第四節
マリアは寝る時、朝4時半には起きるからね!と、枕に言い聞かせた。
幸いなことにマリアは朝に強い。目覚まし時計がなくても念じるだけで、
いつも気持ちよく起きられるのだ。
また、どこかの部で朝練があったとしても、始発電車は朝5時頃だ。
電車が動く前に生徒が学校にいるはずはない。
自分の住む世界と丁度1日ズレがあるなら、門番さんの関係者が下駄箱に
手紙を入れる時間だって、きっと人がいない時間帯を選ぶはず。
それは朝5時よりもっと前だとマリアは考えていた。
『服装は、このままでいい。あの門番さんはきっと頭の切れる人だ。
この布は、自分の住む世界でも消滅しない何かが施されてるんだ。
次官が誰かは分からないけれど、それだってきっと、
あの門番さんが手配に何か関わっているんだわ』
マリアは朝4時半に目覚めると、
生活に必要なものが何もかも揃っているサニタリールームで身支度をした。
修二のメッセージを書き留めるためだろうか。ノートやペンも用意されていた。
「へ〜ぇ、このドレス、大きなポケットもついてるんだ」
マリアはノートとペンをポケットにしまって身支度が整うと、
早速専用出入口を出て、横断歩道を向こう側まで渡った。
無音から現実の生活音が聞こえてきたところでマリアは止まり、
片腕だけバッと伸ばしてみる。
やはり長袖の布も腕も消滅しなかった。
すぐにポケットにも手をやって、ぽんぽんっと叩いた。
ノートやペンの感触があった。
「ほらね」
と言って、今度は全身で現実世界を受け止めるように歩き出した。
小鳥の鳴き声や新聞配達のバイクの音が遠くから聞こえ、出勤途中の人々とも
すれ違った。だが誰もマリアを見もしない。
『なんだ……私の存在自体、見えないようにしてくれたの?』
ためしに通行人に思いっきり手を振ってみたが無視されたので、
マリアは思わず声をあげて笑った。
『すごいな門番さん』
マリアは門番に感謝し、そこから一気に下駄箱まで駆け抜けた。
学校に到着すると、また下駄箱目掛けて小走りになる。
そしてワクワクしながら下駄箱を開けると「あった!」と思わず口にした。
一番最初にもらったメッセージこそ無造作に破った紙切れだったが、
以後は上部にSEMPERの文字がエンボス加工された部分から、
メッセージの部分までを綺麗に切り取った紙片になっている。
マリアはすぐにメッセージを読み始めた。
「もっと一緒にいたかった」
「………え ……?
………なに、これ………………」
読み間違いかと思い、明るくなってきた外に出て、
もう一度読もうと紙に視線を落とした瞬間に、消滅してしまった。
「なに、これ………」
呆然と立ち尽くすマリアの視界に、校門近くの銀杏の大木が映る。
『今日は10月4日か。まだ葉っぱは緑色だな。
葉っぱが黄色になる頃って、
去年だと…………11月頃だったかな…少し寒かったから…』
「俺たち、考えてみたら中学の頃からいっつも一緒に通学してるな」
「そりゃそうよ。近所だもん」
「何でマリアはこの高校にしたんだよ」
「修二がいるからに決まってるでしょ。
修二は何でこの高校にしたのよ。もっといいところ行けたのに」
「……なんか、俺に言わせようとしてるだろ」
「そうだよね〜。私がいるからだよね」
「…くそっ」
『家も近いから、そんなやりとりをしてるだけで互いの家にすぐ着いてしまう。
だからよく、反対側の道路を歩いて、かなり遠回りして帰ったりしたっけ…。
考えてみたら、いつも、いつも一緒だった………』
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