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【第2部開始!】サイレンスキラー 〜動物すら殺せない転生公爵令嬢は、やがて救済の暗殺者となる  作者: 八ッ坂千鶴
第1部 サブストーリー集

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第96話 怒りの聖女

 私とティアは、家の裏手にある小屋の前に立っていた。


 中から『ふぅー、ふぅー』という、か細い呼吸が聞こえる。


「ティア、火力弱めでメルシア」


「了解! メルシア」


 ティアは手を銃の形にして発射した。メルシアは、下級銃弾魔法。


 小さい範囲だけをピンポイントで燃やせる火属性魔法だ。


 正確には、メルストの銃弾版ってところだと思う。


「扉が開いたね。アメジスさーん!」


 私は小屋の中へ入った。そこには床に横倒しとなった人々。


 私は、火魔法でロープを外していく。口元のテープをはがすと、みんなの顔がはっきり見えた。


 その中の一人。本物のアメジスさんが私の顔を見る。


「君は誰だい?」


 そうだ。本物は私のことを知らないんだ。


「ミカエラ・シャーロットです。メウスの友人です」


「なんと! メウスさんが帰ってきてたんですね! 会いたかった……会いたかったんだよぉー」


 アメジスさんは、ガッツポーズをして喜びを表現する。それがどことなくメウスに似ていた。


 やはり血縁関係があるんだなと、ふと思ってしまう。


「みんな、こんな薄暗い場所を出て、久しぶりの食事を楽しむぞ!」


「『おー!』」


 アメジスさんたちは、それぞれで片づけを始める。


 その作業は、ものすごく早かった。まるで隙が無い。


 すると、一人の女性が私のいる方を見て目を見開いた。


「ミカエラさん! 後ろ!」


「ッ!?」


「ぎゃはは! あれで死んだと思ったのか! 小娘ちゃんよぉー!」


 私の耳元に狂気の吐息が吹きかかる。


 ゆっくりと目を向けると、頭に湾曲の角を生やし、口角を異様なほど上げた男性。


 さっきまでこんな男性はいなかった。魔力を確認するが、膨大すぎて測り切れない。


 そういえば、メウスが『魔力が膨大だった』と言っていた。


「もしや、今回の……」


「おやおや。今日の獲物は冷静すぎて面白みがないねぇ。偵察で来た割にはそっけなさ過ぎて、反吐が出るわ!」


 男性はその後高らかに奇声をあげる。耳にギーンと響く声。私の苦手な音。


 ティアも嫌いなのか両手で耳を塞いでいる。


「さっきはお仲間ちゃんの攻撃かなぁ?」


「それが何? それ、人を監禁して言う言葉?」


「うぉー怖い怖い。見てみりゃ巷で噂の不殺聖女の暗殺者じゃないか……なぁ?」


 世間ではそんな風に言われているんだ。私のこと。


 私は誰かを救うために殺す。もちろん根拠あっての人殺し。


 それしか能がない。そんなことはわかっていた。


 だけど、この状況で私が殺せる可能性は低い。私も、命の重みを理解している、つもりだった。


「ティア。銃に戻って」


「え、でも……」


「大丈夫。この場は私が治める」


 直後、まばゆい光が視界を遮った。私は両手の平を上に向ける。


 手に収まるように置かれたヘカート。この武器は至近距離戦に向いていない。


 だけど、私には他のやり方がある。


ハイネスト(吹きすさべ)!」


 私は風の上級上位魔法を唱えた。すると、小屋はミシミシを音を立て、爆散する。


 壁も、屋根もない状態。魔族は、遠くの方へ吹っ飛んだ。


「この距離なら」


 幸いにも、私の家族は安全な場所まで避難したようだった。


 銃を構える。脈動する心臓を無理やり抑え込む。


 緊張している。額に汗が流れる。雫が冷たい。


パリリス(痺れろ)!」


 ヘカートから発射される黄色い銃弾。麻痺魔法の中級上位魔法でパリスの上位互換。


 銃弾は、敵の身体に命中した。身体がびくびくを動き痙攣している。


 あとは命を終わりにすればいいだけ。それが、私の苦手な部分だった。


「ミカエラさん……」


 後ろのアメジスさんが私の名前を呼ぶ。


 まもなく麻痺魔法の効果が切れる。カウントダウンは始まっていた。


 照準が合わない。殺さないといけない。だけど、殺せない。


 心臓の音は、自分の耳まで聞こえてくるようだった。


「ミカエラお姉ちゃん。大丈夫。あたしがついてる」


「ティア……」


 それはティアが『頑張って』とでも言っているようだった。


 覚悟は決まった。私は深く深呼吸をする。


 私ならできる。そう願って。


「ホーリス ランブル バーン!」


 たった三つの詠唱句。勢いよく発射される純白の銃弾。


 ホーリスはこの世界の歴史上、聖女のみが使えるらしい光魔法。


 そして、魔族が嫌いとしている猛毒。銃弾は、魔族の身体をどんどん貫通していく。


 そのまま、息絶えたのか、ぐったりと倒れた。


 私はゆっくり魔族の方へと向かう。空間から刃渡り数十センチのナイフを取り出し自分の血を塗りたくった。


「や、やめろ……! それだけは!」


「償いなさい」


 私は聖女。聖女の血は魔族が最も嫌う神聖なもの。魔族に対する殺傷能力は計り知れない。


 ナイフの刃を魔族の首元に押し当てる。一回斬るだけ、それだけで十分。


 殺しはしない。それが自分のルール。やがて黒い血が流れ始める。


「やめてくれーーー!」


「なら、今すぐここから消えて。それだけ、守れるなら殺さない」


「わかった。わかったってば! 申し訳ございません。聖女様!」


 ようやく断念したのか、両目に大粒の涙を流す魔族。


 これで一件落着。私はナイフを立てるのをやめて、片づけた。


「これで少しは理解してくれた? 私はたしかに聖女。だけど、同時に命を奪う仕事もしているの」


「わかっています。軽蔑してしまった、自分こそ申し訳ない気持ちでいっぱいで……」


「今回は不可抗力ってことで。名前は?」


 このタイミングで名前を聞くのは悪い気がした。でも、彼は今後いい方向に動いてくれる。


 そう、私の勘が言っていた。


「ライガンです。ライガン・レーシス」


「ライガン。いい名前だね」


「そんな……。いや、聖女様に言われるなんて。身分的にも違和感が……」


 ライガンには、一緒にシャーロット公爵家へ来るように伝える。


 しばらくは彼も冒険者仲間として参戦してもらおう。


 知らない間に後方を陣取った彼は、工作員として適任。


「ライガン。今日からあなたは私の仲間。明日には私は帰路につく」


「ええ。ええ! わかりましたとも。どこまでも付き合います」


「それでよし。じゃあ、最初の仕事。リーファ家の者の中から怪我をしている人を中心に」


「中へ移動させればいいのですね! ですが……今家の中は入りたく……」


 そうだった。今家の中は魔族が苦手とするユリの香りに満たされている。


 これでは……ライガンが入れない。いや待って……。


「ライガンさんも入れますよ」


「しかし……」


「私にいい方法があるんです」


 すると、ライガンは怪我人を複数人抱えた。


「聖女様が考えるいい方法とは?」


「ちょっと痺れると思いますが……」


 私は自分の血をライガンの鼻の頭に付けた。


 同時に加護を発動させる。すると、ライガンの身体を覆うように膜ができた。


「これで入れると思います」


 その後、リーファ家の住人に満腹級の食事を提供した。


 午後は各自仕事。ライガンも必死に働いてくれた。


 これで本当に事件が終わった。そうか。もう明日帰るんだ……。

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主人公の活躍がみたい方は!!!!!


ぜひ第1話からご覧ください!!!!

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