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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


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SS 第4話 妖精の悪戯

 数日後。


 皇宮では再び社交界が開かれていた。


 会場となったのは、離宮に併設された庭園のテラス。


 色とりどりの花々が咲き誇り、澄み渡る青空の下、白いテーブルと椅子が整然と並べられている。


 爽やかな風が吹き抜け、貴婦人たちは優雅に紅茶を楽しんでいた。


 前回、エルンストに励まされたミアは、小さく深呼吸をした。


(もう大丈夫)


(私は皇妃なんだから)


 そう自分へ言い聞かせながら、婦人たちの輪へ加わる。


 肩にはリリ。


 反対側にはアル。


 二人は今日もミアを見守っていた。


『今日は何もないといいね』


『あいつら次第だな』


 アルは腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らす。


 その視線の先には、イザベラ・フォン・ヴァルデン公爵夫人がいた。


 イザベラは婦人たちの中心で優雅に紅茶を口へ運び、穏やかな笑みを浮かべている。


「そういえば皇妃陛下」


 静かな声が響く。


「火の魔法石を考案されたのでしたわね」


「でしたら、少し魔法学のお話をいたしませんこと」


 突然話を振られ、ミアは少し驚いた。


「はい……」


「まだ勉強中ですが」


 イザベラは優雅に頷く。


「では、簡単な質問ですわ」


「魔法回路には個人差がありますが、その差は何によって生じると考えられておりますか」


 ミアは少し考えた。


 だが、答えは浮かばない。


「……申し訳ありません」


「分かりません」


 イザベラは表情一つ変えず、さらに質問を続ける。


「魔力枯渇状態となった魔術師は、どのような過程で魔力を回復するのでしょう」


「複合魔法を安定して維持するために最も重要な要素は何でしょう」


 どれも専門的な魔法学の知識だった。


「……申し訳ありません」


「まだ、そこまで勉強が進んでおりません」


 ミアは素直に頭を下げる。


 その様子を見て、一人の婦人が扇子で口元を隠した。


「まあ……」


「火の魔法石を考案された方でも、お答えになれませんのね」


 別の婦人も続く。


「火の魔法石も、本当に皇妃陛下がお考えになったものなのでしょうか」


「宮廷筆頭魔導士クロエ様のお力ではありませんこと?」


「そうでなければ説明がつきませんわ」


 婦人たちの間に、くすくすという笑い声が広がる。


 イザベラは何も言わない。


 ただ静かに紅茶を口へ運ぶだけだった。


 ミアは俯く。


 何も言い返せない。


 クロエから魔法学を学び始めて、まだ日が浅い。


 基礎は理解していても、専門知識までは身についていなかった。


『……もう限界』


 リリが頬を膨らませる。


『俺もだ』


 アルの額に青筋が浮かぶ。


『ミアを泣かせる奴は許さねぇ』


 その瞬間だった。


「あつっ!」


 一人の婦人が悲鳴を上げた。


 持っていた紅茶が突然熱湯のように熱くなり、慌ててカップを置く。


「な、何ですの!?」


 続いて――。


 ビュオオオオッ!!


 突風が庭園を吹き抜けた。


「きゃっ!」


「まあ!」


 イザベラや婦人たちが何時間もかけて整えた髪は一瞬で乱れ、帽子や羽飾りが次々と空へ舞い上がる。


 さらに晴れ渡っていた空へ黒雲が集まり始めた。


「う、嘘でしょう……?」


 ザァァァァァァッ!!


 激しい雨が降り始める。


 しかし雨が降っているのは、イザベラと先ほど笑っていた婦人たちの頭上だけ。


 数歩離れたミアや侍女たちには、一滴の雨も降らない。


「きゃあああっ!」


「助けてくださいませ!」


「どうして私たちだけ!?」


 優雅だった社交界は、一瞬にして大混乱となった。


 ミアは呆然と立ち尽くす。


「……どうして?」


 肩の上では、リリとアルが知らん顔をして口笛を吹いていた。


『知らないなぁ』


『知らねぇな』


 その答えを知る者は、まだ誰もいなかった。

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