表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
49/67

第46話 帰路

 ルミエールでの滞在を終えた翌日。


 ミアたちはヴァイスラント帝国への帰路についていた。


 王都ルミエールを出発した馬車は、春の陽光が降り注ぐ街道を進んでいく。


 窓の外には色とりどりの花々が咲いていた。


 若葉をつけ始めた木々。


 草原を渡る暖かな風。


 旅人たちの明るい笑い声。


 ナルシス王国はすっかり春の装いだった。


「気持ちの良い季節ですね」


 ミアが窓を開ける。


 柔らかな風が髪を揺らした。


「そうだな」


 エルンストも頷く。


『あったかいー』


 リリが空中をくるくる回る。


『最高だな』


 アルも満足そうだった。


 クロエは苦笑する。


「お主ら、本当に妖精か?」


「春になると元気になるんじゃな」


 そんな穏やかな旅が数日続いた。


 だが――


 北へ向かうにつれて、景色は少しずつ変わり始める。


 花の数が減り。


 吹く風は冷たさを帯び。


 朝晩には吐く息が白くなった。


 そして。


 国境を越えた日の夕方だった。


「あ……」


 ミアは窓の外を見て目を見開いた。


 山の斜面に白いものが見える。


 雪だった。


 春だというのに。


 まだ冬の名残が残っている。


「雪……」


「残雪だ」


 エルンストが答える。


「ヴァイスラントでは珍しくない」


 ミアは驚いた。


 同じ季節なのに。


 ここまで違うのかと。


 ナルシス王国では花が咲き誇っていた。


 だが。


 帝国北部には、いまだ雪が残っている。


『寒っ』


 リリが震える。


『まだ春だぞ?』


『ここではこれでも春らしいぞ』


 アルが言った。


『嘘だろ』


 リリは信じられないという顔をしていた。


 翌日。


 馬車は北方街道を進んでいた。


 雪こそ降っていない。


 だが風は冷たい。


 荒涼とした大地がどこまでも続いている。


 遠くには雪を頂いた山々。


 時折見える村々の家々は、厚い石壁と急勾配の屋根を備えていた。


「皆さん、冬に備えているんですね」


 ミアが呟く。


「そうだ」


 エルンストは窓の外を見た。


「この国の冬は厳しい」


「毎年のことだ」


 その声は静かだった。


 だが。


 長年見続けてきた現実の重みが滲んでいた。


 街道沿いの村では、人々が薪を運んでいる。


 子供たちも手伝っていた。


 まだ春なのに。


 次の冬への備えが、すでに始まっている。


 ミアは胸が締め付けられる思いがした。


 帝都では気付かなかった。


 だが。


 この国の人々は、厳しい自然と向き合いながら生きているのだ。


「大変ですね……」


 ミアが呟く。


 エルンストは頷いた。


「暖を取るための薪は高い」


「燃料も不足しがちだ」


「寒さで命を落とす者もいる」


 ミアは言葉を失う。


 豊かな帝国。


 強大な帝国。


 その一方で。


 寒さに苦しむ人々がいる。


 それが現実だった。


 馬車はゆっくりと進む。


 夕暮れ。


 空は茜色に染まっていた。


 その光景を見つめながら、ミアは思う。


 もし。


 もっと暖かく暮らせる方法があったなら。


 もし。


 冬の寒さを和らげられたなら。


 どれだけ多くの人が救われるだろう。


 そんなことを考えていると。


「どうした?」


 エルンストが尋ねた。


 ミアは少し迷う。


 そして正直に答えた。


「この国の人たちが」


「もっと暖かく暮らせたら良いのにと思いました」


 エルンストは静かにミアを見る。


 しばらくして。


「そうだな」


 と答えた。


 短い言葉だった。


 だが。


 その瞳には同じ願いが宿っていた。


 馬車は北へ進む。


 春と冬が交わる大地を。


 まだ形にならない小さな願いを胸に抱きながら。


 二人は故郷へと帰っていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ