの袖が破けていて、そこから見える腕の皮が擦れて血だらけになっていた。


「えっ? こんなに・・・」


服が派手に破れていたことにびっくりして言葉にならなかった。


「それにね、高田さん。顔も血が滲んでるんだよ。結構擦りむいてる。痛くないの?」


永井くんは私の頬を指さして、


「この傷、綺麗に治るといいけど」


そう言って今度はハンカチを私の頬に添えてくれて、


「このハンカチで押さえとけば傷は隠れるから。ホテルに戻ったら傷をちゃんと手当てしよう」


「永井くんのハンカチが汚れちゃう」


「いいよそんなの。さ、行こう」


永井くんはそれ以上なにも聞いてこなくて。


バスまで私の隣を一緒に歩いてくれた。


バスに乗り込むと、綾乃と中島くんが私を心配そうに見ている。


「夏芽、転んだって言ってたけど大丈夫だったの?」


そう綾乃が私に声を掛けてくれた。


「う、うん。多分大丈夫。ちょっと擦りむいただけ。みんな心配かけてごめんね」


私は綾乃と中島くん、そして永井くんに謝った。


バスが出発すると、私はバッグの中から直生へのプレゼントを取り出して、潰れてしまったその箱を見た。


「それ、彼氏へのプレゼントなの? 潰れちゃってるけど中身が何ともないといいね」


バスの隣の席に座った永井くんがそう言いながら私から箱を取ると、潰れた部分を直そうとしてくれた。


「永井くん、ありがとう。もう箱はいいの。中身が壊れていなければいいんだけど」


「そっか。高田さんに想われてる彼氏が羨ましいな。こんなに好きになってもらえてさ」


「ち、違うよ。これは彼へのプレゼントじゃないの。彼じゃないけど・・・大好きな人にあげたかったの」


「彼氏じゃないけど大好きな人って?」


永井くんは私の言っていることが理解できなかったようで、箱を直している手を止めて私の顔を覗き込んだ。


「高田さんが言うそれってさ、もしかして1組の湯川のこと?」


「う、うん。良く分かったね」


「そっかー、俺は湯川兄弟に勝たないと高田さんの側にはいられないのかー」


今度は私が永井くんの言った言葉が理解できなくて、永井くんの顔を見た。


「俺ね、今日高田さんのこと好きになった。さっき一人ぼっちで木の陰から出てきたでしょ」


「えっ? 永井、くん?」


私は永井くんからの突然の告白にびっくりして永井くんから目が離せなかった。


「そんなに見つめないでよ。恥ずかしいだろ」


「あっ、ごめん」


「あの時の高田さんは凄い怪我してるのに無理に笑顔作ってるし。何があったかは聞かないけどさ。俺が守らなきゃって勝手に思っちゃってさ」


「永井くん・・・」


「それにね、俺の着てたそのパーカー、高田さんにはぶかぶかなのめちゃかわいいなって」


そんなこと言われたらこのパーカー着てるわけにはいかないよ。


私は急いで永井くんのパーカーを脱ごうとしたんだけど。


「待って待って。高田さんの服はボロボロなんだから、せめてホテルの部屋に入るまではそれ着ててよ」


「で、でも・・・」


「ごめん。俺、変な妄想した。さっきの全部忘れて」


そう言うと永井くんは私とは反対側を向いてしまった。


永井くんに告白されたのかと思ってびっくりした。


永井くんの妄想で良かったよ。


それでも永井くんには感謝してるよ。


助けてくれて、こうして一緒にいてくれて。


「ありがとう、永井くん」


私は永井くんにしか聞こえないような小さな声で永井くんに感謝した。

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