表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
188/199

第185話 消えた足跡

 翌朝。


 帝都シュヴァルツブルク。


 皇宮中央棟、文書保管庫。


 皇帝代理として極秘再捜査を開始した皇兄クラウスは、近衛騎士団長と宮廷監察官を伴い、文書保管庫を訪れていた。


 重厚な鉄扉が静かに開かれる。


 その先には、年代ごとに整理された膨大な公文書が、整然と棚へ並べられていた。


 保管庫管理官は深々と一礼する。


「皇帝代理殿下。本日はどの資料をご確認なさいますか」


 クラウスは迷いなく答えた。


「暖房器具開発計画の決裁書だ」


「それと、公文書の貸出・返却を記録した管理台帳を見せてほしい」


「かしこまりました」


 管理官は棚の奥へ向かい、一冊の分厚い帳簿を慎重に抱えて戻ってきた。


 長年にわたり管理されてきた、公文書管理台帳である。


 クラウスは帳簿を受け取り、静かにページをめくっていく。


 歴代皇帝の決裁書。


 国家事業の原本。


 外交文書。


 あらゆる公文書の貸出履歴が、几帳面な文字で記録されていた。


 やがて、その手が一つの記録で止まる。


「……これだ」


 暖房器具開発計画。


 決裁書原本。


 貸出記録。


 そこには、貸出先として二つの名前が記されていた。


 宰相グレゴール。


 外務大臣レオンハルト。


 クラウスは無言のまま記録を読み進める。


 貸出日。


 貸出責任者。


 受領印。


 すべて正式な手続きを経て持ち出されていた。


 しかし――。


 返却日の欄だけが空白になっていた。


 クラウスの表情がわずかに険しくなる。


「返却記録がない……」


 隣で管理官も帳簿を覗き込み、驚きの声を漏らした。


「そのような……」


「公文書は閲覧後、速やかに返却することが義務付けられております」


「返却記録が存在しないなど、本来あってはならないことです」


 近衛騎士団長も厳しい表情で口を開く。


「つまり、決裁書は持ち出されたまま所在が分からなくなった、ということか」


 管理官は緊張した面持ちで頷いた。


「管理台帳を見る限り、そのようになります」


 保管庫に重い沈黙が流れる。


 クラウスは静かに帳簿を閉じ、小さく呟いた。


「これで一つ繋がった」


 暖房器具開発計画の決裁書は、確かに存在していた。


 そして正式な手続きを経て保管されていた。


 しかし、その後、宰相グレゴールと外務大臣レオンハルトによって持ち出され、一度も返却されていない。


 偶然では片付けられない事実だった。


 クラウスは静かに顔を上げる。


「管理台帳は証拠として押収する」


「厳重に保全し、何人たりとも閲覧・改竄を許すな」


「はっ!」


 宮廷監察官は慎重に管理台帳を証拠箱へ収め、封印を施した。


 クラウスは窓の外へ視線を向ける。


 朝日が皇宮を静かに照らし始めていた。


「真実は、確実に姿を現し始めている」


「次は、この決裁書がなぜ消えたのか、その理由を突き止める」


 皇兄の瞳には、揺るぎない決意が宿っていた。


 こうして、管理台帳という改竄の難しい公的記録が、黒幕へと繋がる最初の客観的証拠となる。


 帝国最大の陰謀は、一歩、また一歩と、その全貌を明らかにし始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ