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第11話 帝都シュヴァルツブルク

 ヴァイスラント帝国。


 北方に広がる大国。


 長い旅路の果てに、ミアを乗せた馬車はついにその中心地へたどり着こうとしていた。


「もうすぐ帝都です」


 御者の声が聞こえる。


 ミアは窓の外へ視線を向けた。


 白。


 どこまでも白だった。


 大地は雪に覆われている。


 森も。


 山も。


 街道も。


 まるで世界そのものが白銀に染められているかのようだった。


「綺麗……」


 思わず声が漏れる。


 ローズフィールド王国では見ることのなかった景色だった。


 リリも窓の外を飛び回っている。


『すごいすごい!』


『全部真っ白!』


 アルも珍しく外を眺めていた。


『寒そうだな』


「実際寒いわ」


 ミアは苦笑する。


 毛布を抱えていても寒い。


 それでも不思議と嫌な気持ちはしなかった。


 そんな会話をしているうちに、馬車は緩やかな丘を登り始めた。


 そして。


 頂上へ差しかかった瞬間。


 ミアは息をのんだ。


「――――」


 言葉が出ない。


 眼下に広がっていたのは巨大な都市だった。


 高くそびえる城壁。


 整然と並ぶ建物。


 白い煙を上げる無数の煙突。


 街の中心には壮麗な城が見える。


 まるで雪の中から生まれた王国のようだった。


『でかっ!?』


 リリが叫ぶ。


『これはすげぇな……』


 アルも目を見開いていた。


 ミアは窓に手を添える。


 圧倒されていた。


 王都よりも大きい。


 そして美しい。


「ここが……」


 御者が誇らしげに言った。


「帝都シュヴァルツブルクでございます」


 帝都。


 ヴァイスラント帝国の心臓。


 冷徹皇帝エルンストが治める都。


 ミアは無意識に唾を飲み込んだ。


 ここから新しい人生が始まる。


 そう思うと胸が苦しくなる。


 やがて馬車は帝都へ入った。


 石畳の道。


 行き交う人々。


 厚手の外套を羽織った住民たち。


 誰もが忙しそうに歩いている。


 ミアは少し身構えた。


 軍事国家。


 冷徹皇帝。


 北方の大国。


 勝手な想像だが、もっと冷たい人々だと思っていた。


 しかし。


「ようこそ帝都へ」


 門番が頭を下げた。


 馬車が通る際も丁寧だった。


 商人も。


 住民も。


 使用人も。


 皆、礼儀正しい。


 決して愛想が良いわけではない。


 だが誠実だった。


「意外……」


 ミアは小さくつぶやく。


 もっと怖い国だと思っていた。


 もっと冷たい国だと思っていた。


 だが実際は違う。


 厳しい。


 けれど秩序がある。


 そんな印象だった。


 しばらくして。


 馬車は巨大な城門の前で停止した。


 皇宮である。


 白銀の城壁。


 高くそびえる塔。


 帝都を見下ろすように建てられた宮殿。


 圧倒的な存在感だった。


 使用人たちが整列している。


 そして一人の男性が前へ進み出た。


「ようこそお越しくださいました」


 恭しく頭を下げる。


「皇妃候補ミア・ランベルト様」


 ミアは慌てて礼を返した。


「本日はお疲れでしょう」


「陛下との謁見は明日となります」


 その言葉に。


 ミアの身体がわずかに固まる。


 明日。


 ついに会うのだ。


 冷徹皇帝エルンストに。


 胸がざわつく。


 不安だった。


 怖かった。


 だが逃げることはできない。


 使用人に案内され、客室へ入る。


 部屋は広かった。


 暖炉もある。


 豪華だ。


 だが落ち着かない。


 窓の外では雪が降っている。


 ミアはベッドに腰掛けた。


『緊張してる?』


 リリが聞く。


「少しだけ」


『嘘つけ』


 アルが呆れた。


『めちゃくちゃ緊張してるだろ』


「……そうかも」


 ミアは苦笑した。


 会ったこともない人。


 噂だけが先行している皇帝。


 その相手と明日会う。


 緊張しない方がおかしい。


 その夜。


 ミアはなかなか眠ることができなかった。


 ベッドに入っても目が冴えている。


 窓の外では雪が静かに降り続いていた。


 明日。


 冷徹皇帝エルンストと会う。


 その出会いが。


 自分の運命を大きく変えることになるなど。


 まだミアは知らなかったのである。

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