第189話 黒幕の命令
翌朝。
帝都シュヴァルツブルク。
皇宮最深部――極秘保管庫。
昨夜、新たな手掛かりを得た皇帝代理クラウスは、皇宮最深部にある極秘保管庫の調査を命じていた。
そこは、皇帝と皇帝代理、そして限られた皇族のみが立ち入ることを許された特別な場所である。
歴代皇帝の密命書をはじめ、国家機密に関わる重要文書が厳重に保管されていた。
重厚な鉄扉が静かに開かれる。
クラウスは近衛騎士団長と宮廷監察官を伴い、ゆっくりと保管庫へ足を踏み入れた。
薄暗い室内には、外交記録、軍事機密、歴代皇帝の密命書などが年代ごとに整然と並べられている。
静寂の中、紙をめくる音だけが響いた。
やがて――。
「皇帝代理殿下」
宮廷監察官が、一通の封書を手に振り返る。
「こちらをご覧ください」
クラウスは歩み寄り、慎重に封書を受け取った。
封蝋には宰相府の紋章。
そして、宰相グレゴールの公印が鮮明に押されている。
静かに封を解く。
中から現れた命令書には、簡潔な文面でこう記されていた。
『原本は回収せよ』
『提出書類は差し替えよ』
『計画は予定どおり進めよ』
クラウスは無言のまま、続いてもう一通の封書を開く。
宛名には、
――外務大臣 レオンハルト。
そう記されていた。
そこにも同じ内容が並んでいた。
提出書類の差し替え。
計画の続行。
秘密裏での処理。
そして文末には、宰相グレゴールの署名と公印が鮮明に残されている。
クラウスは静かに息を吐いた。
「……見つけた」
宮廷監察官は管理台帳を広げ、命令書と照合していく。
「管理台帳の記録と一致しております」
「書記官や文書保管庫管理官らの証言とも、矛盾はありません」
近衛騎士団長も静かに頷いた。
「管理台帳」
「偽造文書」
「会計帳簿の改竄」
「関係者たちの証言」
「そして、この命令書」
「すべての証拠が、一つの真実へ繋がりました」
クラウスは命令書を静かに机へ置く。
一通だけであれば、言い逃れる余地はあったかもしれない。
しかし、今回は違う。
管理台帳。
偽造文書。
会計帳簿の改竄。
関係者たちの証言。
そして、黒幕自らが残した命令書。
それぞれの証拠が互いを補強し合い、一つの結論だけを導き出していた。
暖房器具計画を利用し、皇帝エルンストを国家反逆罪へ仕立て上げようとした帝国最大の陰謀。
すべての証拠は、宰相グレゴールと外務大臣レオンハルトを指し示していた。
クラウスは命令書を証拠箱へ納め、静かに立ち上がる。
「これで、すべて揃った」
「最後は法廷で決着をつける」
その瞳には、皇帝代理としての揺るぎない決意が宿っていた。
こうして、黒幕を追い詰める決定的な証拠が揃う。
帝国最大の陰謀は、ついに最後の公判で裁かれる時を迎えようとしていたのである。




