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いつも側にいてくれたね  作者: 摘美花-ツグミカ-
21/32

解けた誤解 **夏芽**

「遥生と連絡が取れないな。着信に気付かないのかな」


直生は歩きながらスマホの画面を見ている。


遥生が彼女と仲良く歩いていたと聞いたとき、直生に


『大丈夫だから。何かの間違いだから』


そう言ってもらって少し気持ちが落ち着いた。


「直生、さっきはごめんね。なんで涙が出てきたのか分からないの」


「夏芽の涙の理由、本当はもう分かっているんでしょ」


直生には隠し事ができない。


直生は私の気持ちを理解しているんだ。


「直生、私ね。おかしいの。この前遥生からね、好きな人がいるんだって聞いたの。その時ね、胸が苦しくなって」


「遥生が夏芽に好きな人がいるって言ったの? 誰を好きだって?」


「ううん、相手の人のことは聞いてないよ。でもね、遥生はその人のことずっとずっと好きなんだって。遥生はその人のこと想いすぎて苦しいんだって」


「そんな風に遥生が夏芽に言ったんだ。それを聞いて夏芽は苦しくなったんだね。そっか」


真剣に聞いてくれてると思ってた直生が何故か笑っていて。


「ねえ直生! どうして笑ってるの? 私がこんなに悩んでるのに!」


「あはは、夏芽は遥生のことで苦しくなって悩んでるんでしょ。それってさ」


分かってるの。


でも声に出して言ってしまうと、幼馴染として仲良くしていた関係が崩れてしまう。


「直生、もういいの。直生は私の気持ちに気付いているんでしょ。私も自分の気持ちに気付いたの。でも、もう遅いから」


「遅いなんてことないよ、夏芽。夏芽はその気持ちを大切にして。絶対に遥生から離れちゃだめ」


私が一方的に想っているだけなのに、どうして直生はそんな風に言うの。


こんな片想いなんて悲しいだけだよ。


「早く遥生を探し出して何が起こっているのか聞こう。本当のことを聞かないうちから諦めないで、夏芽」


直生は気持ちが沈んで立ち止まっている私の手を引いて歩き出した。



「あ、夏芽ちょっと待って。着信」


直生はポケットから着信で震えているスマホを出して画面を私に見せてくれる。


「遥生からだ。夏芽、遥生と直接話してみる?」


そう言って直生は私にスマホを持たせた。


しかも、通話ボタンを押して繋がってしまっている。


「えっ、え、直生・・・」


『おい! 直生!! お前いまどこにいるんだよ。夏芽となにやってんだよ』


うわっ! 遥生の声大きい。


しかも怒ってて怖い。


『直生! おい! 直生!!』


遥生と話すのが怖いから直生にスマホを渡そうと思ったら、いつの間にか直生が私から10メートル離れていて。


直生は遠くから「話して」とジェスチャーしている。


ひどいよ、直生。


遥生がスマホ越しにずっと何か叫んでいるから覚悟を決めて返事をした。


「もしもし、遥生?」


『はぁ? 夏芽か? なんで直生の・・・。なあ夏芽、お前ら2人で何してんだよ』


「なに、って。何もしてないよ。遥生こそ、何してるのよ」


『俺は何もしてないだろ。っつーか、電話じゃ伝わらないから、どこにいるのか教えろよ、夏芽』


遥生が私たちに会いに来るの?


遥生の彼女も、一緒に来るの?


「い、やだ。会いたくないもん。見たくないもん」


「ふざけんなよ、夏芽。すぐ行くからどこにいるのか言え!」


私はそれに返事することなく直生の所に駆け寄ってスマホを直生に押しつけた。


「遥生がね、凄く怒ってるの。直生が話して。遥生が怖い」


直生は渋々スマホを耳に当てて遥生と話してくれた。


「遥生、夏芽が怖がってるよ。なぜ遥生が怒っているの?」


直生は冷静に遥生を諭す。


『怒ってるって。別に怒ってないけどさ。あーっ、とにかく会って話したい。直生たちは今どこにいるんだよ』


「えーっと、外にあるイベントを掲示している看板の前にいるよ」


『分かった。すぐに行くからそこから離れるなよ、いいな』


「うん。待ってるよ。遥生、冷静に夏芽と話して。ちゃんと素直に気持ちを伝えて」


なっ、なんで直生は私たちのいる場所を遥生に言っちゃうの。


しかも私と話せって。


私、遥生に何を言われちゃうの。


もうこれ以上は限界だよ。


「直生、どうして。私どうしたらいいの」


「遥生が来たらちゃんと2人で話して。夏芽も遥生も素直にならなきゃだめだよ」


「遥生は彼女と一緒に来るかもしれないじゃない。遥生の長い片想いがやっと結ばれたんでしょ。もう何も言えないよ」


「僕はそうは思わないよ。夏芽は心配しなくても大丈夫だから」


直生と話している後ろから遥生がやってきた。


遥生の方を一瞬見て、隣に彼女がいないことに安心したけど、まだ遥生が怒っているように見えて遥生に背中を向けてしまった。


「夏芽! なぁ、夏芽」


「直生、どうしよう。遥生のこと見れないよ」


「うん、分かったよ。夏芽は僕の後ろにいて」


そう言って直生は私を後ろに隠してくれた。


「直生、夏芽を隠してんなよ。ちゃんと話を聞かせろよ」


「まずは遥生。どの話が聞きたいの? その後で僕たちも遥生に聞きたいことがあるんだ」


私も早く遥生と遥生の彼女のことが聞きたい。


遥生が何て言うか怖いけど、ちゃんと聞かなきゃ。


そう思いながら直生の後ろに隠れて遥生の言葉を待っていたんだけど、遥生は私と直生のことを口にした。


「お前たちが付き合ってて仲良さそうにしてたって、さっき教室でクラスの奴らから聞いたんだよ。どう言うことだよ、直生」


「そっか。あの子たちそんな風に僕たちを見ていたんだ。そりゃ僕と夏芽は仲が良いよね。幼馴染なんだから当然でしょ」


「そっ、そうだけど。教室で抱き合ってたとか、手を繋いでたとか、俺だって夏芽と幼馴染だけど。そんなこと」


さっきまで怒りながら話していた遥生の声がトーンダウンしたように感じる。


「僕と夏芽はそれだけだよ。どうして抱き合っていたのかは夏芽から聞いて」


直生は横にずれて私のことを遥生の前に押し出して、そのままどこかへ行ってしまった。


「えっ、ちょっと待って直生!」



ここに遥生と2人きり。


遥生は下を向いて目線を合わせられないでいる私に問いかける。


「夏芽は直生のことが幼馴染以上に好きなのか?」


「えっと私は。直生のこと大好きな幼馴染だと思ってる」


「じゃあなんで教室で抱き合うんだよ」


「それは・・・」


私が煮え切らない態度で言葉を発せないでいると、


「俺、別に怒ってなんかない。でも本当のことを知りたいんだよ。そうしないと俺の気持ちの行き場が無いんだよ」


「遥生、本当に怒っていない?」


「俺、夏芽には怒らないよ。そりゃ喧嘩する時はあるけど。そんなのいつも本気じゃないだろ」


「うん。そうだね」


「夏芽、どうして直生と、その。抱き合ってたんだよ。」


「あれは。あれはね」


「うん。ゆっくりでいい。ちゃんと聞かせてよ」


「遥生のクラスの子たちが遥生と彼女が仲良く歩いている所を見たんだって。目撃したのは1人じゃなくて何人も見たんだって」


「それはマジでない。誓ってもいい。俺は誰とも一緒に歩いていないから」


「だって、遥生と彼女は仲良く手を繋いでたって。私、皆が直生のことを遥生だと勘違いしたんだと思ったの。でも違うって」


「それさ、仲良く手を繋いでいたのは夏芽たちだろ」


直生と手を繋いでいたのは、特別な気持ちがあってのことじゃない。


でも遥生は、違うんでしょ。


「遥生と遥生が想っていた人の気持ちが通じ合ったんだな、良かったな・・・って」


あ、泣きそう。


どうしよう。


今泣いちゃだめ。


「それでどうして直生が夏芽を抱きしめるんだよ」


「私、遥生に彼女がいるって聞いてね。悲しくなったの。涙が出てきたの」


「なっ、それってどういう・・・」


「みんなの前で泣き顔を見られないように直生が私の顔を隠してくれただけだもん。直生の優しさだもん」


「な、つめ? そんなの俺、勘違いする。夏芽、悲しかったってどうして?」


「もう遥生と一緒にいられないんだって思って。私、私ね・・・」


私の涙は限界だった。


瞬きをした瞬間に一粒の涙が流れ落ちた。


それを見た遥生は、直生がしたように私を抱きしめた。


「泣くなよ、夏芽」


「ダメだよ、遥生。彼女に見られちゃうよ」


私は泣きながら遥生の胸を押した。


「泣いている夏芽を放っておけないだろ。いいか夏芽。このままでいいから聞いて」


遥生は腕に力を入れずに私のことをフワッと包み込むように抱きしめている。


遥生。 私、胸が苦しいよ。


さっき直生にされたことと同じなのに。


遥生に抱きしめられると苦しくなる。


「夏芽、俺さ。ずっと長い間好きな人がいるって言っただろ」


私は頷くだけしかできない。


「俺の気持ちを伝えてしまったらこれまでの関係が終わっしまうんじゃないかって、怖くて言えなかった」


遥生は彼女との馴れ初めを私に話そうとしているの?


そんなの聞きたくないよ。


「夏芽、ごめんな。ずっと打ち明けられなくて、ごめん」


どうして遥生は私に謝るの。


「ごめんって、どう言う意味なの」


遥生は私の気持ちを知ってしまったから、私に応えられくてごめんって言ってるの?


それを謝られたら余計に悲しくなるよ、遥生。


「ん。俺さ、俺。ずっとずっと夏芽のことが好きだった」


「いいよ。私は大丈夫。これまでと同じ・・・えっ?」


「夏芽、大丈夫ってなに?」


何故か遥生がクスクス笑っていて。


「はっ、遥生、今、なに言った?」


「だからね。俺の好きな人は夏芽なの」


「うっ、嘘だ!」


遥生の突然の告白にびっくりして、遥生の胸を思いっきり押して遥生から離れた。


「なんでだよ、夏芽」


「だだだだって。遥生が今、変なこと言ったから」


「変なことなんて何も言ってないだろ。ちゃんと聞いてたのかよ」


聞こえたよ。


聞き間違いじゃないのなら、遥生が私を好きだって。


「夏芽は、どうなんだよ。その、俺のこと。嫌いか?」


「きっ、嫌いなわけないじゃん」


「じゃあ、好き?」


えっ? 私が遥生に告白する流れなの?


「直生と俺と。同じなのか? それとも直生が好きか?」


「なっ、直生のことはもちろん大好きだよ。でも、でもね」


「うん」


「遥生への好きは泣きたくなる好きなの。自分でも分からないの」


「夏芽、ちゃんと言って。分からない事ないだろ。俺のこと、どう思ってる?」


「私、遥生のことが・・・好き、です」


「夏芽、ありがとう。夏芽の気持ち、ちゃんと伝わったから」



パチ パチ パチ パチ



何の音?


私と遥生はお互いから目線を外し、パチパチと聞こえる方を見る。


そこには私たちから少し遠巻きに円を描くように多くの生徒たちが集まっていた。


円の中心にいるのは私と遥生。


パチ パチ パチ パチ


皆が私たちに拍手をしている音だった。


「えっ? これ、何? 遥生、どうなってるの」


「しっ、知らねぇよ。 っつーか、お前ら! 見せもんじゃないから」


遥生が集まっている人たちに言ってくれたけど、誰もここから動かなくて。


「わー、凄い告白を見ちゃった」


「湯川、公衆の面前で良く言った!」


「どんな出し物よりもドキドキしたー」


皆、色々な事を言っている。


その輪の中に直生もいて。


「ね、これで僕とあの子が付き合ってるなんて誤解だったでしょ。それに遥生にはたった今彼女ができたところだから、本当のことだけを信じてね」


直生は遥生のクラスの女の子たちに嘘の情報を流さないように釘を刺してくれていた。


私は顔から火が出るほど恥ずかしくて、目で遥生に助けを求めた。


「よし、夏芽! ここから逃げるぞ! おいで」


遥生は私の手を取ると、その輪から外に向かって駆け出した。


遥生の学校の人たちに告白を見られたことよりも、こうして遥生が私の手を握ってくれていることにドキドキした。


私と遥生がいなくなると、見物していた生徒たちもそこから離れて行ったのに、直生だけがその場から動けなかった。

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