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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


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第33話 精霊眼

 白竜皇妃エイルとの会話は、思いのほか和やかなものだった。


 伝説に名を残す存在であることを忘れてしまうほど、彼女は親しみやすい。


 ミアもいつの間にか緊張を解いていた。


 その時だった。


 エイルがふとミアの顔を覗き込む。


「ねえ」


「はい?」


「貴方、人間にしては珍しい眼を持っているわね」


 ミアは首を傾げた。


「眼、ですか?」


「ええ」


 エイルは黄金の瞳を細める。


「ずっと気になっていたの」


 ミアには何のことだか分からない。


 すると玉座に座るオルドが静かに口を開いた。


「やはり気付いたか」


「当然です」


 エイルは微笑む。


「こんなに珍しいものですもの」


 そしてミアへ向き直る。


「貴方、精霊眼の持ち主でしょう?」


「精霊眼……?」


 初めて耳にする言葉だった。


 エイルは頷く。


「魔眼の一種よ」


 ミアは黙って耳を傾ける。


「世の中には魔眼というものが存在するわ」


「魔素を見ることができる特別な眼」


「優れた魔法使いの中には、ごく稀に持つ者もいるの」


 エイルは続けた。


「そして魔眼を持つ者は、精霊を見ることができる」


「精霊……」


「ええ」


 エイルは頷く。


「精霊は身体が魔素で構成された生命体よ」


「魔素の流れが濃い場所や、四大元素の力が集まる場所に現れる存在」


 ミアは静かに聞いていた。


 だが、エイルはそこで首を横に振る。


「でも妖精は違うの」


 ミアは思わず息を呑んだ。


「妖精さん……」


「そう」


 エイルは微笑む。


「妖精は精霊とは別の存在」


「身体そのものが魔粒子で構成された生命体なの」


「魔粒子……?」


 聞き慣れない言葉だった。


 エイルは丁寧に説明する。


「魔粒子には四つの種類があるわ」


「火のエレメント」


「水のエレメント」


「風のエレメント」


「土のエレメント」


 ミアは目を瞬かせた。


「四大エレメント……」


「そう」


 エイルは頷く。


「世界中の魔素は、この四種類のエレメントが集まってできているの」


「つまり魔粒子は、魔素を構成する最小単位ということね」


 ミアは少しずつ理解していく。


 エイルは続けた。


「精霊は魔素でできた生命体」


「でも妖精は魔粒子そのものでできた生命体」


「だから魔眼では見えないの」


「魔眼で見えるのは魔素までだから」


 そして優しく微笑む。


「精霊眼だけが魔粒子を見ることができるのよ」


「だから妖精を見ることができるの」


 ミアの胸が高鳴った。


 リリ。


 アル。


 幼い頃からずっと一緒にいた存在。


 誰にも見えなかった存在。


 やはり本当にいたのだ。


「ちなみに」


 エイルは続ける。


「人間が精霊眼を持つことは滅多にないわ」


「千年に一人いるかどうか」


 ミアは目を見開いた。


「そんなに珍しいんですか?」


「ええ」


 エイルは頷いた。


「記録に残っている人間は、一人だけ」


 そこでオルドが静かに告げた。


「魔王ニコラスだ」


 ミアは息を呑んだ。


 世界を恐怖へ陥れた魔王。


 英雄譚や歴史書に必ずその名が記される存在。


 まさか、自分と同じ眼を持っていたとは思いもしなかった。


「ニコラスもまた、精霊眼の持ち主だった」


 オルドは静かに続ける。


「じゃが、それが善悪を決めるわけではない」


「眼は、あくまで眼」


「重要なのは、それを持つ者自身じゃ」


 重みのある言葉だった。


 オルドはしばらくミアを見つめる。


 そして静かに尋ねた。


「ミア・ランベルト」


「は、はい」


「そなたの眼には何が見えている?」


 不思議な問いだった。


 能力について聞いているわけではない。


 そんな気がした。


 ミアは少し考える。


 そして自然と微笑んだ。


「友達です」


 オルドの黄金の瞳がわずかに細められる。


「友達?」


「はい」


 ミアは頷いた。


「リリもアルも、ずっと昔から一緒にいてくれました」


「辛い時も」


「悲しい時も」


「誰も信じてくれなかった時も」


 脳裏に幼い日の記憶が浮かぶ。


 妖精が見えると言っても、誰も信じてくれなかった。


 それでも。


 リリとアルだけは、いつも傍にいてくれた。


「だから私にとって妖精さんたちは、大切な友達なんです」


 静寂が訪れる。


 やがて。


 エイルが優しく微笑んだ。


「そう」


 その声は、どこか嬉しそうだった。


 オルドも静かに目を閉じる。


 そして、小さく頷く。


「なるほど」


 それだけだった。


 だが、その短い言葉には、確かな満足が込められていたのである。

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