第191話 最後の法廷
翌朝。
帝都シュヴァルツブルク。
ヴァイスラント帝国最高裁判所。
その日、裁判所の前には朝早くから大勢の人々が詰め掛けていた。
貴族。
官僚。
騎士。
商人。
そして、多くの帝国国民。
誰もが、この歴史的な裁判の結末を見届けようとしていた。
現職皇帝が国家反逆罪で裁かれる――。
帝国建国以来、一度として前例のない裁判。
そして今日、その最後の公判が開かれるのである。
裁判所の周囲は厳重な警備が敷かれ、近衛騎士団が人々を整理していた。
誰もが固唾を呑み、法廷の扉を見つめている。
やがて、重厚な扉が静かに開かれた。
傍聴席は瞬く間に埋まり、法廷は張り詰めた空気に包まれる。
最初に姿を現したのは、皇帝エルンスト。
その隣には、未来の皇妃ミア。
そして、宮廷筆頭魔導士クロエ。
三人は静かに法廷へ入り、それぞれの席へ着いた。
続いて入廷したのは、皇帝代理クラウス。
帝国を代表し、この裁判を最後まで見届けるためである。
その表情には、揺るぎない決意が宿っていた。
そして最後に、護衛の騎士たちに囲まれながら、宰相グレゴールと外務大臣レオンハルトが被告席へ姿を現す。
その光景に、傍聴席から大きなどよめきが起こった。
かつて帝国の政を支えてきた宰相。
長年にわたり外交を統括してきた外務大臣。
その二人が被告席へ座る姿など、誰一人として想像したことはなかった。
やがて裁判長が法廷へ入廷する。
木槌が静かに打ち鳴らされた。
「これより、暖房器具事件に関する最終公判を開廷する」
厳かな宣言が法廷中へ響き渡る。
場内は水を打ったように静まり返った。
裁判長は法廷をゆっくりと見渡し、静かに口を開く。
「皇帝代理クラウス殿下」
「新たな証拠を提出されるとの申し出がありました」
「提出されますか」
クラウスは静かに立ち上がり、一礼した。
「はい」
「本事件の真実を明らかにするため、新たな証拠を提出いたします」
その言葉に、法廷がざわめく。
グレゴールの表情がわずかに曇った。
レオンハルトも唇を固く結び、動揺を隠し切れない。
裁判長は静かに頷く。
「提出を許可します」
クラウスは宮廷監察官へ目配せした。
監察官は恭しく一礼すると、証拠を一つ、また一つと裁判官席の前へ並べていく。
決裁指示書。
管理台帳。
文書鑑定報告書。
会計監査報告書。
関係者たちの証言調書。
そして――。
宰相グレゴール自らが残した命令書。
法廷の空気が一変した。
誰もが悟る。
長きにわたり闇へ葬られてきた帝国最大の陰謀が、今まさに白日の下へ晒されようとしていることを。
帝国の命運を懸けた最後の公判は、ついにその幕を開けたのであった。




