第39話 王都ルミエール
王都ルミエール
数日に及ぶ旅の末。
一行を乗せた馬車は、ついにナルシス王国へと到着した。
国境を越え、さらに南へ。
整備された街道を進み続けた先。
緩やかな丘を越えた瞬間だった。
「あ……」
ミアは思わず息を呑んだ。
窓の外に広がる光景に目を奪われる。
白亜の大都市。
王都ルミエール。
陽光を浴びて輝く白い石造りの街並み。
幾つもの尖塔が空へ向かって伸びている。
色鮮やかな花々が街路を彩り、噴水広場では子供たちが楽しそうに遊んでいた。
雪と氷に包まれた帝都シュヴァルツブルクとはまるで違う。
明るく。
温かく。
そしてどこか神聖だった。
『でっか!?』
リリが叫ぶ。
『なんだあれ!?』
『王都だろ』
アルも思わず目を見開く。
『大聖堂でかすぎるだろ!』
『街より目立ってるぞ!』
妖精たちが騒ぐのも無理はなかった。
街の中心には巨大な白亜の建造物がそびえ立っている。
ルミエール大聖堂。
大聖女信仰の総本山。
世界中の信徒が一度は訪れたいと願う聖地である。
「綺麗……」
自然と言葉が漏れた。
エルンストが隣を見る。
「気に入ったか」
「はい」
ミアは素直に頷いた。
「帝都とは全然違います」
シュヴァルツブルクは重厚で威厳に満ちた都だった。
対してルミエールは人々の温もりを感じる。
まるで街全体が訪れた者を歓迎しているようだった。
やがて馬車は城門を潜り、市街地へと入る。
そこは想像以上の賑わいだった。
「大聖女様に感謝を!」
「今年も巡礼に来られたぞ!」
「ルミエール名物の焼き菓子はいかがですかー!」
大通りには大勢の人々が行き交っている。
巡礼者。
商人。
旅人。
神官。
様々な人種と国籍の人々が集まっていた。
露店も数え切れないほど並んでいる。
聖女像。
祈りの護符。
大聖堂を模した置物。
大聖女ミュゲを描いた絵画。
どこを見ても大聖女に関する品ばかりだった。
『人気者だな』
アルが感心したように言う。
『そりゃそうだよ!』
リリが胸を張る。
『世界を救った英雄だもん!』
『お前が偉そうにするな』
『えへへ』
ミアは思わず笑った。
すると前方から声が聞こえる。
「懐かしいのう」
クロエだった。
窓の外を見ながら目を細めている。
「変わらん」
「本当に変わらんのう」
その表情はどこか穏やかだった。
「クロエ様は何度も来られたことがあるのですか?」
ミアが尋ねる。
「若い頃は何度ものう」
クロエは懐かしそうに微笑む。
「わしにとっても思い出深い街じゃ」
エルンストは何も言わない。
ただ静かに外を眺めていた。
やがて馬車は大通りを抜ける。
街の中心へ近づくにつれ、ルミエール大聖堂はさらに大きく見えてきた。
純白の外壁。
空へ届きそうな尖塔。
色鮮やかなステンドグラス。
まるで神話の中の建物だった。
ミアは思わず息を呑む。
あの場所に。
伝説の英雄がいる。
四十年前。
魔王を討伐し。
一千年続いた災厄へ終止符を打ち。
世界を救った大聖女。
ミュゲ・ジプソフィル。
あと少しで会うことになるのだ。
緊張で胸が高鳴る。
『会えるんだな……』
アルが珍しく静かだった。
『うん……』
リリも頷く。
先ほどまで騒いでいた二人が今は大人しい。
それほどまでに特別な存在なのだろう。
ミアは窓の外へ視線を向けた。
白亜の街並み。
巡礼者たちの笑顔。
人々の祈り。
そして街を見守る大聖堂。
王都ルミエール。
そこはまさに――
大聖女ミュゲが守り続けた平和の象徴だった。




