SS 第10話 二人だけの愛
アウローラ魔導国で過ごす最後の夜。
二人が宿泊する宿の窓からは、幻想的な夜景が広がっていた。
街路には魔導灯が柔らかな光を灯し、遠くでは魔導列車が静かに夜の街を走り抜けていく。
昼間の賑わいが嘘のように、穏やかな静寂が街を包んでいた。
窓辺に並んで立ちながら、ミアはゆっくりと夜景を眺める。
「綺麗ですね……」
「ああ」
エルンストも静かに頷いた。
しばらくの間、二人は言葉を交わすことなく、美しい景色を見つめ続ける。
やがてミアは、小さく微笑んだ。
「楽しかったですね」
「初めて見る景色も、初めて食べる料理も、全部新鮮でした」
そう言って、少し照れたように笑う。
「こんなに笑ったのは……久しぶりです」
社交界で浴びせられた心ない言葉。
皇妃としての重圧。
自分は本当に相応しいのだろうかという不安。
この旅へ出る前まで、ミアはそのすべてを一人で抱え込んでいた。
けれど、この数日間で、その心は少しずつ軽くなっていた。
エルンストは優しい眼差しでミアを見つめる。
「私もだ」
「皇帝としてではなく、一人の人間として笑えた気がする」
二人は顔を見合わせ、自然と微笑み合った。
静かな沈黙が流れる。
その沈黙さえ、心地よかった。
エルンストはそっとミアの手を包み込む。
優しく。
何よりも大切なものを慈しむように。
「ミア」
「はい」
「愛している」
短い言葉。
飾り気のない、その一言には偽りのない想いが込められていた。
ミアの頬がほんのりと赤く染まる。
照れながらも、その手を握り返した。
「私も……愛しています」
「エルンスト様」
二人の視線が重なる。
エルンストはゆっくりとミアを抱き寄せた。
ミアもまた、その胸へそっと身を預ける。
互いの温もり。
互いの鼓動。
すべてが愛おしかった。
社交界で受けた悲しみも。
胸の奥に残っていた不安も。
今はもう、どこにもなかった。
ただ、愛する人が隣にいる。
それだけで十分だった。
窓の外では、満天の星々が静かに輝いている。
二人はそっと唇を重ねる。
言葉はいらなかった。
互いの想いを確かめ合うように、何度も優しく抱き締め合う。
この夜。
二人は夫婦として、これまで以上に深い愛と絆で結ばれるのだった。




