第40話 ルミエール大聖堂
王都ルミエールの中心部。
街並みを見下ろすようにそびえ立つ、巨大な白亜の建造物。
ルミエール大聖堂。
世界最大の大聖女信仰の聖地である。
一行を乗せた馬車は、大聖堂前の広場へと到着した。
ミアは馬車を降りる。
そして思わず息を呑んだ。
「大きい……」
見上げても、その全貌は把握できない。
純白の壁。
天へと伸びる無数の尖塔。
色鮮やかなステンドグラス。
まるで神話に語られる宮殿のようだった。
『でかい……』
アルも呆然としている。
『でかすぎる……』
リリもぽかんと口を開けていた。
広場には多くの巡礼者たちが集まっていた。
老若男女を問わず、
貴族も平民も関係ない。
誰もが祈りを捧げている。
中には遠方から訪れたのだろう。
旅装束の者たちの姿もあった。
「大聖女様の祝福がありますように」
「家族が健康でありますように」
「今年も無事に過ごせますように」
静かな祈りが広場を包む。
ミアは自然と背筋を伸ばした。
エルンストもまた大聖堂を見上げている。
その横顔は、いつも以上に厳かなものだった。
「行こう」
「はい」
一行は大聖堂の中へ入る。
重厚な扉が開かれた瞬間、
荘厳な空気が全身を包み込んだ。
高い天井。
無数の柱。
色鮮やかなステンドグラスから差し込む光。
そして――
聖歌隊の歌声。
澄み切った祈りの旋律が、大聖堂中へ響き渡っていた。
まるで天上の音楽だった。
『すごい……』
リリが呟く。
『なんか神様の家みたいだな』
アルも珍しく静かだった。
ミアも同じ気持ちだった。
やがて一行は大聖堂の中央へ辿り着く。
そこには巨大な像が建っていた。
大聖女ミュゲ像。
右手を天へ掲げる若き聖女の姿。
その表情は慈愛に満ちている。
「これが……」
ミアは思わず見上げた。
歴史書で何度も見た姿だった。
けれど実物の迫力は圧倒的だった。
三十年前。
魔王を討伐し、
世界を救った英雄。
その偉業は今なお人々の心の中に生き続けている。
『本当に英雄なんだな』
『うん……』
妖精たちも像を見上げていた。
その時だった。
「ヴァイスラント帝国皇帝陛下」
落ち着いた声が響く。
一人の司祭が歩み寄ってきた。
白い法衣を纏った壮年の男性だった。
「ようこそルミエール大聖堂へ」
司祭は深々と頭を下げる。
エルンストも礼を返した。
「ご案内いたします」
「大聖女様がお待ちです」
その言葉を聞いた瞬間、
ミアの心臓が跳ねた。
『来た』
アルが言う。
『来たね』
リリもごくりと唾を飲む。
先ほどまで騒いでいた二人も緊張しているようだった。
ミアは思わず胸元を押さえる。
世界を救った英雄。
歴史に名を刻む大聖女。
その人物が、この先にいる。
「大丈夫か」
エルンストが小さく尋ねた。
ミアは慌てて頷く。
「は、はい」
正直に言えば緊張している。
足が少し震えているほどだ。
だが逃げるわけにはいかない。
未来の皇妃として。
一人の人間として。
しっかり挨拶をしなければならない。
司祭の案内で大聖堂の奥へ進む。
人の気配は少しずつ遠ざかっていく。
静寂に包まれた回廊。
磨き上げられた白い床。
窓から差し込む柔らかな光。
そして――
回廊の先に、一枚の扉が見えた。
司祭が足を止める。
「こちらです」
ミアは息を呑んだ。
扉の向こうには、
伝説の英雄。
大聖女ミュゲ・ジプソフィルが待っている。
いよいよ、その時が訪れようとしていた。




