第98話 アルバス国王からの通達
少し高い夕日が芝を照らす頃。私たちの車は、ブライアント領とシャーロット領の境目に着いた。
もちろんそこには門番が立っている。そこで、退領手続きをした。
同時に、ライガンの所在地変更も行う。ここは、私のお父様の出番。
「エルヴィン・シャーロット様。お疲れさまです。これで、ライガン・レーシス様はシャーロット領の住人となりましたこと、ご報告いたします」
「ありがとう。みんな、家まであと少しだ」
お父様が車に乗り込むと、シャーロット領の扉が開いた。
二台の車がくぐる。まるで、一年くらい遠出したみたいだった。
「ねぇ、メウス」
「なに?」
「明日。メウスの誕生日だよね」
今日は月光の月六日。明日七日はメウスの誕生日。
日本で言えば米寿になる。本当にご長寿様様。
「私から、プレゼントなんだけど……」
「う、うん……」
私は、空間を開く。そして、あるものを取り出した。
「ユリのドライフラワー?」
「うん。実はね、リーファ家の裏手にユリが咲いてたの。そこで、何度も試して初めて完成したドライフラワー。メウスが喜んでくれるかな? って」
「……」
メウスは黙り込む。やっぱり、香水の方が好きなのだろうか。
そもそも、今メウスは運転をしている。この状況で受け取れるはずがない。
私は、彼の隣に座った。自動車で言うところの助手席みたいな場所。
夜のシャーロット領。夏のそよ風が、畑の草を撫でる。
「ミカエラさん?」
「う、うん……」
「僕、ミカエラさんといられるのがとても嬉しいです」
「うん……」
私のことを慰めているのか、エレンの手がポンと肩に乗る。
だけど、その手はものすごく冷たかった。まるで氷のように。
「少し、涼しくなりましたね」
「真夏なのにね。そうか。あと二ヶ月したら、グラーシア領に行くんだね」
「そうだね。ぼくも楽しみだよ。だって、グラーシア領の本は専門書だらけって噂だしね」
「メウス。専門書だらけって、言い過ぎですよ。でも、メウスが言うならその通りかもですね」
これから何が起こるのか。ものすごく楽しみ。大地の月十月。その時は、刻刻と迫っていた。
ここで、学んだこと、それ以外のこと全部。世界丸ごと知りたい。
だって、本を読むのが好きだから。
「ほら、ミカエラ。もうすぐ自宅に着くよ」
「あ、ほんとだ!」
「おい。誰かいるぞ!」とレイ。
見えてきたシャーロット公爵家。そこには、三つの人影があった。
どんどん近づいていく、そこには二人の男性と一人の女性。
「もしかして、ファリアさんとニックさん?」
「ファリアの弟のレゼルさんもいるね」
公爵家の前で車を停める。降りると、三人が駆け寄ってきた。
「おかえりなさいませ、シャーロット公爵家の皆さん」
「ただいま。でもなんでファリアさんたちが?」
「ええ。メウスさんにこれを渡しにまいりました」
ファリアが服のポケットから紙を取り出す。それを受け取ったメウスは、少し困惑した表情を見せた。
「アルバス国王からの通達だ……。ええと、『近年の勇者不足解消に関して力を借りたい』?」
「それって……」
「緊急依頼だね。まずは人材選定からしてほしいみたい」
それなら、いや、考えてはダメ。
「期限は?」
「大地の月二十日だね」
「十月二十日か……。出発は大地の月一日だったよね?」
「うんそうだね」
それまでに、資料を集めないといけない。大丈夫だろうか。
グラーシア領の図書館は、ゼレスリシアで二番目に大きい。
その本の中から、魔族との関係にする本を探す必要があった。
「メウスさん。時間の猶予はあります。ですが、これは……」
「ゼレスリシアに魔族の軍勢が攻めてくるかも。ってことだね……」
「メウス。大丈夫なの?」
「ううん。問題。大問題」
メウスの表情がより一層暗くなる。本当に危機が迫っているようだ。
異世界からの勇者。正確には、私が元いた世界の召喚者。なんだと思うけど……。
それによって力量も試されてくる。
まるでガチャを引くように。当たり外れが激しい。
これも、前世で読んだ本にあった気がした。
暗い外での立ち話。日はまだ沈み切ってないけど、どこか寂しい。
生暖かい風が吹く。それが肌をさする旅、これからまた長くなるんだろうと予感させる。
「皆さん。会って早々ですが、ボクたちは帰ります。明日は雨がすごいそうなので気を付けてください」
「ありがとう。ニックさん。レゼルも勉強がんば……」
「メウス先生! メウス先生が書いた料理本読みました! どれも美味しそうで、レシピも細かくて。早速料理長に直談判して作ってもらいましたよ! まず驚いたのはカレーです! あそこに牛乳を入れるとは思いませんでした! その、あと他にも美味しそうなものが沢山あって。えーと……。その……。料理本持ってきちゃいました! 血判いいですか? もうすでに押してある状態ですけど、もう一つ押す場所があったので……!」
「あ。それね……。ぼくの血判を押すところじゃなくて。ミカエラの血判を押すところ……」
「へ?」
期待を裏切られたらしいレゼル。ポカンを口を開いて固まっていた。
「ミカエラの血判を押すと、極秘レシピが見られる仕掛けなんだ。どうする?」
「ぜ、ぜ、ぜひ! ぜひ見たいです……!」
「よし。ミカエラ。押してあげて」
「はい」
私はメウスから針を受け取り、左の人差し指に刺す。プチりと血管が切れ、血が滲んだ。
そのまま、血判を本の円に押す。すると、少しだけ本が厚くなった。
「ありがとうございます! 大事にします!」
そうして、ファリアとニック。レゼルは馬車に乗り去っていった。
家に入ると、懐かしい匂い。本当に、返ってきたんだと思ってしまう。
「では、夕食にしましょ。レイラ、お手伝いよろしくね」
「わかったわ。お母様」
レイラはお母様より先に台所へ向かう。
「ミカエラはお風呂の薪入れお願い。今日はみんな汗かいているでしょうから」
「わかりました。お母様」
私はお風呂の薪を集めるため外に残った。
「僕は外で夜の素振りをしてきます」
「オレが相手をしてやる」
「では、私は審判でもするかな?」
「エルヴィンさん。これは勝負事ではないですよ」
「おおっと、そうかそうか。すまない」
お父様とレイ、エレンは裏手へ回り、鍛錬をしに。
そして、メウスは一度天界へ行くと言い。空へ昇っていった。
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