修学旅行 2日目 **夏芽**
修学旅行2日目はグループ別行動の日。
私たちのグループはホテルの前でタクシーを待っていた。
タクシーを使うグループが他にも何組かいて、すぐに来ないタクシーを並んで待っている時のことだった。
私のスマホに遥生からメールが来た。
遥生には旅行のしおりを見せていたから今日の班別行動も把握していて。
≪夏芽、今日はぜっっったいに浮気すんなよ。なんなら綾乃とだけしゃべってろ≫
そのメールを読んでいる私の顔がにやけていたみたいで、綾乃に遥生からのメールを覗かれてしまった。
「えぇっ! 遥生ってこんなこと言うキャラだった? 嘘でしょう」
「やっ、やだ! 綾乃、見ちゃった?」
咄嗟にスマホを隠したけど遅かった。
「これは確かに遥生のこと好きになるかもね。あの性格の遥生がねぇ。すごいギャップだわ」
もう恥ずかしい。
近くには同じ班の永井くんと中島くんもいて、綾乃に何事かと聞いてくるし。
「あのね、夏芽が彼氏にすごく愛されてるって話」
「あー、俺たちも聞いたよ。高田さんの彼氏って1組の湯川の双子の弟なんだろ」
「そうなの、直生とそっくりなんだよ」
綾乃が同じ班の2人に教えなくてもいい情報を言っているから顔が熱くなるよ。
「でもさ、俺たちは1組の湯川と付き合ってるとばっかり思ってたよ。高田さんって湯川とすっげー仲いいよな」
そんな風に永井くんが言うと中島くんもうなずいている。
私と直生が付き合っていると言う噂は完全に消えた訳じゃないのかな。
「直生は、幼馴染だから。いつも一緒にいるのはそれだけだから」
私は直生のことを考えて、少し冷たい言葉で2人に言った。
直生に好きな人ができた時、私との噂が足かせになってしまう。
そんなのダメだもん。
それにまだ完全に消えていない私と直生の噂を早く消したかった。
私だって直生の恋を応援したいんだよ。
でもそんな私の気持ちは言葉だけでは伝わらなかったみたい。
それまで笑っていた綾乃の顔が一瞬で曇った。
「そんな風に直生のことを思っていたの、夏芽。酷いよ。それじゃ直生の優しさを利用しているだけじゃない。直生は夏芽に対してあんなに優しく接しているのに」
「ちっ、違うの綾乃。そんな意味じゃなくて・・・」
綾乃には伝わってくれると思ったのに。
誤解されるような言い方をした私が悪いね。
「直生がかわいそうだよ。私、ずっと思ってた。直生の気持ちを思うと・・・直生はあんなに夏芽のこと全身で好きだって表現してるのに。どうしてそれを分かってあげられないのよ」
綾乃に言われたことに返す言葉が見つからなくて。
返事ができないでいると綾乃は私に背を向けて走って行ってしまった。
「あっ! 綾乃、待って!!」
私が綾乃を追い掛けようとしたら、
「綾乃は俺が追い掛けるから、永井は高田さんといて」
中島くんがそう言って綾乃を追いかけて行った。
「どうしよう、永井くん。綾乃が・・・」
「うん、きっと大丈夫だよ。綾乃のことは中島に任せよう」
綾乃と中島くんが戻って来るまでホテルで待つしかなくて。
タクシーを待っている列から離れて私と永井くんはホテルのロビーに戻った。
「永井くん、ごめんね。私のせいで今日のスケジュールが遅れちゃう」
「ううん、そんなこといいよ。高田さんは気にしないで」
「でも・・・。」
「それにね、ここだけの秘密にして欲しいんだけど、中島は綾乃のことが好きなんだ。だから綾乃のことはちゃんと説得して連れて帰ってくると思うよ」
「そうなんだ。全然知らなかったな」
「中島はね、綾乃が湯川のことを想っているのも知ってて。綾乃がさっき高田さんに強い口調で言ったこと、分からなくもないんだよね」
綾乃とはなんでも話せる親友だと思っていたのに、綾乃の好きな人が誰かなんて聞いたことなかった。
綾乃はそんな話題が出るたびに「好きな人なんていないよ」って言っていたから、全然気が付かなかった。
綾乃は直生のことが好きだったの?
今までずっと私と直生と遥生の関係を綾乃は一番近くで見てきて、ずっと苦しかったの?
綾乃の言った言葉が頭から離れない。
『直生はあんなに夏芽のこと全身で好きだって表現してるのに。どうしてそれを分かってあげられないのよ』
もしも。
そんなことは絶対に無いと思うけど。
もしも直生が私に好意を持っていてくれているのだとしたら。
直生はいつも優しいから、私は直生に甘えて、わがまま言って、直生の好意を振り回していたってことになるよね。
直生、ごめんなさい。
綾乃、ごめんなさい。
私、今までずっとダメだったね。
「永井くん、どうしよう。綾乃に謝らなきゃ。ずっと綾乃を傷つけていたなんて。私、綾乃を探してくる」
ホテルのロビーを出て、綾乃が走って行った方へ行こうとしたら、通りの先からホテルへ戻って来る綾乃と中島くんが見えた。
「綾乃―」
と叫んで走って行こうとしたんだけど、戻って来る2人は手を繋いでいて。
「ねぇ、永井くん、あれ・・・って」
隣にいた永井くんも2人を見て驚いたようだった。
「おお、中島やったな! あいつ、綾乃と上手くいったんだ」
綾乃と中島くんが私たちの前まで来ると、
「綾乃、ごめんなさい」
「夏芽、ごめんなさい」
私と綾乃の言葉が被って。
綾乃は少し照れたように中島くんと目を合わせていた。
「あのね、綾乃。さっき直生について冷たく言ってしまったけど、違うの。ただの幼馴染とか、そんな簡単な気持ちじゃなくてね」
「分かってる。それでも直生のことを考えるとなんだか苦しくなっちゃって。逃げちゃってごめん」
綾乃は何も悪くないのに私に謝った。
そんな私たちのやり取りを聞いていた永井くんが、「もうこの話は終わり」と言って話題を変えてくれた。
「なあ、中島と綾乃はなんで手つないでんだよ?」
「あっ、それ私も聞きたい」
私も永井くんの話題に賛同した。
すると中島くんが
「俺、このどさくさに紛れて綾乃に告った」
「うんうん。それで?」
私と永井くんが同時に頷く。
「まずは友達から・・・」
今度は綾乃が恥ずかしそうにうつむいて答えて、頬を赤くしていた。
「今までだって友達だったのに今更また友達からって、ありえねーだろ。じゃあ、なんで友達が手繋いでんだよ」
永井くんの鋭い突っ込みが入ると綾乃は観念したのか、
「さっき中島くんにはお友達からって言ったけど。つっ、付き合ってもいいよ」
綾乃がそう言った瞬間に中島くんが飛び上がって体全体で喜びを爆発させた。
「うおおおおっ! マジで? 綾乃。ホントにいいの? 嘘じゃないよな」
綾乃は小さく頷いて中島くんに
「よろしくお願いします」
1組のカップル成立の瞬間に立ち会えて、それが綾乃だから私はとても幸せな気持ちになった。
幸せな気持ちとは反対に1つだけ心に引っ掛かっているのは、直生のこと。
これから直生に対してどう接するのが正解なんだろう。
考えても答えは出なかった。
私たちの班はタクシーを使って駅に向かい、駅で快速電車に乗り小樽までやってきた。
当初予定していた時刻の電車に乗れなかったから観光はそこそこにしてお土産を買うことを最優先にしたの。
この修学旅行中にお土産が買えるのは班別行動の今日だけなんだもん。
私たち4人はガラス細工が並んでいるお店に入り、それぞれがお土産を探した。
「ねね、綾乃。これかわいいね。中島くんとのお揃いに買ったら? 今なら中島くんに気付かれずに内緒で買えるよ」
私はかわいいウサギの形をしたキーホルダーを綾乃に差し出して、
「ね、綾乃はウサギみたいだし。そうだなぁ、中島くんはこっちのカエルが似てない?」
中島くんのことをカエルに似てるって言ったら綾乃が頬を膨らませて
「カエルなんてやめてよ。もっとかっこいいでしょ。せめてこっちのトカゲじゃない?」
いやいや、どっちもどっちだと思うよ綾乃。
中島くんに今朝告白されて付き合い出したばかりなのに、すっかり綾乃は中島くんのことを好きになってるね。
綾乃の嬉しそうな顔を見ていると私も幸せな気持ちになる。
綾乃は中島くんとお揃いのキーホルダーを買うみたいだから、私も遥生へのお土産を探さなきゃ。
私も遥生とお揃いになるものがいいな。
ガラス細工のお店の中を回りながらあれでもない、これでもないを繰り返して店内2周目。
このスノードームはどうかな。
んー、でも遥生のイメージじゃないし、かわいいけど普段使いできないからダメだな。
ペアのグラスは?
ペアにしたところで使う場所が違うんじゃ意味ないか。
やっぱりキーホルダーかな。
でもキーホルダーにすると綾乃たちともお揃いになっちゃうもんね。
やめとこう。
店内2周目が終わる時、目に飛び込んだのはブレスレット。
ペアのブレスレットが綺麗に並べてあって、光を通してキラキラしている。
かっ、かわいい。
私はこのブレスレットに一目惚れした。
幾らするんだろう。
ガラスでできたブレスレットを壊さないようにそーっと値札を裏返して見てみると、持ってきたお小遣いがほぼなくなってしまう金額だった。
うっ。
これを買ってしまったらお母さんたちにお土産が買えなくなっちゃう。
それに、直生へのお土産も買えなくなる。
同じ旅行してるんだから直生にはお土産なんて要らないかな、って一瞬よぎったけど、直生にはプレゼントっていう名目で渡したいな。
遥生には2個で一対になっているブレスレットを、直生には違うデザインのブレスレットを買った。
よし。
これならお母さんたちにお菓子のお土産を買える。
私はお店の人に頼んで2つともプレゼント用に綺麗にラッピングしてもらった。
ホテルに戻ると遥生へのブレスレットは割れないようにタオルでぐるぐる巻きにしてスーツケースに仕舞い、直生へのプレゼントは早く渡したいから、明日会った時に渡せるように明日使う予定のトートバッグに入れた。
遥生と直生、喜んでくれるといいな。




