第32話 白竜皇妃エイル
温かな想いを胸に抱いたまま、ミアは深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
白竜皇オルドは静かに頷く。
「うむ」
それだけだった。
だが、その一言には不思議な安心感があった。
ミアはもう一度礼をして踵を返す。
これで選定は終わりだ。
エルンストのところへ戻ろう。
そう思った、その時だった。
謁見の間の奥にある扉が静かに開いた。
「あなたがミアちゃんね?」
明るい声が響く。
ミアは思わず振り返った。
そして――言葉を失った。
美しかった。
今まで見た誰よりも。
金色にも見える淡い白銀の髪。
透き通るような白い肌。
宝石のような黄金の瞳。
二十歳ほどに見える女性だった。
その姿は幻想的ですらある。
まるで神話に登場する女神のようだった。
「え……」
ミアは思わず呆然とする。
女性は楽しそうに笑った。
「あらあら」
「そんな顔をしなくても食べたりしないわよ?」
気さくな口調だった。
先ほどまでの緊張感が嘘のようである。
ミアは慌てて頭を下げた。
「し、失礼いたしました!」
「ふふっ」
女性は笑う。
そしてオルドの隣まで歩いていった。
その自然な仕草を見て、ミアは気付く。
まさか。
「紹介しよう」
オルドが口を開いた。
「我が妻だ」
ミアは目を見開く。
女性はにっこり微笑んだ。
「エイルよ」
「よろしくね、ミアちゃん」
白竜皇妃エイル。
白竜皇オルドの妻。
帝国の伝説にも語られる存在だった。
ミアは慌てて再び礼をする。
「ミア・ランベルトです」
「お会いできて光栄です」
「そんなに堅くならなくていいわ」
エイルは笑った。
「私、そういうの苦手なの」
とても白竜皇妃とは思えない発言だった。
ミアは困惑する。
隣ではオルドが静かに目を閉じている。
どうやら慣れているらしい。
「それにしても」
エイルはミアの周りをくるりと歩く。
「可愛い子ねぇ」
「えっ?」
「オルドから話は聞いていたの」
ミアは思わずオルドを見る。
オルドは何も言わない。
だがエイルは楽しそうだった。
「久しぶりなのよ」
「こんなに気に入った子」
「気に入った?」
ミアが首を傾げる。
エイルは大きく頷いた。
「そう!」
「だって優しいんだもの!」
その言葉にミアは照れてしまう。
「そんなこと……」
「あるわよ」
エイルは即答した。
「傷付いたのに人を思いやれる人なんて、そういないもの」
その言葉は先ほどのオルドの評価と同じだった。
ミアは少しだけ俯く。
すると。
エイルがそっと手を握った。
温かかった。
「これから大変なこともあると思うわ」
優しい声だった。
「でもね」
エイルは微笑む。
「あなたなら大丈夫」
不思議な言葉だった。
根拠もない。
けれど安心する。
どこか母親のような温かさがあった。
「ありがとうございます」
ミアは自然と笑顔になっていた。
エイルも嬉しそうに笑う。
「よかった」
「笑った方がずっと可愛いわ」
ミアはますます顔を赤くした。
その様子を見てエイルは満足そうに頷く。
すると、隣で見ていたオルドがふっと口を開いた。
「エイル」
「何かしら?」
「お前がそこまで気に入るとは珍しいな」
穏やかな声音だった。
エイルは少し目を丸くした後、楽しそうに笑う。
「そうかもしれないわね」
「でも、この子は特別よ」
そう言ってミアの手をぎゅっと握る。
ミアは突然話題の中心になり、戸惑うばかりだった。
「ふふっ」
エイルは楽しそうに笑った。
こうしてミアは、白竜皇妃エイルと出会った。
それは後に皇妃となるミアにとって、かけがえのない友人との出会いとなるのだった。




