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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


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第168話 潔白

 クロエの証言が終わると、法廷は重い静寂に包まれた。


 誰一人として言葉を発する者はいない。


 皇帝エルンスト。


 未来の皇妃ミア・ランベルト。


 宮廷筆頭魔導士クロエ。


 三人全員の証言が、服従の呪文によって一切の偽りがないことを証明されたのだ。


 つまり――。


 三人は誰一人として嘘をついていない。


 その事実だけは、もはや誰にも覆すことはできなかった。


 やがて、その静寂を破るように傍聴席がどよめき始める。


「どういうことだ……」


「三人とも潔白なのか?」


「だが、提出された証拠は本物だったはずだ」


「では、一体誰が……」


 ざわめきは瞬く間に法廷全体へ広がっていく。


『みんな混乱してる……』


 リリが不安そうに周囲を見渡す。


『当然だ』


 アルも静かに頷く。


『証拠も本物、証言も本物だ』


『これじゃ誰だって分からなくなる』


 一方、検察官も険しい表情で提出された証拠書類へ目を落としていた。


 証拠は偽物ではない。


 証人たちも偽証していない。


 そして三人もまた、服従の呪文によって嘘をついていないことが証明された。


 二つの真実が、法廷の中で正面から衝突していた。


 裁判長は木槌を打ち鳴らす。


「静粛に」


 乾いた音が法廷へ響き渡り、ざわめきは次第に収まっていく。


 裁判長はゆっくりと立ち上がった。


「本裁判において、服従の呪文による証言の結果、被告三名の証言に虚偽がないことは確認されました」


 法廷中の視線が裁判長へ集まる。


「すなわち、現時点において三名の潔白は証明されたものと判断します」


 傍聴席から驚きの声が漏れた。


 しかし裁判長は静かに続ける。


「ですが」


 その一言で法廷は再び張り詰めた。


「潔白が証明されたことと、本件を計画・実行した人物が誰であるかは別問題です」


「現時点では、その人物を特定するに足る証拠は提出されておりません」


 法廷は再び静まり返る。


 裁判長は厳かな声で告げた。


「よって本裁判所は、現段階で無罪判決を下すことも、有罪判決を下すこともできません」


「さらなる証拠および証人の調査を命じます」


「本件の審理は継続とし、次回公判へ持ち越すものとします」


 コン――。


 木槌の音が高らかに響き渡る。


 その一打は判決ではなかった。


 だが、裁判が新たな局面へ入ったことを告げる音でもあった。


『まだ終わってないんだね……』


 リリが小さく呟く。


『ああ』


 アルは静かに法廷を見渡した。


『でも、真実までもう少しだ』


 皇兄クラウスは静かに目を閉じた。


(エルンストも……)


(ミア殿も……)


(クロエ様も潔白……)


(ならば、この事件を計画した者が、必ずどこかにいる)


 その瞳には、新たな決意が宿っていた。


 一方、検察官は唇を強く結ぶ。


 勝利を確信していた裁判は、クロエの一手によって完全に膠着状態へ持ち込まれた。


 法廷を後にする人々の胸に残ったものは、ただ一つ。


 ――この事件を計画した人物は、一体誰なのか。


 その答えを求める戦いは、まだ終わってはいなかった。

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