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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


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201/210

第198話 皇帝の帰還

 判決から数日後。


 帝都シュヴァルツブルク。


 皇宮・謁見の間。


 皇族をはじめ、帝国の重臣、騎士団長、文官たちが静かに見守る中、一つの儀式が厳かに執り行われようとしていた。


 皇帝代理の任を終えたクラウスが、玉座の前へ進み出る。


 その先には、静かに立つエルンストの姿があった。


 クラウスは両手で皇帝の証を捧げ持ち、厳かに告げる。


「これより皇帝代理の任を解き、皇帝陛下へ、その大権をお返しいたします」


 宮廷長官の宣言が、謁見の間へ厳かに響き渡る。


 エルンストは静かに皇帝の証を受け取った。


 その瞬間、帝国の統治権は正式に皇帝のもとへ戻ったのである。


 儀式が終わると、クラウスはエルンストの前まで歩み寄り、深々と頭を下げた。


「……すまなかった」


 短い一言だった。


 その言葉には、弟を疑った苦しみ、皇帝代理として法を貫いた葛藤、そして兄としての後悔、そのすべてが込められていた。


 エルンストは静かに首を横へ振る。


「兄上が謝る必要はありません」


「兄上は皇帝代理として、帝国の法を守り抜いてくださいました」


「それが兄上の務めだったのです」


 そう言うと、エルンストは右手を差し出した。


「ありがとうございました」


 クラウスは一瞬目を見開き、やがて穏やかに微笑む。


 そして、その手を力強く握り返した。


 兄弟は固く握手を交わした。


 その姿を見守る者たちの表情にも、自然と安堵の笑みが広がる。


 その中で、一人だけ静かに涙を流している人物がいた。


 皇太妃クラリッサである。


 クラリッサはそっと目元を押さえた。


「本当に……よかった……」


 夫である先帝を失い、心の支えを失った日々。


 そして、最愛の息子たちが法廷で争うこととなった苦しみ。


 母として、それほど辛いことはなかった。


 だが今、二人は再び笑顔で向き合っている。


 その姿を見届けたクラリッサの頬を、一筋の涙が静かに伝った。


 ミアはそっとクラリッサのもとへ歩み寄る。


「お母様」


 その一言に、クラリッサは目を丸くした。


 だが次の瞬間、慈愛に満ちた笑みを浮かべ、ミアの手を優しく包み込む。


「ありがとう、ミアさん」


「あなたがエルンストを支えてくれたからこそ、この日を迎えることができました」


 ミアは照れたように小さく首を横へ振った。


「私は陛下のおそばにいただけです」


 クラリッサは優しく微笑み、静かに頷く。


「いいえ。それが、何より大切なことなのですよ」


 そう言うと、クラリッサはミアをそっと抱き寄せた。


 ミアもまた、その温もりへ身を委ねる。


 血の繋がりはない。


 それでも二人は、確かに母と娘だった。


 その光景を見つめるエルンストとクラウスの表情にも、自然と穏やかな笑みが浮かぶ。


 その後、エルンストは皇宮のバルコニーへ姿を現した。


 眼下には、皇帝の帰還を待ちわびた数え切れないほどの国民が集まっている。


 歓声が帝都中へ響き渡る。


 エルンストは静かに一歩前へ進み、国民を真っ直ぐ見渡した。


「このたびの事件により、多くの国民へ不安と混乱を与えたことを、皇帝として深くお詫びする」


 広場は静まり返る。


 誰もが皇帝の言葉へ耳を傾けていた。


「しかし、この裁判は帝国にとって大きな意味を持つものとなった」


「法は、誰の上にも平等である」


「たとえ皇帝であろうと、宰相であろうと、法の前では等しく裁かれる」


「それこそが、私たちが未来へ受け継ぐべき帝国の姿である」


 一瞬の静寂。


 そして次の瞬間――。


 万雷の拍手と歓声が帝都を包み込んだ。


「皇帝陛下、万歳!」


「皇帝陛下、万歳!」


 歓喜の声は、どこまでも高く響き渡る。


 その様子を見守っていたミアの耳元で、小さな声が弾んだ。


『終わったね!』


『やっと終わったな!』


 リリとアルだった。


 ミアは二人にだけ見えるよう、小さく微笑む。


「ありがとう」


「二人がいてくれたから、私は最後まで頑張れました」


 二人の妖精は嬉しそうに顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべる。


 帝国は再び一つとなった。


 法によって真実は証明され、人々は未来への希望を取り戻した。


 こうしてヴァイスラント帝国は、新たな時代への第一歩を踏み出す。


 その未来は、きっと誰もが笑顔で暮らせる、温かな時代となる。


 そう信じられる一日だった。


 ――しかし。


 判決から間もなく、勾留されていた宰相グレゴールと外務大臣レオンハルトは、拘置所内で相次いで不審な死を遂げる。


 事故とも、自害とも、他殺とも断定できなかった。


 徹底した調査が行われたものの、真相は最後まで明らかにならない。


 その真実を知る者は、誰一人としていなかった。

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