SS 第7話 アウローラ魔導国
数日後。
エルンストとミアは、お忍びの旅の末、世界最高峰の魔法文明を誇る国家――アウローラ魔導国へ到着した。
国境を越えた瞬間、ミアは思わず息を呑む。
「わあ……!」
目の前に広がる街並みは、ヴァイスラント帝国とはまるで違っていた。
青白い魔力の光をまとった魔導列車が街の上を滑るように走り抜け、人々を乗せて軽やかに行き交う。
「列車が……魔法で動いています」
驚いたように呟くミア。
エルンストも興味深そうに列車を見つめた。
「魔力結晶を動力源にしているのだろう。実に効率的だ」
街路へ足を踏み入れると、そこには数え切れないほどの魔道具専門店が軒を連ねていた。
自動で床を掃除する箒。
料理を温かいまま保つ保温箱。
魔力だけで明かりを灯す照明。
生活を便利にする魔道具が所狭しと並び、多くの人々で賑わっている。
「見てください、エルンスト様!」
ミアは目を輝かせながら店先を指差した。
「こんな魔道具、初めて見ました!」
「気になるなら入ってみよう」
「はい!」
二人は店を巡りながら、珍しい魔道具を一つひとつ眺めて歩く。
店主の説明を聞くたび、ミアは感心したように頷き、エルンストも研究者らしい鋭い視線で構造を観察していた。
やがて二人は、アウローラ魔導国が誇る世界最大の魔法図書館へ辿り着く。
巨大な白亜の建物。
天井まで届く本棚には、無数の魔導書が整然と並んでいた。
魔法理論。
魔法陣学。
錬金術。
古代魔法。
失われた魔法文明の研究書まで収蔵されている。
「すごい……」
ミアは思わず息を呑んだ。
「全部、魔導書なんですね」
「世界中の魔法研究者が、この図書館を目指して訪れるそうです」
司書が誇らしげに説明する。
その言葉を聞き、エルンストの瞳が静かに輝いた。
皇帝である以前に、一人の魔法研究者でもある彼にとって、この場所はまさに知識の宝庫だった。
さらに街を歩いていると、一体の魔導人形が荷車を押して通り過ぎる。
人間と見間違えるほど精巧な姿。
胸元には小さな魔力結晶が埋め込まれ、命を宿したかのように滑らかに動いている。
「魔導人形……」
ミアは目を丸くした。
「荷物を運んでいるんですね」
「ああ」
エルンストは頷く。
「高度な魔力制御術が用いられている。帝国でも参考になる技術だ」
二人はしばらく足を止め、その動きを興味深そうに眺めていた。
未知の魔法技術。
新しい発想。
研究者としての好奇心が次々と刺激される。
だが、今日の旅で得られたものは、それだけではなかった。
今の二人は、皇帝でも皇妃でもない。
ただ一組の夫婦として、誰にも気兼ねすることなく街を歩いている。
「陛下――」
ミアが呼びかけると、エルンストは優しく微笑んだ。
「今はエルンストでいい」
「あ……」
ミアは少し照れながら笑う。
「では……エルンスト様」
「それでいい」
肩を並べて歩く二人。
忙しい日々では決して味わうことのできない、穏やかで幸せな時間がゆっくりと流れていた。
新婚旅行は、まだ始まったばかりだった。




