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鎖をほどくんだ  作者: 月影野里
【第二話】あの日、頬とか腰とか大丈夫だったか?

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第三節

門番は人間に、しかも少女に抱きつかれて一瞬、

自分が石にされてしまったのではないかと思うほど硬直した。

そうなる未来は予知できていた。


だが実際に触れられた少女の身体は小さく、伝わってくる体温はとても温かい。

何よりこの少女の肩が少し震えていることに気づく。

これほどの感情の重さまでは、

頭の中にある未来の予知映像から実感できるものではなかった。


彼女は泣いている。門番は優しく少女の両肩に触れ、

その身体を自分からそっと離した。


「お前のために急遽用意した入口だ。出入りは自由だ。行っていいぞ」

「ありがとう!門番さんっ」


マリアはそう言うと門をくぐり、すぐに修二を探しに行こうと川が流れる方角を

向いた。だが「あっ」と小さく声をあげ、門番のほうを振り返る。


「私、質問がいっぱいできちゃったんですけど、

 今、ちょっとだけいいですか…?」

門番はその問いかけには身構えた。


本来、この世界への入口は一つだけだ。

正式な門番は、さきほど少女が見た、あの屈強な男である。

昨日はマリアが門の手前でうろうろしているところを予知能力で察知していた

から、自分が一時的に門番の役割を担ったに過ぎない。


なにしろ、まだ死者ではない修二がこの世界にいる。

この件に自分が関わっている以上、普段はあまり使わぬ別の能力まで使って、

この世界の秩序をなんとか保っている状況だ。


「これなんですけど」


マリアは修二に読んでもらうために書いた便箋を出そうと肩にかけたリュックに

触ろうとした。


「俺はさきほどお前に触れた時、この世界の者たちに怪しまれぬよう、

 術を発動させている。だからお前の世界の物質は、生命体以外、全て消滅だ」


マリアはそこで初めて自分がこの世界でよく人々が来ている長い衣服を

身に纏っていることに気がついた。それもショッキングピンクだ。


「えぇぇ〜 !?」


マリアは自分が好きな色をどうして門番さんがわかったのか、

また質問が増えてしまった。


「現世の持ち物は保管してある。心配するな」

「あ、ありがとうございます。 それで、あの……修二は…」


マリアは修二を連れ戻すために来た。だから生きているのは当たり前だ。

だが、さっき入口で遭遇した本当の門番を見て、ゾッとしたのだ。

まるで地獄の入口に立つ獄卒か何かのようだった。

だからつい、余計なことが頭をよぎった。


「修二は…怪我してませんよね?」


微風に揺れるグレーの髪が目にかかるのを避けるように、

門番は空を見上げてひとつ息を吐いた。


「この世界は、お前の住む世界より24時間、早く進んでいる」


何の感情も見せずにそう告げた門番の言葉は、マリアの全身に

電気が走ったような衝撃を与えた。また耳鳴りがする。


「探せ」

門番はそれだけしか、もう話す気はないようだ。


『この少女がこの世界に干渉した瞬間から、もう俺の予知能力は機能しない。

 あとはこの少女に任せるしかない…』


マリアが泣き出しそうな表情で、まだもっと聞きたそうに一歩だけ

門番の方へ足を踏み出した。でも門番は川の方角を向いたまま微動だにしなかった。

マリアにはその冷たい横顔しか見えない。

時折、微風に揺れる髪のせいで、目の表情もよく見えなかったが、

彼の薄い唇は固く閉ざされていた。




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