第149話 証人たち
帝国議会議場は、重苦しい静寂に包まれていた。
用途不明の予算。
消えた魔法石。
軍事研究を命じたとされる皇帝勅令。
そして、極秘外交文書。
次々と提示された証拠によって、議場の空気は確実に変わり始めていた。
帝国監査局長は静かに報告書を閉じると、新たな資料へ手を伸ばす。
「最後に、本監査局が事情聴取を行った関係者の証言について、ご報告いたします」
その言葉に、議場はざわめいた。
「証言まであるのか……」
「まさか、目撃者がいたというのか」
係官が議場中央へ証言台を運び込む。
やがて、一人目の男がゆっくりと姿を現した。
元帝国会計局職員。
年老いた男は緊張した面持ちで証言台へ立つ。
監査局長が静かに問いかけた。
「あなたは当時、魔導暖房器具事業の会計処理に携わっていましたね」
「……はい」
男は小さく頷く。
「私は、通常とは異なる予算処理を命じられました」
議場がざわめく。
「その際、『用途は記載するな』と指示を受けています」
静かな証言だった。
だが、その一言は議場へ重く響いた。
続いて二人目。
元認可工房職員。
「私は通常より多くの魔法石が搬入されるのを見ました」
「ですが、その一部は工房へ運ばれませんでした」
「どこへ運ばれたのかは知りません」
議場のざわめきはさらに大きくなる。
三人目。
元輸送管理官。
「私は皇帝直属案件として、夜間輸送の許可証を受け取りました」
「積み荷の中身は知らされませんでした」
「ただ……極秘案件であるとだけ」
議場中が息を呑んだ。
「夜間輸送……」
「極秘案件……」
「やはり何かあったのか……」
監査局長は静かに頷く。
「なお、証言内容はいずれも、これまでご提示した資料と矛盾しておりません」
その一言が、決定打となった。
文書。
帳簿。
搬入記録。
そして証言。
これまで点だったものが、一本の線として結び付いていく。
皇族席では、ミアの顔から血の気が引いていた。
「そんな……」
「違います……」
「皆さん、何か勘違いをしています……」
『違うよ!』
『全部嘘だよ!』
リリとアルは必死に叫ぶ。
『あの人たち、嘘をついてる!』
『お願いだから信じないで!』
しかし、その声はミアにしか届かない。
ミアは唇を強く噛み締めた。
真実を知っている。
それなのに、その真実を証明する術がない。
その無力さだけが、胸へ重くのしかかっていた。
エルンストは静かに証言台を見つめていた。
表情は変わらない。
だが、その瞳にはこれまでにない鋭い光が宿っている。
(……証人まで用意したのか)
(ここまで周到に仕組まれていたとは)
クロエも険しい表情を崩さない。
「証拠だけではない……」
「証人まで揃えてきおったか」
皇兄クラウスも苦しげに目を閉じる。
(違う……)
(陛下は無実だ)
(そう信じている)
(だが……)
積み重ねられていく証拠。
重ねられていく証言。
その重みが、議場全体を静かに飲み込んでいく。
もはや、一人ひとりの証言が真実かどうかを疑う者はいなかった。
人は、一つの証拠よりも、多くの証拠と証言が同じ結論を示した時、それを真実だと信じてしまう。
黒幕たちが一年以上という歳月をかけて積み上げてきた虚構は、偽りの証拠へ、偽りの証言を重ねることで、ついに誰も覆すことのできない「真実」へと姿を変えようとしていた。




