第197話 判決
帝都シュヴァルツブルク。
帝国最高裁判所。
暖房器具事件、最終公判。
法廷は、水を打ったような静寂に包まれていた。
長きにわたる審理は、ついに終局の時を迎える。
裁判長は静かに立ち上がり、法廷をゆっくりと見渡した。
傍聴席も。
被告席も。
証言台も。
誰一人として言葉を発しない。
すべての視線が、裁判長へ注がれていた。
やがて、厳かな声が法廷へ響く。
「これより、判決を言い渡します」
張り詰めた空気の中、裁判長は判決書を開いた。
「被告、皇帝エルンスト」
「被告、ミア・ランベルト」
「被告、宮廷筆頭魔導士クロエ」
「以上三名に対する国家反逆罪その他の公訴事実については、提出された物証ならびに証人らの証言を総合的に判断した結果、いずれも犯罪の事実は認められません」
一拍置き、裁判長は力強く宣告する。
「よって、三名を無罪とします」
その瞬間――。
法廷は大きなどよめきに包まれた。
ミアは安堵したように胸へそっと手を当てる。
張り詰めていた緊張が、ようやく解けていく。
クロエも静かに目を閉じ、小さく息を吐いた。
「……ようやく終わりましたな」
エルンストは静かに頷く。
その表情は変わらない。
だが、その瞳には確かな安堵が宿っていた。
裁判長は続いて、グレゴールとレオンハルトへ視線を向ける。
「被告、宰相グレゴール」
「被告、外務大臣レオンハルト」
「両名は、暖房器具計画を利用し、皇帝を国家反逆罪へ陥れる陰謀を企て、公文書偽造、公文書毀棄、会計帳簿改竄、虚偽告発、その他、一連の犯罪を組織的に実行したことが認められます」
法廷は再び静まり返る。
裁判長は判決書を見据え、厳かに言い渡した。
「よって、被告グレゴールおよび被告レオンハルトを、国家反逆罪、公文書偽造、公文書毀棄、会計帳簿改竄、虚偽告発、その他関係法令違反の罪について、有罪とします」
高らかに法槌が打ち鳴らされた。
乾いた音が、静まり返った法廷へ力強く響き渡る。
「以上をもって、本件の判決とします」
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、傍聴席から安堵の吐息が漏れた。
長きにわたり帝国を揺るがせた陰謀は、ついに終焉を迎えたのである。
エルンストは静かに隣へ視線を向けた。
その視線に気付いたミアも、そっと顔を上げる。
二人は言葉を交わさない。
それでも、その瞳だけで十分だった。
――ようやく終わった。
互いの想いは、確かに通じ合っていた。
法は、皇帝にも、宰相にも、等しく向けられる。
誰であろうと罪を犯せば裁かれ、潔白であればその名誉は回復される。
その揺るぎない法の理念が、この判決によって帝国中へ示されたのである。
こうして帝国最大の陰謀は終わりを告げた。
そして、新たな時代の幕が、静かに上がろうとしていた。




