第190話 反撃
その日の夜。
帝都シュヴァルツブルク。
皇宮中央棟、皇帝代理執務室。
机の上には、この数日間で集められた証拠が整然と並べられていた。
決裁指示書。
管理台帳。
偽造文書。
会計帳簿の改竄記録。
関係者たちの証言調書。
そして、宰相グレゴール自らが残した命令書。
クラウスは、一つひとつの証拠へ静かに視線を落とす。
どれか一つだけでは決定打にはならない。
しかし、それぞれの証拠が互いを補強し合い、一本の線となって、一つの真実だけを指し示していた。
暖房器具計画を利用し、皇帝エルンストを国家反逆罪へ仕立て上げようとした帝国最大の陰謀。
その首謀者は、宰相グレゴール。
そして、その計画に加担したのが外務大臣レオンハルトだった。
執務室の扉が静かに開く。
入室したのは、エルンストとミア。
二人の姿を確認すると、クラウスは机上の証拠へ静かに手を添えた。
「これが、今回集めたすべての証拠だ」
エルンストは決裁指示書から命令書まで、一つひとつ丁寧に目を通していく。
やがて静かに頷いた。
「十分だ」
「ここまで揃えば、真実を証明できる」
その一言に、ミアは安堵したように微笑む。
「皆さんが勇気を出してくださったからこそ、ここまで辿り着けました」
クラウスは静かに二人を見つめた。
そして、小さく息を吐く。
「私は……一度、お前たちを疑った」
「皇帝代理である以上、感情ではなく証拠で判断しなければならなかった」
その声には、兄としての苦悩が滲んでいた。
「だが、今は違う」
「証拠はすべて揃った」
「真実は、我々の側にある」
クラウスは力強く言い切る。
「私は皇帝代理として、この事件の真実を法廷で明らかにする」
「誰であろうと、帝国を欺いた者は裁かれなければならない」
エルンストは兄の言葉を静かに受け止め、力強く頷いた。
「ああ」
「必ず、この陰謀に終止符を打とう」
ミアも真っ直ぐ前を見据える。
「はい」
「もう誰も、このような悲しい事件に巻き込まれないように」
三人の想いは、一つだった。
反撃の準備は、すべて整った。
管理台帳。
偽造文書。
会計帳簿の改竄。
関係者たちの証言。
そして、黒幕自らが残した命令書。
積み重ねてきたすべての証拠を胸に、三人は最後の戦いへと臨む。
帝国の未来を懸けた最後の公判が、いよいよ幕を開けようとしていた。




