表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
143/209

第140話 クラウスの決意

 帝国議会の開催を数日後に控えた午後。


 皇兄クラウス・フォン・ヴァイスラントは、自室の執務室で一通の公文書を静かに見つめていた。


 表紙には、簡潔な文字が記されている。


『帝国議会開催通知』


『議題――国家事業に関する監査報告』


 クラウスは小さく息を吐いた。


「いよいよか……」


 帝国監査局による特別監査。


 その存在は、今や貴族社会にも広く知られるようになっていた。


 暖房器具事業に関する監査。


 臨時議会。


 異例ともいえる厳戒態勢。


 それらが人々の不安を少しずつ大きくしていることも、クラウスは理解していた。


 だが――。


 彼の心は、少しも揺らいではいなかった。


「陛下が不正などするはずがない」


 静かな独り言が、執務室へ溶けていく。


 弟であるエルンストは、自らの利益のために権力を使うような人間ではない。


 民を守るためなら、自らが損をすることさえ厭わない。


 戦場でも。


 政治でも。


 その生き方を、誰よりも近くで見続けてきた。


「監査が公正であるならば……」


 クラウスは窓の外へ目を向ける。


 柔らかな春の日差しが、帝都の街並みを優しく照らしていた。


「陛下の潔白は、必ず証明される」


 その言葉に迷いはない。


 真実は、必ず明らかになる。


 だからこそ、自分が口を挟くべきではない。


 監査は公正でなければ意味がない。


 皇族だからといって、特別扱いされるべきでもない。


「私は議会へ出席しよう」


「そして最後まで見届ける」


 クラウスは静かに決意を固めた。


 その時だった。


 扉を叩く音が執務室に響く。


「失礼いたします」


 入室した侍従が恭しく一礼した。


「議会へのご出席について、ご確認に参りました」


 クラウスは穏やかに頷く。


「ああ」


「私も出席する」


「監査結果を、この目で見届けたい」


「かしこまりました」


 侍従は再び一礼し、静かに部屋を後にした。


 一方その頃。


 皇城の地下深く。


 秘密の執務室では、グレゴールとレオンハルトが静かに報告を受けていた。


「皇兄殿下も、議会へご出席なさるそうです」


 側近の報告に、レオンハルトは満足そうに微笑む。


「予想どおりですね」


 グレゴールも静かに頷いた。


「殿下は陛下を心から信じておられる」


「だからこそ、監査結果も信じる」


「それが何より重要なのだ」


 レオンハルトはゆっくりと言葉を続ける。


「人は、自ら信頼する制度に裏切られるとは思わない」


「監査局」


「帝国議会」


「その二つが同じ結論を示せば、殿下でさえ疑うことはないでしょう」


 グレゴールは静かに目を閉じた。


「善意ほど利用しやすいものはない」


「殿下は最後まで善人でいてくだされば、それでよい」


 二人は静かに笑みを交わす。


 それは、勝利を目前にした者だけが浮かべる、冷たく静かな微笑だった。


 一方、魔導研究室では、エルンスト、ミア、クロエが新たな魔導具の改良を続けていた。


「ここを少し調整すれば、さらに魔力効率が上がります」


 ミアが設計図を指差す。


 クロエは満足そうに頷いた。


「うむ。完成も近いのう」


 エルンストも静かに図面へ目を落とす。


「帝国中へ普及させよう」


『楽しみだね!』


『みんな、びっくりするぞ!』


 リリとアルは研究室いっぱいを飛び回り、今日も明るい笑い声を響かせていた。


 その平穏な日常とは裏腹に、運命の歯車は静かに回り続けている。


 皇兄クラウスは、監査が公正である限り、真実は必ず明らかになると信じていた。


 しかし、その「公正」そのものが、すでに黒幕たちの手によって巧妙に歪められていることを、彼はまだ知らない。


 その揺るぎない信頼こそが、黒幕たちの思惑どおりであるとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ