表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
199/205

第196話 崩壊

 帝国最高裁判所。


 暖房器具事件、最終公判。


 法廷は、水を打ったような静寂に包まれていた。


 先ほどまでの騒然とした空気は消え、重苦しい緊張だけが場を支配している。


 被告席では、レオンハルトが俯いたまま微動だにしなかった。


 長年仕えてきた主君。


 信じ続けてきた宰相グレゴール。


 その人物から、ためらうことなく切り捨てられたのである。


 やがてレオンハルトは、小さく息を吐いた。


「……もう、終わりです」


 静かな声が法廷へ響く。


 ゆっくりと顔を上げたその瞳には、もはや迷いはなかった。


 裁判長は静かに問い掛ける。


「外務大臣レオンハルト」


「証言する意思はありますか」


 レオンハルトは深く頷いた。


「あります」


「私は……すべてをお話しします」


 法廷がどよめく。


 グレゴールは鋭い視線でレオンハルトを睨みつけた。


 しかし、その視線にレオンハルトはもう怯まなかった。


「暖房器具計画の改竄、公文書の差し替え、会計帳簿の改竄、関係者への口止め――そのすべては、宰相グレゴール閣下の命令でした」


「あの命令書に記された署名も、公印も、本物です」


「命令を下したのは、宰相グレゴール本人に間違いありません」


 法廷は大きくざわめく。


 レオンハルトは一度目を閉じ、静かに続けた。


「……そして、その陰謀は今回の事件だけではありません」


 誰もが息を呑む。


「皇帝陛下と皇妃陛下の婚約披露宴で発生した毒殺未遂事件――あの事件も、宰相グレゴール閣下が計画したものです」


 法廷に衝撃が走った。


「なっ……!」


「まさか、あの事件まで……!」


 傍聴席から驚愕の声が上がる。


「披露宴当日、皇妃陛下が毒を見抜かなければ、多くの命が失われていたでしょう」


「しかし計画は失敗しました」


「それでも宰相閣下は諦めず、暖房器具計画を利用して皇帝陛下を失脚させようとしたのです」


「実行役への指示も、証拠隠滅も、すべて宰相閣下の命令でした」


 静まり返った法廷に、レオンハルトの告白だけが響いていた。


 その証言は、これまで提出された数々の証拠と完全に一致していた。


 決裁指示書。


 管理台帳。


 文書鑑定報告書。


 会計監査報告書。


 関係者たちの証言。


 そして、命令書。


 積み重ねられた証拠は、一つひとつが揺るぎない真実を示し、すべてが一人の男へと繋がっていた。


 裁判長は静かにグレゴールへ視線を向ける。


「宰相グレゴール」


「これでも、なお否認を続けますか」


 グレゴールは勢いよく立ち上がった。


「違う!」


「レオンハルトが嘘をついている!」


「私は命令などしておらん!」


「すべてこいつの独断だ!」


 怒号が法廷へ響き渡る。


 しかし、裁判長は静かに命令書を掲げた。


「では、この命令書にある署名と公印について、どう説明されますか」


 グレゴールは一瞬言葉に詰まる。


 それでも必死に叫んだ。


「偽造だ!」


「誰かが私を陥れるために作った偽物だ!」


「証人も全員買収されている!」


「こんな裁判は認めん!」


 机を叩き、声を荒らげる。


 その姿に、かつて帝国を支えた宰相としての威厳は、もはや微塵も残されていなかった。


 傍聴席から向けられるのは、驚きではなく失望の眼差しだった。


 裁判長は静かに法槌を打ち鳴らす。


「静粛に」


 乾いた音が法廷へ響く。


 それでもグレゴールはなおも何かを叫び続けていた。


 だが、その叫びに耳を傾ける者は、もはや誰一人としていない。


 法廷を支配していたのは、叫び声ではない。


 積み重ねられた証拠と、揺るぎない真実だった。


 帝国最大の陰謀。


 その全貌は、ついに法廷の下へ白日のもとに晒されたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ