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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


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第148話 偽りの外交文書

 議場を包む重苦しい空気は、さらに色濃さを増していた。


 軍事研究を命じたとされる皇帝勅令。


 その衝撃が収まらぬ中、帝国監査局長は静かに新たな資料へと手を伸ばす。


「続いて、外交関係資料についてご報告いたします」


 その言葉を合図に、係官たちが恭しく文書箱を壇上へ運び、慎重に封を解いた。


 中から取り出されたのは、数通の外交文書だった。


 監査局長は、そのうちの一通を静かに掲げる。


「こちらは、アルカ=ヴェル竜皇国との間で取り交わされた外交文書です」


 次の瞬間、その内容が魔導投影板へ大きく映し出された。


『極秘外交記録』


『アルカ=ヴェル竜皇国との会談を非公開とする』


『詳細は皇帝直属魔導研究室が管理する』


『本件は関係者以外への開示を禁ずる』


 議場にざわめきが広がる。


「非公開の会談……?」


「なぜ秘密にする必要がある?」


「研究室が管理とは、どういうことだ」


 続いて二通目の文書が映し出される。


『特別通行許可証』


『皇帝直属案件』


『夜間通行を許可する』


『輸送内容は極秘扱い』


 さらに三通目。


『外交覚書』


『両国間における協議内容は非公開とする』


『記録は限定保管とする』


 監査局長は静かに文書を閉じた。


「これらの外交文書だけを見れば、違法と断定できるものではありません」


 その言葉に、議場は一瞬静まり返る。


 しかし、監査局長は続けた。


「ですが、本監査局は、先ほどご報告した用途不明の予算、所在不明となった大量の魔法石、そして軍事研究を命じたとされる皇帝勅令と総合的に照合いたしました」


「その結果、これら一連の資料には密接な関連性が認められ、秘密裏に何らかの計画が進められていた可能性を否定できないとの結論に至っております」


 その瞬間、議場は大きくどよめいた。


「まさか……」


「密約があったというのか」


「秘密裏に何かが進められていたのでは……」


 憶測が憶測を呼び、議場の空気は一変していく。


 皇族席では、ミアが驚きに目を見開いていた。


「違います……」


「アルカ=ヴェルとの交流は、両国の友好を深めるためのものです」


「そのような密約など、一切ありません」


『そうだよ!』


『白竜皇様もエイル様も、そんな約束なんて絶対にしない!』


 リリとアルは悔しそうに羽を震わせる。


『お願い……みんな、騙されないで……』


 その必死の叫びは、ミアにしか届かなかった。


 ミアは唇を強く噛み締める。


 真実を知っているのに、それを証明することができない。


 その無力さだけが、胸へ重くのしかかっていた。


 エルンストも険しい表情で文書を見つめる。


「……私は、このような外交記録を知らない」


「少なくとも、軍事目的で他国と協議した事実はない」


 クロエも静かに歯を食いしばる。


「ここまで巧妙とは……」


「本物の外交文書へ、偽りを織り交ぜたようにしか思えぬ」


 だが、それを証明する術は、この場にはなかった。


 皇兄クラウスも苦しげに文書へ目を落とす。


(違う……)


(アルカ=ヴェルは建国以来、不可侵を国是としてきた国だ)


(陛下が、そのような密約を結ぶはずがない)


(それでも……証拠は次々と積み重なっていく)


 信じたい心と、目の前へ突き付けられた資料。


 その狭間で、クラウスの胸は激しく揺れ動いていた。


 用途不明の予算。


 消えた魔法石。


 軍事研究を命じたとされる皇帝勅令。


 そして、極秘外交文書。


 一つひとつだけでは決定的な証拠とは言えない。


 しかし、それらが一本の物語として結び付けられたことで、人々の胸に芽生えた疑念は、少しずつ確信へと姿を変え始めていた。


 そのすべてが、一年以上という歳月をかけて黒幕たちが作り上げた虚構であることを、この議場で知る者は誰一人として存在しない。


 真実だけを知る妖精たちの叫びもまた、誰一人として聞き届けることはできなかった。


 こうして議場を覆い始めた疑惑は、もはや一人の皇帝だけでなく、帝国そのものを揺るがす大きな告発へと姿を変えようとしていた。

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