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鎖をほどくんだ  作者: 月影野里
【第三話】もっと一緒にいたかった

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第二節

マリアは「あの日」で始まる修二の手紙を受け取ったあと、もう自宅には

戻らない、学校の授業も受けないと決めた。自分の世界に戻るとしら、

学校の下駄箱を見に行く時だけだ。その明日のことを考えていて、

急に行き詰まってしまった。


『門番さんが教えてくれた入口は出入り自由だって聞いたけど、

 自分の世界に戻る時の服装はどうなるのかな…』

「こんなショッキングピンクじゃ目立ってしょうがない…」


マリアは、川に掛かったアーチ橋の真ん中で、腰の辺りを掴みながら

長い布を眺めていた。


「綺麗な布ね」


マリアの様子に足を止めた若い女性が、マリアに向かってそう声をかけてきた。


「あ、ありがとうございますっ」

「どこで買ったの?そんな肌触りの良さそうな布、見たことないわ」

「し、知り合いに貰いまして…」


マリアは布を広げたままでは行儀が悪いと思ったのか、急いで腰に巻かれたリボン

の向きも左脇にしっかりと寄せ、身なりを整え直した。


「午後の陽射しを浴びて、キラキラって光るのね。まるであなたのお顔みたい」

「へっ」


マリアは照れていた。だが心の中では全く気を許していない。

『こんな風に褒めて気分をよくさせといて、

 もっと近づいたら噛み殺す気かもしれない。ほら来たっ!』


若い女性はマリアの頬に触れそうなくらい顔を寄せてきた。

マリアはここで逃げ出すのは自分の勘違いだった時に無礼を働くことになるから、

いざとなったら川に飛び込めばいいや、と開き直った。


「あなた新参者でしょ。右側の花屋の横に立つ二人組をそれとなく見てみなさい」


と若い女性はマリアの耳元で囁いた。マリアは言われたほうを見るともなく見た。

確かに花屋の横には、中年の男性が二人いた。だが片方の裾を腰帯に挟んで、

ちらっと見えるその足は、ガニ股のゴリラのようだ。

どうやら二人組はこちらを見ているようである。

「ああいうのはね、この街のルールも覚束ない新参者を見つけては、

 イタズラする暇人達なのよ、気をつけてね。ところでお食事は?」

「いえ、まだ」

「じゃ、美味しいお店を紹介するわ」


『大丈夫かな…着いて行っても…

 どこかの底なし沼に案内されて放り込まれたらどうしよう』


マリアはまだ全く安心できずにどう返答しようか迷っていた。

『それに、食事なんかとってる場合じゃないのに…』


若い女性はマリアの表情から全てを読み取ったようだ。

「次官から頼まれてるのよ、安心しなさい」

「…次官? 誰ですか、それ…」

「えっとぉ さっきまであの辺に居たのに…どこ行っちゃったのかしら」


『ま、もういっか。捜索の足がかりになるかもしれないし…

 このまま流れに身をまかせよう』

マリアは完全に開き直り、若い女性に手をとられたまま、街の中へ入って行った。



この若い女性が言った通り、美味しいお店というだけあって、

店内は清潔で優美な調度品に囲まれ、多くの人で賑わっている。

窓側の席を用意してくれたウェイターに従って腰を下ろすと、頼んだ料理はすぐに

運ばれてきた。食べたことのない野菜や肉料理のどれもが美味だった。


「美味しいでしょ」

「はい、すごく美味しいです」

「でも、デザートまでは頼めそうにないわ」

「え?」


マリアが急に何だろうと思っていると、その若い女性はフォークでそれとなく

反対側の窓際に座る二人を示した。あの半ゴリラ人間達が来ていたのだ。


「そろそろ出るけど、出たらお店のドアの横で待機しててね」

「え、どういうことですか」

「いえ、私が迂闊だったの。

 腰帯のリボンを左側に向けるのはね、今日は空いてますって意味なの」

「えー っ!? 空いてない空いてないっ 相手したくないっ」


若い女性はくすっと笑いながら「出るわよ」と小声で言った。




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