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婚約破棄されて捨てられた令嬢ですが、隣国の冷徹皇帝陛下がなぜか私を離してくれません!?  作者: Atelier Lotus


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第135話 変わらぬ研究室

 初夏の柔らかな陽光が、ヴァイスラント皇城の窓から優しく差し込んでいた。


 魔導研究室には、今日も穏やかな時間が流れている。


 机の上には、新たな魔導具の試作品。


 幾度もの改良を重ね、ついに完成の時を迎えようとしていた。


 ミアは最後の魔法石を静かにはめ込み、小さく息を吐く。


「……これで、完成です」


 その瞬間。


 魔導具は淡い光を放ち、室内を優しく照らした。


 術式は安定し、魔力の流れにも乱れはない。


 試作品は見事に起動した。


「成功ですね!」


 ミアは嬉しそうに微笑んだ。


 クロエは何度も頷きながら試作品を見つめる。


「うむ」


「素晴らしい出来じゃ」


「これなら量産も十分可能じゃろう」


 エルンストも静かに魔導具を見つめ、小さく口元を緩めた。


「……よくやった」


 短い言葉だった。


 だが、その一言だけでミアの表情はぱっと明るくなる。


「ありがとうございます、陛下」


 その様子を見て、クロエは思わず笑みを浮かべた。


「昔のお主なら、『問題ない』の一言で終わっておったじゃろうな」


 エルンストは少しだけ視線を逸らす。


「……そうだったか」


「そうじゃとも」


 クロエは愉快そうに笑った。


「ずいぶんと表情が柔らかくなられたものじゃ」


 ミアもくすりと笑う。


「私も、そう思います」


 エルンストは少し照れたように咳払いをした。


「……研究を続けよう」


 その様子がおかしくて、研究室には優しい笑い声が広がった。


 その時だった。


『やったぁー!』


 リリが勢いよく宙へ舞い上がる。


『また完成したよー!』


『すごい、すごい!』


 アルも拳を突き上げ、大きく笑った。


『これでまた、みんなが幸せになるぞ!』


『次は何を作るんだ?』


 二人は研究室いっぱいを飛び回り、喜びを全身で表していた。


 もちろん、その姿も声もミアにしか見えず、聞こえない。


 ミアは思わず笑みをこぼした。


「二人とも、本当に嬉しそうですね」


 エルンストとクロエは顔を見合わせる。


「妖精たちか」


 エルンストが静かに尋ねた。


「はい」


 ミアは嬉しそうに頷く。


「『またみんなが幸せになる』って、とても喜んでいます」


 クロエは目を細め、穏やかに笑った。


「そうか」


「妖精たちにも、この研究の意味が伝わっておるのじゃな」


 ミアは妖精たちへ微笑みかける。


(ありがとう)


 その言葉に、リリは満面の笑みで羽を羽ばたかせた。


『えへへ!』


 アルも得意そうに胸を張る。


『もっとすごい魔導具を作ろうぜ!』


 その無邪気な声に、ミアも思わず笑顔になる。


 エルンストは静かに試作品へ視線を向けた。


「それが、この研究の目的だからな」


 人々を寒さから守る。


 暮らしを便利にする。


 誰もが笑顔で暮らせる帝国を築く。


 そこに野心はない。


 権力欲もない。


 あるのは、人々の幸せを願う、ただひたむきな想いだけだった。


 研究室には、今日も笑顔が絶えない。


 窓から吹き込む初夏の風が心地よくカーテンを揺らし、穏やかな時間が静かに流れていく。


 しかし、その同じ皇城の地下深くでは――。


 偽りの帳簿。


 偽りの勅令。


 偽りの外交文書。


 偽りの証言。


 偽りの監査。


 一年以上という歳月をかけて積み上げられた陰謀は、いよいよ完成の時を迎えようとしていた。


 皇城の上では、笑顔があふれる。


 皇城の下では、悪意が育つ。


 同じ皇城にありながら、光と影は静かに共存していた。


 誰も知らない。


 この穏やかな笑顔が、やがて失われようとしていることを。


 信頼が疑惑へ変わる日を。


 平和が崩れ去る日を。


 そして、帝国を包む穏やかな日常が、終わりへ向かって静かに歩み始めていることを。

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