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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


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第165話 偽りなき証言

 法廷は静まり返っていた。


 巨大な魔法陣が淡い蒼白い光を放ち、証言台全体を包み込んでいる。


 法廷中央に立つのは、皇帝エルンスト・フォン・ヴァイスラント。


 その傍らには術者を務める宮廷筆頭魔導士クロエ。


 さらに、法廷全体を監視する宮廷魔導士と魔導監察官たちが厳重な警戒態勢を敷いていた。


 禁呪――服従の呪文。


 帝国史上初めて、司法の場でその力が行使されようとしていた。


 クロエは静かに杖を掲げる。


「服従の呪文を執行します」


 低く厳かな詠唱が始まった。


 魔法陣は眩い光を放ち、幾重もの魔法文字がエルンストの身体をゆっくりと包み込んでいく。


 やがて光は静かに収束した。


 クロエは裁判長へ向き直る。


「術式は正常に発動しました」


 裁判長は静かに頷いた。


「では、証言を始めます」


 法廷には物音一つない。


 誰もが息を潜め、その瞬間を見守っていた。


 裁判長は厳かに問いかける。


「被告エルンスト・フォン・ヴァイスラント」


「あなたは国家反逆を企てましたか」


 一瞬の静寂。


 エルンストは真っ直ぐ前を見据え、迷うことなく答えた。


「いいえ」


 その瞬間――。


 魔法陣は何の反応も示さなかった。


 法廷がざわめく。


「反応しない……」


「嘘ではないということか……?」


 裁判長は続けて問いかける。


「魔導暖房器具事業は、国家反逆を目的として始めた事業ですか」


「違います」


 再び魔法陣は静かなままだった。


 クロエも魔導監察官たちも、術式に異常がないことを確認する。


 裁判長はさらに問いを重ねた。


「では、その事業の目的を述べてください」


 エルンストは静かに息を吸い、力強く答えた。


「寒さに苦しむ帝国の民を救うためです」


「幼い子どもも」


「働く者も」


「年老いた者も」


「誰一人として寒さで命を落とさぬ国を築くために、魔導暖房器具を開発しました」


 法廷は静まり返る。


 その証言にも、魔法陣は一切反応しない。


 つまり――。


 その言葉に偽りはない。


 服従の呪文が、それを証明したのだ。


 傍聴席から小さなどよめきが広がる。


「本当だったのか……」


「陛下は本当に民のために……」


「では、国家反逆という話は……」


 未来の皇妃ミアは思わず胸の前で両手を握り締めた。


 その瞳には、安堵の涙が浮かんでいる。


『やった……』


 リリが嬉しそうに羽ばたいた。


『嘘じゃなかった!』


 アルも静かに拳を握る。


『当然だ』


『陛下がそんなことするわけねぇ』


 一方、検察官の表情からは初めて余裕が消えていた。


 提出した証拠は本物。


 証言も本物。


 だが今、被告本人の証言もまた、禁呪によって真実であることが証明されてしまった。


 法廷の空気が、少しずつ変わり始める。


 皇兄クラウスは静かに目を閉じ、小さく息を吐いた。


(やはり、お前は……)


(嘘をついてはいなかった)


 兄としてではない。


 皇帝代理としてでもない。


 一人の人間として、その証言を受け止める。


 そして法廷にいる誰もが、初めて一つの疑問を抱き始めていた。


 ――もしエルンストが嘘をついていないのなら。


 ――真の黒幕は、一体誰なのか。


 その疑念は、静かに、しかし確実に法廷全体へ広がり始めていたのである。

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