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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus文庫


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SS 第9話 幻の魔導書籍

 アウローラ魔導国を訪れた本来の目的。


 それは、宮廷筆頭魔導士クロエ・アストレアから託された一冊の魔導書を手に入れることだった。


 著者は、約四百年前に活躍した伝説の魔導士――大賢者サイオス。


 現代魔法学の礎を築いた人物として、その名を知らぬ魔導士はいない。


 しかし、その原本は容易に見つかるものではなかった。


 まず二人は、王都でも有数の大書店を訪れる。


「申し訳ありません」


「サイオス様の原本は取り扱っておりません」


 店主は申し訳なさそうに頭を下げた。


「魔法図書館でしたら、何かご存じかもしれません」


 二人は礼を述べ、世界最大の魔法図書館へ向かう。


 だが、そこでも目的の本は見つからない。


「原本は当館にはございません」


「アウローラ魔法大学なら、詳しい研究者がおられるでしょう」


 紹介を受け、今度は魔法大学へ。


 広大な学び舎では、多くの学生や研究者が魔法理論について熱心に議論を交わしていた。


 事情を説明すると、一人の教授が静かに頷く。


「その魔導書でしたら、王立魔導研究所が管理している可能性があります」


 紹介状を受け取り、二人は再び足を運ぶ。


 しかし、研究所でも答えは同じだった。


「申し訳ありません」


「その件でしたら、資料保管室の責任者が詳しいでしょう」


 責任者を訪ねれば、


「現在は退官された先生が、その魔導書について最もよくご存じです」


 そう言われる。


 気付けば、一日中アウローラの街を歩き回っていた。


「ずいぶん歩きましたね」


 ミアは苦笑する。


「諦めるか?」


 エルンストが静かに尋ねた。


 しかしミアは、迷うことなく首を横へ振った。


「いいえ」


「クロエ様が必要だとおっしゃった本です」


「私も最後まで探したいです」


 その言葉に、エルンストは穏やかに微笑んだ。


「ああ」


「最後まで探そう」


 二人は最後の望みを託し、退官した老魔導士の住まいを訪ねた。


 静かな書斎だった。


 壁一面には古い魔導書が隙間なく並び、長い年月を感じさせる紙の香りが漂っている。


 白髪の老魔導士は、二人の話を最後まで静かに聞いていた。


「大賢者サイオスの原本を探しておるのか」


「はい」


 エルンストが頷く。


「宮廷筆頭魔導士クロエ・アストレアより、ぜひ手に入れてきてほしいと頼まれました」


 その名を聞いた老人は、ふっと懐かしそうに笑った。


「クロエか……」


「まだ魔法を追い続けておるのじゃな」


 そう呟くと、老人はゆっくりと立ち上がり、本棚の奥へ歩いていく。


 鍵の掛かった戸棚を開け、一冊の古びた魔導書を大切そうに取り出した。


 深い藍色の革表紙。


 金文字で刻まれた題名。


 ――『大賢者サイオス魔法理論全集』


 老人はその一冊を両手で抱え、静かに二人へ差し出した。


「本とは、必要とする者の手に渡ってこそ価値がある」


「本当に、この本を必要としている者へ託そう」


 ミアは思わず息を呑んだ。


 エルンストも深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


「必ず、大切に活用させていただきます」


 老人は満足そうに頷いた。


「クロエ殿にもよろしく伝えてくれ」


「きっと、あやつならこの知識を未来へ繋いでくれるじゃろう」


 二人は何度も礼を述べ、魔導書を大切に抱える。


 長い道のりの末、ようやく手にした幻の魔導書。


 それはクロエへの何よりの土産であり、帝国の未来を切り開く希望の一冊となるのだった。

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