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第22話 新しい居場所

 その夜。


 ミアは一人、皇宮の庭園を歩いていた。


 辺りは静寂に包まれている。


 空からは雪が降っていた。


 白く。


 静かに。


 まるで世界そのものを包み込むように。


 吐く息は白い。


 けれど不思議と寒くはなかった。


『こんな時間に散歩か?』


 アルが肩の辺りを飛びながら言う。


『珍しいね』


 リリも隣でふわふわと舞っている。


 ミアは小さく笑った。


「少し考え事」


 そう答えて空を見上げる。


 雪が頬に触れる。


 冷たい。


 けれど心地良かった。


 クロエから聞いた話を思い出す。


 冷徹皇帝。


 そう呼ばれる理由。


 感情表現が苦手なだけ。


 本当は誰よりも優しい人。


 誰よりも国民を想っている人。


 誰よりも自分を後回しにしてしまう人。


 ミアは立ち止まった。


 胸の奥が少しだけ痛む。


「変な人」


 思わず呟く。


 火傷を治してくれた。


 何も求めずに。


 何の見返りもなく。


 ただ困っているから。


 それだけの理由で。


 ローズフィールド王国では考えられなかった。


 優しさには理由があった。


 価値があった。


 条件があった。


 だがエルンストは違う。


 本当に違う。


 ミアは両手を胸の前で握り締めた。


 ふと。


 故郷のことを思い出す。


 ランベルト伯爵家。


 父。


 母。


 エミリー。


 ヘンリー。


 王城。


 王妃教育の日々。


 必死だった。


 認められたかった。


 必要とされたかった。


 愛されたかった。


 だが叶わなかった。


 最後には捨てられた。


 家族にも。


 婚約者にも。


 国にも。


 何も残らなかった。


 だから。


 ミアは諦めた。


 期待しないことを覚えた。


 傷つかないために。


「どうせ私なんて……」


 そこまで言って。


 ミアは口を閉じた。


 思い出す。


 エルンストの言葉を。


『その言葉は好きではない』


 胸の奥が少しだけ温かくなる。


 不思議だった。


 たった一言なのに。


 何度も思い出してしまう。


『ミア』


 リリが優しく呼ぶ。


 ミアは微笑んだ。


「うん」


 大丈夫。


 そう思えた。


 この国に来た時は怖かった。


 冷徹皇帝の国。


 雪と氷の帝国。


 誰も自分を必要としない場所だと思っていた。


 だが違った。


 クロエがいる。


 クラウスがいる。


 そして。


 エルンストがいる。


 まだ分からないことは多い。


 不安もある。


 けれど。


 もしかしたら。


 本当にもしかしたら。


 この場所は――


 自分の居場所になるのかもしれない。


 雪が静かに降り続ける。


 ミアは空を見上げた。


 白い雪が夜空を舞っていた。


 そして。


 小さく呟く。


「もう少しだけ……頑張ってみようかな」


 その声は雪の中へ溶けていく。


 だが。


 確かに前を向いた言葉だった。


 捨てられた令嬢はまだ知らない。


 この帝国で出会う人々が。


 この先の人生を大きく変えていくことを。


 そして。


 冷徹皇帝と呼ばれる青年が。


 誰よりも大切な存在になっていくことを。


 まだ知らなかったのである。

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