修学旅行 出発の朝 **夏芽**
「直生、準備できた?」
いつものように私は直生に玄関先から声を掛ける。
「夏芽、ちょっと待って。すぐ行くから」
直生の部屋から聞こえてくる返事。
直生はとてもしっかりした人なのに、朝だけは苦手だから毎日私が待つことになるの。
「今日はバスの時間があるから早くしてねー」
今日から私と直生は修学旅行。
遥生にしおりを見せた時はどうなるかと思ったけど、昨日の夜に遥生から
『何かあったらすぐに直生を頼るんだぞ。同じ班の男は信用ならないからな。気を付けて行って来いよ・・・・それと、楽しんでおいで』
そう言ってもらったから心置きなく旅行に行けるんだ。
やっと直生が玄関から小さなスーツケースを持って出てきた。
「えっ? 直生の荷物それだけなの?」
「夏芽の荷物は多すぎない? それじゃあ荷物持って歩く時重いよね」
「そうなんだけど。でもこれ以上は減らせなかったの」
「そっか。じゃあ学校までスーツケースを交換して持って行こう。夏芽の貸して」
「え、いいよ。自分で持つから大丈夫だよ」
「いいから貸して」
荷物の交換を断ったのに直生は私のスーツケースを掴み、代わりに直生の小さなスーツケースを私に渡した。
「直生、ありがとう。いつもいつもごめんね」
直生はいつも私を甘やかす。
どうしてこんなに優しいんだろう。
そして見返りなんて全然求めてこないの。
学校への道を歩きながら直生に聞いてみた。
「直生ってね、いつもいつも私に優しくしてくれるでしょ。それに遥生とのことを応援もしてくれる。それなのに私って直生に何もしてあげてない」
「夏芽はそんなこと思ってたの? 僕は夏芽から何かしてもらおうなんて全く思ってなんかないよ。僕が夏芽に優しくするのは僕がそうしたいだけ」
「直生が優しいから私、すごく直生にわがままになってる。直生に甘えちゃってる。それじゃダメなのに」
「ダメじゃないよ。僕で良かったらうんと甘えてよ。夏芽に頼ってもらうの嬉しいんだ」
直生はそう言ってくれるけど。
私が直生にしてあげられること、何かないだろうか。
私の重いスーツケースを運んでくれている直生を見ながらそんなことを考えていた。
学校に着くとクラス毎にバスに乗るから直生とはここから別行動。
北海道ではクラス別に観光する場所が決まっているから他のクラスと観光場所で合流する確率は低いんだよね。
直生のしおりと私のしおりを比べたら最終日の夜に宿泊するホテルに入るまでは旅行中に会えないスケジュールだったの。
「夏芽、何かあったらすぐに連絡してね」
「うん。直生ありがとう。また後でね」
いつも側にいてくれる直生と別れて、私は自分のクラスのバスに向かった。
バスの隣の席には綾乃。
私と綾乃はガイドさんの話なんてちっとも聞いていなくて、ずっと恋バナをしていたんだ。
「ね、夏芽。夜まで聞くの我慢しようと思ったんだけどさ。やっぱり早く聞きたくって」
「何を?」
「遥生のこと。遥生と付き合うことになった経緯は聞いたけどね。どうして夏芽が遥生を選んだのか、聞きたい」
綾乃は小学校の時からずっとお友達で、もちろん遥生と直生のことも良く知ってる。
私と遥生、直生がとても仲が良いのは小学校から一緒の友達はみんな知ってるんだけど。
小学校から一緒の友達は私が遥生と直生のどちらと付き合うのか、それとも全然違う人と付き合うのか、ずっと話題だったんだって。
「えーっとね。私は2人とも大好きなの。最初はね、その好きって感情は幼馴染の好きだったの」
「うん。そうだよね、中学の時まではそんな感じだったよね。それがどうして遥生を選んだのかなって」
私が遥生を選んだ理由? そんなこと考えたことないな。
「私ね、そんなこと意識したこと無かったの。直生はいつもずっと優しいし、遥生は・・・分からないな」
「へ? 遥生に対してのどこが好きとか、無いわけ?」
「うーん。遥生はいじわるなんだよね。優しいんだけど、いじわる」
確かにそう。
遥生は毒舌だし、なんでも遠慮なく言ってくるし、この前だってキスされるのかと思ったらはぐらかすし。
「あははっ、夏芽、それって本当に遥生のこと好きなの?」
「うん、それでも遥生のことが好きなんだ。なんでだろうね」
「そっかー。私はね、遥生も直生も夏芽のことを大好きなんだって分かってたよ。小さい頃から一緒の友達もみんなそう思ってた」
「そうなの? みんなそんな風に思ってたの?」
「その直生は夏芽と遥生が付き合うことになったきっかけを作ったんだよね?」
「うん。直生は私と遥生のことを応援してくれてるよ」
綾乃は直生だって私のことが好きなはずなのに、どうして遥生を応援したのか分からないって言う。
直生が私に対しての好きは、小さい頃から一緒にいるから。
ずっと兄弟姉妹のように育ってきたから。
それだけだと思ってたんだ。




