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いつも側にいてくれたね  作者: 摘美花-ツグミカ-
22/32

遥生との時間 **夏芽**

遥生の学校の学園祭から1か月が過ぎた頃、私と直生の所属するテニス部は新人戦に向けて練習がハードになっていた。


今日も練習で疲れ果て、家に帰るのもやっとの思いで歩いていたの。


「もう体力の限界。直生ぃ、もう歩けないよ」


「もう少しだから頑張って歩いて、夏芽」


「こんなに疲れるなら新人戦に出たくなーい」


「ああ、もうしょうがないな」


そう言うと直生は私の腕からカバンを取り、そのまま持ってくれた。


「直生、私のカバン重いから大丈夫だよ。返して」


「夏芽がうるさいから持ってあげるよ。だから夏芽は文句言わずに歩く!」


「はーい。直生いつもありがとう」


やっとの思いで家までたどり着くと、玄関の前に遥生が立っていた。


「よぉ夏芽。お帰り。つーか、その疲れ方、おばあちゃんじゃん」


私のよろよろした姿を見て遥生が大爆笑している。


「ひっどーい。そんな風に言わなくてもいいじゃん。こっちは毎日大変なの。ね、直生」


「そうだよ、遥生。もう少し夏芽をいたわってあげなよ」


直生が私の味方になってくれた。


街灯から逆光になっている遥生を良く見ると


えっ? 待って! 待って!


遥生がまだ制服を着てる。


「遥生!! せっ、制服――」


私は遥生を指さして絶叫した。


「ん? 制服がどうしたんだよ」


「やっと遥生の制服姿を見れたんだよ。嬉しいじゃん」


「なんだそれ」


遥生はそう言いつつもどこか照れているようで、前髪を指で触っている。


「遥生、かっこいいね。ね、一緒に写真撮ろうよ」


「それは無理。夏芽気付いてる? 今の夏芽はボロボロのおばあちゃんだからな。そんな子とは写真撮りません」


「なっ、なによ! もう一生写真なんて撮ってあげないんだから」


私と遥生のやり取りを黙って見ていた直生が私のカバンを遥生に差し出して、


「はいはい。仲が良くていいね。遥生、これ夏芽のカバン。遥生が夏芽の部屋まで持っていってあげなよ。じゃ僕は先に帰ってるから。またね、夏芽」


遥生にカバンを渡すと直生は玄関の中に入ってしまった。


「あっ、直生にカバン持ってもらったお礼言ってない」


「そんなの言わなくても直生ならちゃんとその気持ち分かってる」


遥生はそんな風に言うけど、


「でも、言葉にしないとダメな時もあるでしょ」


私は直生を追い掛けて玄関まで行こうとしたんだけど。


遥生が私の手を掴んで


「行くなよ」


って小さい声で呟いて。


「でも・・・」


「あまり夏芽と会えないんだからさ。会えた時ぐらい一緒にいたいだろ」


遥生からストレートに好きと言ってもらっているような気がして、顔が熱くなるよ。


≪ぐぅぅ~≫


「は? 夏芽、今お腹で返事しただろ。もう全然色気ねー」


きゃああ。


私のお腹・・・お腹空きすぎて鳴ったぁぁ


「もうやだぁ」


私の顔は一緒にいたいって言ってくれた事への赤面なのか、おなかが鳴ったことへの赤面なのか分からないくらい熱くて。


「もう帰るっ。じゃね、遥生」


遥生が持ってくれていた自分のバッグを奪い取り、遥生へ挨拶もそこそこに家の中に入った。


すると玄関のドアの外から遥生が


「おやすみ、夏芽。夕飯たくさん食えよ」


って、うちの家族にも聞こえるような声で言った。


「もう、遥生のばか!」



それでも遥生に言われた通り夕飯をたくさん食べて、億劫だけどお風呂に入る。


お風呂から出て部屋に入りスマホを見ると遥生からメールが入っていた。


≪今から少しだけ夏芽の部屋に行ってもいいか?≫


いつも来る前に連絡なんてしてこない遥生なのに珍しい。


≪いいよ。待ってるね≫


そう返事をした後、なぜかソワソワして。


いつもならパジャマ姿で会っても平気なのに、それじゃダメなような気がして。


あれ? 何を着て遥生を待てばいいんだろう。


とりあえずパジャマはダメだよね、着替えよう。


そう思ってパジャマを脱いで、着る服をクローゼットから探していた時に、よりによって遥生がドアをノックせずに私の部屋に入って来た。


「なーつめっ。ちゃんと飯たくさん食っ・・・えっ?」


「えっ? 遥生?」


「・・・。」


「・・・。」


『きゃあぁぁぁっ』


私は咄嗟に脱ぎ捨ててあったパジャマを掴み、前を隠した。


「やだ! 遥生、なんで入ってくるのよ。出てって」


そう言いながら遥生を廊下へ追い出してドアを閉めた。


いつもいつも遥生にはドキドキさせられっぱなし。


今回のは違う意味でのドキドキなんだけど。


遥生はドアの向こう側でドアに背をつけて、私はドアの内側に背を付けて気持ちが落ち着くのを待った。


「は、遥生。今、何か見た?」


「いっ、いや。何も見てない」


「そうだよね。本当に何も見てないよね」


「ああ。夏芽のピンクのブラなんて見てない」


うっ、私もうダメじゃん。


勝負下着とかじゃないじゃん。


・・・そんな下着持ってないし。



「夏芽?」


「なっ、なによ遥生」


「何も見てないから部屋に入れてよ。俺いつまでここにいればいいの」


私はとりあえずさっき脱いだパジャマをもう一度着て、そーっとドアを開けた。


「入るよ、夏芽。ってかさ、俺が来るの知ってて裸になってるってさ。家族みんな家にいるのに、夏芽は大胆だな。あははっ」


そう言って遥生が笑ってる。


「違うもん、そんなんじゃないもん。遥生のばか!」


私は遥生の胸を軽く叩いて反抗した。


遥生は私の手を握って叩くのを止めさせると、手を握ったまま


「なあ夏芽。絶対にあんな姿を他のヤツに見せるなよ。もちろん直生にも。絶対だからな」


「なっ直生は突然入って来ないもん。だから見られることなんて絶対にないもん。遥生だけでしょ、ドアもノックしないで入ってくるのは」


「ははっ、どの口がそれを言うかな。でも、ごちそうさま」


「はるきーーーー!!」


もう、遥生ってこんな感じだった?


ほんとに恥ずかしくなる。


「ごめんよ、夏芽。えーっと、そんなことを言いに来たんじゃないんだった」


「うん。何の話?」


「さっき直生から修学旅行のしおりを見せてもらったんだけどさ、夏芽のクラスのも見たいなって思って」


秋になると私たちの学校の1年生は修学旅行に行く。


行き先は生徒たちの多数決で決定した北海道。


「私のクラスのしおりね。いいよ」


修学旅行のしおりをカバンの中から取り出して遥生に渡し、一緒にそれを見ていたんだけど。


「なあ、このスケジュールだと夏芽と直生が一緒に行動できないよな。だめだろ、そんなの」


「それは仕方ないよ。そもそも直生とはクラスが違うんだし。それともなに? 私と直生が仲良くイチャイチャしていたらいいの?」


「ばっ! なに言ってんだよ夏芽。違うよ。そうじゃなくてさ。直生が側にいないと夏芽が迷子になるだろ」


私が迷子になるってさ。


遥生は一体私のこと何歳の子供だと思ってるのよ。


「私は直生がいなくてもちゃんと何でもできます! もう大人なの」


遥生はしおりのページをめくり、そこで目と手がピタッと止まった。


「ねぇ夏芽、この班分けってさ、なんなの? 修学旅行中はほとんどの時間をこの班で行動するんだよな?」


「うっ、うん。そう・・・なのかな」


遥生にしおりを見せるんじゃなかった。


「なんか気に入らない」


気に入らないって言われてもな。


「そう決まっちゃったんだもん」


「それに一番気に入らないのが夏芽の班。夏芽と同じ班のこいつら誰なんだよ」


「えっと、私の班はね。私でしょ。綾乃でしょ。あとは・・・遥生の知らない2人。です」


「だからさ、なんで俺の知らない男2人が一緒の班なんだよ」


「そっ、それは綾乃がその2人と仲がいいからさ。私は綾乃と一緒の班になりたかったし。別に私はこの2人とはあまり接点が無いって言うか、ね」


「直生のしおり見てて嫌な予感がしたんだよ。的中だったな。夏芽、旅行の朝熱出せよ」


「あははっ、遥生面白い。熱出せってなによ。笑っちゃうじゃない」


「やだよ。夏芽が他の男と一緒にいるの、やだ」


「無理言わないで、遥生。そんなに拗ねないでよ。仕方ないじゃない、学校の行事なんだから」


遥生がこんなにやきもち妬きだったなんて知らなかった。


全然妬いてくれないのも淋しいけど、要らない心配なのにな。


「なんで夏芽はニヤついてんだよ。なんかムカツク」


「遥生ってこんなにかわいいこと言っちゃうんだ。遥生大好き」


「俺はかわいくなんてない!! ばか夏芽」


私にばかって言って遥生が私に背を向けてしまった。


「遥生、怒ったの?」


「・・・。」


「ねえ、遥生ってば」


遥生が後ろを向いたまま返事してくれないから、遥生のシャツの裾をキュッと引っ張ってみた。


「遥生、こっち向いてよ」


「ああーーっ、夏芽ほんと、ばか!」


また私にばかって言いながら私の方に振り返った遥生の顔が少し赤くて。


「遥生、顔、あかっ・・・」


「ばっ! 見るな」


遥生は照れた顔を見られたくないのか、私にふわっと抱き着いた。


私の顔は遥生の胸の中に埋もれて、遥生の表情が見れない。


「は、るき?」


「ちょっと黙ってて。もう少しこのまま」


まだ遥生とギュッてするの慣れてないし、緊張するよ。


私の方こそ今の顔を見られたくない。


多分、遥生以上に真っ赤になってる。


「夏芽、浮気しない?」


「なっ、何言ってるのよ遥生。そんなことしないよ」


「絶対?」


「うん、絶対にしない」


頭が良くて毒舌で冷めた感じの遥生が、どうしちゃったの。


「夏芽・・・」


私の名前を呼ぶと遥生は抱きしめていた腕を解いて私の顔を真っ直ぐに見た。


私はドキドキしていた。


えっとこれってさ。


キス、されちゃうの?


「ぶっ!!」


ん? 遥生が吹き出した?


「夏芽、いま何か勘違いしたでしょ」


「えっ?」


「夏芽が修学旅行で浮気しなかったら、その勘違いをしてやるよ」


やだ、恥ずかしい。


私、恥ずかしい勘違いをしたの?


「遥生なんて大っ嫌い! いいもん、浮気して遥生のこと振ってやるんだから」 


「夏芽にそんなことできるかよ。こんなに俺のこと好きなのに」


どれだけ上からなのよ、遥生。


なんかムカつくけど、それ当たってるよ。


私は遥生のことが好き。


こうしてじゃれ合っている時間も大事にしたいって思ってるんだよ。


さっきは遥生に引き寄せられて遥生にギュってされたけど、今度は私から遥生の胸の中にそっと顔を埋めて遥生の背中に手を回した。


「遥生、私浮気なんてしないから。だから、旅行から帰ってきたらね、勘違いを、その、して・・・ほしい」


きゃあ。


言っちゃった。


超はずかしい。


「なっ・・・・夏芽? ああーーっ、本気で熱出してよ、夏芽。俺、もう色々無理」


「なによ、無理って。ほんと遥生ってひどい」


「そうじゃねーよ。そうじゃないけど、やっぱ無理。俺、これ以上ここにいたらやばい。帰るわ、夏芽。またな」


そう言って遥生は私の肩を優しく押して遥生の体から私を離した。


その時の遥生は片手で顔を隠していたけど、その顔は赤くなっていたような気がした。

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