表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/197

第74話 魔法とはなにか

 翌朝。


 離宮の研究室には、朝早くから三人の姿があった。


 黒板の前に立つクロエ。


 その正面には机を並べるエルンストとミア。


 ミアの肩にはリリが腰掛け、本棚の上ではアルが足をぶらぶらと揺らしている。


『今日は勉強の日か』


『眠くなりそう……』


 妖精たちは相変わらず気楽そのものだった。


 クロエはチョークを手に取り、黒板へ大きく文字を書き記す。


 ――魔法。


「では始めようかの」


「本日の講義は、すべての基礎となる魔法学じゃ」


 ミアは背筋を伸ばし、深く頭を下げた。


「よろしくお願いします」


 クロエは満足そうに頷くと、さらに四つの言葉を書き並べた。


 魔素。


 エレメント。


 魔法。


 魔術。


「まずは、この四つの違いを理解せねばならん」


 そう言ってチョークを置き、静かに語り始める。


「世界には目には見えぬ根源の力が満ちておる」


「それを魔素と呼ぶ」


 ミアは静かに頷いた。


「魔素は、まだ何の性質も持たぬ未分化の力じゃ」


「そのままでは火にも、水にも、風にも、土にもならん」


「しかし、その魔素はさらに細かな単位へ分けられる」


 黒板へ四つの文字が並ぶ。


 火。


 水。


 風。


 土。


「これがエレメントじゃ」


 その瞬間だった。


 ミアの精霊眼に映る世界が変わる。


 空気中には無数の光が漂っていた。


 赤く輝く火のエレメント。


 青く揺れる水のエレメント。


 緑色に流れる風のエレメント。


 黄金色に煌めく土のエレメント。


 四種類のエレメントは互いに混ざり合いながら、それぞれ異なる流れを描いて空間を満たしている。


「綺麗……」


 思わず声が漏れた。


 クロエは優しく微笑む。


「見えておるのじゃな」


「はい」


 ミアは目を輝かせた。


「教科書の図と同じです」


「でも、本物はもっと綺麗で……まるで生きているみたいです」


 エルンストは静かにその横顔を見つめる。


 自分には見えない世界。


 それをミアは当たり前のように見ている。


 精霊眼とは、やはり特別な力なのだと改めて感じた。


 クロエは指先へ魔力を集めた。


 小さな炎が灯る。


「これが火の魔法じゃ」


 炎はやがて水球へ姿を変え、ふわりと宙へ浮かび上がる。


「これが水の魔法」


 さらに柔らかな風が吹き、水球をゆっくりと回転させる。


 最後には土の粒が集まり、小さな石となって机の上へ転がった。


「火を灯す」


「水を生み出す」


「風を起こす」


「岩を動かす」


「これら超常現象そのものを、魔法と呼ぶのじゃ」


「なるほど……」


 ミアは炎の周囲を舞う火のエレメントを見つめながら、小さく頷いた。


 火のエレメントが集まり炎となる。


 水のエレメントが集まり水となる。


 教科書では図でしかなかった知識が、今は目の前で現実として起きている。


 だからこそ、自然と理解できた。


 クロエは再び黒板へ文字を書く。


 ――魔術。


「では、魔術とは何じゃ?」


 ミアは首を傾げる。


「魔法とは違うのですか?」


「違う」


 クロエは穏やかに頷いた。


「魔法とは現象そのもの」


「対して魔術とは、その現象を人が自在に扱えるよう体系化した理論や技術じゃ」


「つまり」


「魔法は結果」


「魔術は、その結果へ至る方法ということじゃな」


「……なるほど!」


 ミアの表情がぱっと明るくなる。


「だから魔術師は勉強するんですね」


「その通りじゃ」


 クロエは満足そうに微笑んだ。


「魔法は才能だけでは扱えぬ」


「理論を学び、繰り返し鍛錬して初めて自在に操れるようになる」


『へぇー』


 リリが感心したように呟く。


『人間って大変なんだね』


『俺たちは感覚だからな』


 アルも腕を組んで頷いた。


 ミアはその言葉にはっとする。


(妖精は理論ではなく、本能でエレメントを操っている……)


 それもまた、新たな発見だった。


 講義が終わる頃には、黒板はびっしりと文字で埋め尽くされていた。


 クロエは腕を組み、感心したようにミアを見る。


「驚いたのう」


「え?」


「ここまで説明して、一度も詰まらず理解する者は滅多におらん」


「普通なら数日はかかる内容じゃ」


 ミアは照れくさそうに笑った。


「たぶん……見えているからです」


「エレメントの流れを見ながら聞くと、とても分かりやすいんです」


 クロエは静かに頷く。


「やはり精霊眼か」


「これは研究において、何より大きな武器になるやもしれんな」


 その時、エルンストが静かに口を開いた。


「クロエが『学者のクロエ』と呼ばれていた理由が、よく分かる」


 ミアは目を丸くする。


「学者の……クロエ様?」


「ああ」


「魔王討伐の旅では、知識と理論で仲間たちを支え、数多くの魔法使いたちを導いた」


「どれほど難しい理論でも分かりやすく説くことから、皆そう呼んでいた」


 ミアは深く頷いた。


「納得です」


「難しいお話なのに、すっと頭に入ってきました」


「まさに学者ですね」


 クロエは照れ隠しのように咳払いをする。


「昔の話じゃ」


「今はただの年寄りじゃよ」


 ミアは首を横に振った。


「いいえ」


「私には世界一の先生です」


 一瞬、クロエは目を丸くした。


 やがて穏やかに笑みを浮かべる。


「……そう言われると、悪い気はせんな」


 エルンストも静かに微笑んだ。


「思っていた以上に飲み込みが早いな」


「ありがとうございます」


 ミアは少し照れながら頭を下げる。


『さすがミア!』


『俺たちの自慢だな!』


 リリとアルも嬉しそうに笑った。


 こうして、火の魔法石研究に必要な最初の知識が、ミアの中へと刻まれていった。


 まだ始まったばかり。


 しかし、この日の学びは、後に世界初の魔法石を生み出す礎となる。


 そして、「学者のクロエ」の知識と、「精霊眼」を持つミアの才能。


 二つが出会ったこの日こそ、新たな時代への扉が開かれた記念すべき一日となるのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ