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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


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第184話 皇帝代理

 第三公判を終えた、その夜。


 帝都シュヴァルツブルク。


 皇宮中央棟、皇帝代理執務室。


 部屋には、静かな緊張感が漂っていた。


 机の上には、一枚の羊皮紙が広げられている。


 それは、エルンストとミアが宮廷魔導研究所で発見した、魔導暖房器具開発計画の決裁指示書だった。


 皇兄クラウスは、その文書を静かに読み進める。


 そこには、エルンスト自らの筆跡で、はっきりと記されていた。


『本事業は、帝国北方の厳しい寒さに苦しむ民の生活環境を改善することを目的とする』


『本事業は民生利用を目的として開発を進めるものとする』


 クラウスは、しばらく黙ってその文字を見つめていた。


 やがて、静かに息を吐く。


「……そういうことだったのか」


 その声には、驚きと安堵、そして悔しさが滲んでいた。


 目の前に立つエルンストとミアは、静かにその様子を見守る。


 長い沈黙の後、クラウスはゆっくりと顔を上げた。


「エルンスト」


「私は、お前が帝国を守るため、暖房器具を軍事利用する苦渋の決断を下したのだと思っていた」


 エルンストは静かに首を横へ振る。


「違う」


「私は最初から、そのような考えは持っていない」


 クラウスは決裁指示書へ視線を落とす。


「この文書を見て分かった」


「暖房器具は、最初から最後まで民の生活を守るために開発されたものだった」


「裁判で提出された証拠こそが、偽りだったのだな」


 エルンストは静かに頷く。


「ああ」


「だからこそ、真実を明らかにしなければならない」


 クラウスは穏やかに微笑んだ。


「ようやく分かった」


「私は、白竜皇陛下がなぜお前を皇帝に選ばれたのか、ずっと理解できずにいた」


「だが、この決裁指示書を見て確信した」


「白竜皇陛下のご選定は、正しかった」


 その言葉に、ミアは安堵したように微笑む。


 クラウスは決裁指示書を丁寧に畳み、机の上へ置いた。


 そして、皇帝代理として静かに宣言する。


「これより、暖房器具事件の極秘再捜査を開始する」


 その一言で、部屋の空気が引き締まる。


 近衛騎士団長。


 宮廷監察官。


 文官長。


 呼び出されていた者たちは、一斉に姿勢を正した。


「文書保管庫、財務省、外務省、宮廷書庫を徹底的に調査せよ」


「どれほど時間が掛かろうとも構わない」


「必ず真実を見つけ出す」


「はっ!」


 力強い返答が執務室へ響く。


 命令を受けた者たちは、直ちに持ち場へ散っていった。


 部屋に残ったクラウスは、夜空を見上げながら静かに呟く。


「今度は、私が真実を証明しよう」


 その横顔には、皇帝代理としての強い覚悟が宿っていた。


 一方その頃――。


 宰相府。


 グレゴールの執務室へ、一人の部下が慌ただしく駆け込んできた。


「宰相閣下!」


「皇帝代理殿下が、暖房器具事件の再捜査を命じられました!」


 その報告に、グレゴールの表情が険しく変わる。


「……何だと」


 隣にいたレオンハルトも顔色を失った。


「まさか、このタイミングで……」


 グレゴールは静かに拳を握り締める。


「予想より早いな」


 低く呟くと、鋭い視線をレオンハルトへ向けた。


「残っている証拠はすべて始末しろ」


「我々へ繋がるものは、一つたりとも残すな」


「承知しました」


 二人はまだ知らない。


 皇兄クラウスの反撃が、静かに、そして確実に始まっていることを。


 帝国最大の陰謀は、今まさに崩れ始めようとしていた。

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