第200話 嫉妬
皇宮・大聖堂。
厳かな鐘の音が響く中、皇帝エルンストと皇妃ミアの結婚式は滞りなく進められていた。
純白の花々で彩られた大聖堂。
世界各国から集まった王侯貴族。
そして、二人を祝福する数え切れないほどの参列者。
誰もが帝国の新たな門出を祝っていた。
ローズフィールド王国の席では、第二王子ヘンリーと、その妃メアリーが静かに式を見守っている。
祭壇の前へ並ぶエルンストとミア。
純白の礼装と花嫁衣装に身を包んだ二人の姿は、まるで一枚の絵画のように美しかった。
国民からの祝福。
各国の王侯貴族から送られる惜しみない拍手。
誰もが二人の幸せを願っている。
その光景を見つめながら、メアリーは無意識に唇を噛み締めていた。
視線は、祭壇に立つエルンストから離れない。
そして、小さく呟く。
「本当は……私があそこに立つはずだった……」
その声は決して大きくはなかった。
だが、隣に座るヘンリーの耳には、はっきりと届いていた。
「メアリー……」
ヘンリーは愕然とした表情で妻を見つめる。
しかし、メアリーは気づかない。
視線はなおもエルンストへ向けられたままだった。
「どうして、お姉様ばかり……」
「どうして、あの人に選ばれたのがお姉様なの……」
その瞳に宿っていたのは、祝福ではなく嫉妬だった。
周囲にいた各国の来賓たちも、その言葉に気付き、小さく息を呑む。
「まさか、この場で……」
「法廷の真実を知っても、まだ……」
囁き声が静かに広がっていく。
ヘンリーはゆっくりと目を閉じ、小さく息を吐いた。
法廷で明らかとなった真実。
ミアが受けた理不尽な仕打ち。
そのすべてを知った今でも、メアリーは姉を妬み続けている。
その事実が、ヘンリーの胸を深く締め付けた。
「……残念だ」
短く漏れたその一言に、メアリーはようやく我に返る。
「あなた……?」
しかし、ヘンリーは何も答えなかった。
静かに視線を祭壇へ戻し、幸せそうに微笑むエルンストとミアを見つめる。
その横顔には、妻への深い失望が滲んでいた。
一方、祭壇の上では何も知らないエルンストとミアが、穏やかな笑顔で見つめ合っている。
祝福に包まれる二人。
そして、嫉妬に囚われ続ける一人。
それぞれが選んだ道は、あまりにも対照的だった。




