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【第2部開始!】サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第97話 謝罪のライガン

 リーファ家滞在最終日。今日は早朝からメウスと一緒に加工場へ来ていた。


 今日の午後にはシャーロット公爵家に帰る。そんな短い時間の中、作業中。


 メウスはあれから自分の過去と別れることができたのか、ものすごく楽しそうに作業をている。


「メウス。間違って魔力全損しないでね!」


「わかってるって。だけど、ぼくが捌いた肉を食べてもらう姿を想像するだけで……」


 そんなことを言いながら、次から次へと仕事を進めていく。


 いくら神でも、元はと言えば酪農家の息子。常に動物と暮らしてきている。


「おや、メウス。今までと表情が違いますが、どうなされたんですか?」


「あ。え、ハイ。ミカエラからのアドバイスのおかげで……。アメジスは、どう?」


「こちらも順調です。それにしてもミカエラさん。よくあの魔族を味方につけましたね」


 そうだ。ライガンも今では仲間なんだ。私はそんな彼を忘れていた。


 ライガンは今、乳牛の身体を洗う仕事をしている。


 彼も彼で動物が好きらしい。アメジスさんやその家族を監禁したのは、動物を独り占めしたかったからだそう。


 そんなことをしなくても、共存を選べばいいのに。そして、わざわざアメジスさんにならなくてもいいのに。


 それだけ、彼はここが気に入っているらしい。


「ちょっと私ライガンの方見てきます」


「わかった、オレが案内する」


「ありがと。レイ」


 私はレイの追従能力を利用し、地に足をつかずにライガンのもとへ移動した。


 案内された場所は乳牛がいる牛舎。この敷地の施設で私が初めて訪れた場所だった。


 ライガンは大きなブラシを持って、牛の身体をゴシゴシ洗っている。


 そんな彼も、にっこり笑って楽しそうだ。


「ライガン! おはよう!」


「おはようございます。聖女様」


「もう、やだなぁ。たしかに私は聖女だけど」


「その顔こそ聖女らしくて、羨ましいです」


 昨日までは軽蔑して、嘲笑っていたライガン。だけど、今では完全に裏返っている。


 裏返ったからこそ、手伝ってくれている。


 私もそんな彼を気に入っていた。だって、見た目が好みだから。


 長身で。細身で、リザークほど肉付きは良くない。


 赤褐色の髪。長く伸びた前髪の先を右側の髪にピンで繋げている。


 その輪から覗く片目は、髪と同じ赤褐色で反対側はモスグリーンのオッドアイ。


「ライガンさん。手慣れてますね」


「そうですね……。実はもっと昔からここで働いておりましたので」


「では、なぜ?」


「それが……今ここで言っていいのかわかりませんが……。アメジスさんがメウスに会いたいと、しばらく前から言っていまして……」


 なるほど。


「メウスと会いたいなら、彼がどうしても行きたいと思えるシナリオを作らねばと」


 そういうことだったんだ。なんて言えない。彼は一種の犯罪者だから。


「でもやりすぎだとは思いませんか?」


「そうですね……。少々やりすぎました。それと、昨日の聖女様。ものすごくかっこよくて……」


「は、はぁ……」


「ゾッコンですよ。そりゃ。お嫁さんにもらいたいくらいです」


 どうしようもない人だ。私は軽蔑してきて第ゼロ印象から最悪の彼とは結婚なんてしたくない。


 加えて、メウスは歳が離れすぎている。一番適任なのはエレンくらいだと思う。


 リーファ家のある場所は、ものすごく広大な敷地だった。


 ここには寮もあるようで、ブライアント公爵家からの支援金をもらいつつ営業している。


「でも、ここが危機的状況にあったのは本当なんですよね?」


「ああ、そうだよ。少しでも人員確保ができればいいと思ったが……。やはり『メウスの力が必要だー』ってアメジスさんがうるさかったんです」


「だから、人を襲って、奴隷のように扱っていた……と……」


「どどど、奴隷なんてとんでもない。まあ、痛いところはついてますけど……」


「では、奴隷だったんですね」


 結局罪に罪を積み重ねていただけ。その罪状はどれほどのものか。


 いつかライガンを国王であるアルバスに突き出したいくらいだ。


 そうすれば、それ相応の天罰が下るだろう。


「聖女様。桶の水を新しいものに変えてもらえますか?」


「わかりました」


 ライガンに手伝うよう言われ、私は風魔法を使い桶を持ち上げる。


 風魔法は私の得意な属性。小さい時から使ってきたから、感覚を掴んでいる。


 井戸に着くと、桶の水を外に捨てた。井戸から新しい水を汲み、桶に入れる。


 再び風魔法で持ち上げ、ライガンのところへ戻った。


「ありがとう。ミル。聖女様が水を持ってきてくれましたよー」


「ミル?」


「はい。この牛の名前です。この子は昔からあまり成長がよくなくて、ようやく乳を作れるようになったんですよ」


「そうなんですね」


「むおおおおお!」


 ミルは嬉しそうな顔で鳴いた。背中を必死にこするライガンは、まるで父親のよう。


 頭の角もなんだか親子みたいに見えてくる。


「ミル。今日でお別れです。わたくしが戻ってくるまでに、生きてくれているか……」


「ライガン。ミルのこと大好きなんですね」


「ええ。この子が生まれた時から知ってますから」


「そうなんですね。本当に、親子みたいです」


「よく言われます」


 ライガンはミルの後ろ側に回り、お尻の方をこすり始める。


 少しくすぐったいのか、ミルの鼻息が荒くなった。そこが、本当にかわいい。


「ライガン。昨日と全然違いますね」


「そうですね。本当に、昨日は申し訳なかったです」


「いえいえ、ライガンさんのキレのいい脅し文句。まるで、小説や漫画で出てくる悪役みたいでした」


「その……。小説はわかるのですが……まんがとはなんでしょう?」


 ヤバイ。漫画はこの世界に存在しないんだった。思わず前世の知識を使ってしまったこと、完全に失敗した。


「今度私が描きますよ。これでも絵は得意なんです」


「では、楽しみにしておきます」


 こうして、午前中の作業は終わり昼食を経て帰路につく準備を進めた。


 ライガンが加わったことで乗車人数をオーバーしてしまったので、リザークも呼んでいるらしい。


 メウスの車には私とエレン。レイラとティア。リザークの車には両親とライガン。


 レイはどうしたって? 彼は、並走して移動するらしい。銃には体力も関係ないようだ。


「では、アメジスさん。お世話になりました」


「はい。私もメウスさんや、そのお仲間たちに会えて嬉しかったです。どうか、ライガンさんをいじめないでくださいね」


「もちろんです」


 アメジスさんと、加工場のお婆さん。そして、他の従業員は皆、目に涙を抱えていた。


 ライガンは本当にいい人として見られていたらしい。彼の手元には、巨大な麻袋が握られていた。


「アメジス。本当にこんなもらっていいのですか?」


 ライガンはアメジスさんに問いかける。


「はい。出世祝いです。ミカエラさんたちと旅に出るのでしょう? それで装備を買ってください」


「し、しかし……」


「きっと、ミルも応援してくれてますよ」


「わかりました。絶対。皆さまのところへ帰ってまいります」


 っと、そこでライガンも涙をにじませ始めた。本当に仲が良かったんだと思う。


 そうじゃなければ、昨日のようなことが起こらない。信頼からの作戦決行。だったのかもしれない。


「皆さん。帰りますよ」


 お母様が言う。最後に車へ乗ったのはライガンだった。


「『短い間。ありがとうございました!』」


 全員で挨拶をすると、二台の車はシャーロット領に向けて走り出した。


 きっと、暗くなったころには着くだろう。

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主人公の活躍がみたい方は!!!!!


ぜひ第1話からご覧ください!!!!

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