第28話 門前
白竜皇オルドの居城。
その巨大な城門の前まで辿り着いた時だった。
ごごごごご――
重厚な音が響く。
ミアが思わず身構える。
閉ざされていた巨大な城門が、ゆっくりと開き始めたのだ。
人が何十人並んでも届かないほどの高さ。
まるで山そのものが開いているようだった。
「……っ」
ミアは息を呑む。
その光景だけで圧倒される。
やがて城門が完全に開かれる。
そして。
その向こうに広がっていた光景に、ミアは目を見開いた。
「え……?」
城門の内側。
そこには数え切れないほどの人影が並んでいた。
白竜たちだった。
白銀の髪。
金色の瞳。
美しい衣装に身を包んだ男女。
その全員が整然と列を作っている。
左右に分かれた列は城門から遥か奥まで続いていた。
まるで王族を迎える儀式のようだった。
『なんだこれ』
アルが呆然と呟く。
『すごい……』
リリも目を丸くする。
ミア自身も状況が理解できない。
すると。
一人の壮年の白竜が前へ進み出た。
白い礼服。
威厳ある佇まい。
おそらくこの城の重臣なのだろう。
彼はミアの前で恭しく頭を下げた。
「ようこそお越しくださいました」
ミアは慌てる。
「えっ」
「ミア・ランベルト様」
その声を合図にしたかのように、城門前に並ぶ白竜たちが一斉に頭を垂れた。
列の最前には宰相と思しき老齢の白竜。
その隣には武官や文官らしき者たち。
さらに奥には侍従や侍女たちの姿まで見える。
まるで城中の臣下たちが総出で出迎えているかのようだった。
「竜皇陛下がお待ちしております」
静かな声だった。
だが。
その場にいる全員が同じ意思を持っていることが伝わってくる。
歓迎。
それは間違いなかった。
ミアは困惑する。
選定とは試験のようなものだと思っていた。
歴代の令嬢たちは門前払いされたと聞いている。
失神した者もいた。
会うことすら許されなかった者もいた。
なのに。
自分は歓迎されている。
なぜだろう。
「何かの間違いでは……」
思わず口にする。
すると壮年の白竜は優しく微笑んだ。
「間違いではございません」
「ですが私は……」
「竜皇陛下がお会いになると決められました」
それだけだった。
だが。
その言葉の意味は大きい。
少なくとも。
門前払いではない。
それだけは確かだった。
ミアは小さく息を吐く。
ほんの少しだけ肩の力が抜けた。
その時だった。
「ここから先は一人だ」
エルンストが言った。
ミアは振り返る。
「陛下?」
「謁見の間へ入れるのは選定を受ける者だけだ」
静かな声だった。
「私も行けない」
ミアは思わず周囲を見る。
クロエもいない。
護衛もいない。
侍女もいない。
本当に一人なのだ。
『えっ』
リリが固まる。
『マジか』
アルも目を瞬かせた。
ミアの胸が再び緊張で締め付けられる。
一人。
本当に一人。
今までずっと誰かがいた。
リリがいた。
アルがいた。
エルンストがいた。
だがここから先は違う。
ミア自身が歩かなければならない。
「大丈夫だ」
不意にエルンストが言った。
ミアは顔を上げる。
青い瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。
「ありのままで行けばいい」
短い言葉だった。
だが。
不思議と力が湧いてくる。
ミアは小さく頷いた。
「はい」
エルンストも静かに頷く。
それ以上は何も言わない。
けれど。
それで十分だった。
ミアは前を向く。
巨大な城門の向こう。
白い回廊が続いている。
その先に。
白竜皇オルドがいる。
壮年の白竜が静かに告げた。
「謁見の間でお待ちです」
ミアは深呼吸する。
怖い。
不安だ。
今すぐ逃げ出したい。
それでも。
ここまで来たのだ。
ミアは一歩を踏み出す。
そして。
白竜たちの列の間を通り抜けていく。
誰も声を発しない。
ただ静かに見守っている。
やがて。
巨大な扉が見えてきた。
謁見の間。
その先にいるのは。
千年以上の時を生きる白竜皇。
ミアは震える手を握り締める。
そして。
一人でその扉をくぐったのである。




