第201話 伝説の降臨
皇宮・大聖堂。
厳かな鐘の音が響く中、司祭は祭壇の前へ立つ二人へ静かに語り掛けた。
「それでは、誓いの儀を執り行います」
大聖堂は静寂に包まれる。
世界各国から集まった王侯貴族たちも、固唾を呑んで見守っていた。
エルンストとミアが互いを見つめ合い、誓いを交わそうとした、その時だった。
突如、大聖堂の外が騒がしくなる。
「な、何だ!」
「空を見ろ!」
誰かの叫び声が響き渡る。
参列者たちは一斉に外へ視線を向けた。
青空を覆うように、巨大な白い影がゆっくりと舞い降りてくる。
白銀に輝く鱗。
天を覆うほどの巨大な翼。
神々しい威厳を纏うその姿は、まさしく伝承に語られる白竜皇そのものだった。
先頭を飛ぶのは、白竜皇オルド。
その隣には、白竜皇妃エイル。
さらに、その後方には白竜族の従者たちが隊列を組み、大空を悠然と飛翔している。
白竜皇と白竜皇妃の真の姿を目にした者は、建国以来、初代皇帝――祖皇を除いて誰一人いないと伝えられていた。
まさに伝説が、今この瞬間、現実となったのである。
人々は息を呑んだ。
「白竜皇陛下だ……!」
「白竜皇妃陛下まで……!」
「まさか……真の御姿を、この目で見る日が来るとは……!」
驚きと畏敬の声が、皇都中へ広がっていく。
世界各国の王侯貴族たちも立ち上がり、その光景を食い入るように見つめていた。
「伝説ではなかったのか……」
「世界を見守る白竜皇が、人前へ姿を現すとは……」
その中で、一人だけ穏やかな笑みを浮かべている人物がいた。
宮廷筆頭魔導士クロエである。
クロエは静かに一歩前へ進み出ると、深く頭を垂れた。
「白竜皇陛下、白竜皇妃陛下」
「本日は、お越しいただきありがとうございます」
オルドは静かに頷いた。
「久しいな、クロエ」
「はい。お変わりないご様子で何よりでございます」
短いやり取りだった。
しかし、その姿は両者の長きにわたる信頼を物語っていた。
やがて、オルドとエイルは大聖堂前へ静かに降り立つ。
眩い白い光が二柱を包み込み、その巨大な竜の姿はゆっくりと人の姿へ変わっていった。
白銀の髪を揺らすオルド。
気品あふれる笑みを浮かべるエイル。
二人が姿を現した瞬間、その場にいた誰もが自然と頭を垂れる。
オルドは祭壇へ歩み寄ると、エルンストとミアを静かに見つめ、厳かな声で告げた。
「アルカ=ヴェル竜皇国を代表し、この婚姻を祝福する」
その一言は、大聖堂の隅々まで静かに響き渡った。
続いてエイルはミアのもとへ歩み寄り、優しく抱き締める。
「おめでとう、ミア」
「あなたなら、きっと素晴らしい皇妃になれます」
ミアは嬉しそうに微笑み、深く一礼した。
「ありがとうございます」
大聖堂は静まり返っていた。
竜族は決して人へ干渉しない。
それが、この世界の常識だった。
しかし今日、その常識は覆された。
白竜皇と白竜皇妃自らが、人間の結婚を祝福するため姿を現したのである。
その光景は、参列した誰もの心へ深く刻まれることになる。
この婚姻は、一つの帝国だけではない。
世界そのものに祝福された、歴史に残る結婚式となったのである。




